2008年4月15日 (火)
第39話「ニュータイプ、シャリア・ブル」
冒頭のナレーションで語られる単語はこういう字を書く。乾坤とは「天と地」を意味し、サイコロを投げて天地どちらの目が出るか大勝負に出ることを指す。戦記ではおなじみの単語。連邦軍がソロモンを攻略し接収したのは、ジオン本国への総攻撃への賭けに出たということを意味するが、もちろんジオン軍側も認識は同じである。
【戦場に出たエルメス】
名前のみ先行していたモビルアーマー“エルメス”がソロモンへテスト攻撃をしかける。ただし、遠隔誘導されるビットの存在は明確にされていない。その分、アムロが感じる「きらめき」「真紅い宇宙」や「宇宙と海のように溶けあうララァの意識」など精神感応の映像が際だつ。ララァの疲れを気遣うシャアにも注目したい。
【ニュータイプの明確化】
「シャリア・ブルに関するニュータイプの発生形態」というフラナガン機関の報告書名が登場。これはジオン側ではかなり以前から研究が進んでいたという証拠でもある。
【木星帰りの男】
後にガンダムシリーズ定番となる表現。エネルギー船団を率いてヘリウム資源をジオン公国に持ち帰ったシャリア・ブル大尉が第1号だ。木星は太陽になり損ねた大質量の惑星で、宇宙開発の資源として注目されている。
謁見するシャリア・ブルの言動に注目。最初はギレンの話題を先読みしたが、キシリアのもとへ送る意味を問われたときには、言葉を選んでいる。「わたくしには閣下の深いお考えはわかりません。しかし、わかるように努力するつもりであります」という彼の回答は明白なウソで、ギレンがいずれ彼女を排除したいと考えていることが見えたに違いない。とはいえ、それを明言すれば自分も政争に巻きこまれて道具にされる。だから言葉を選ぶ必要が出たわけだ。
【空母ドロス】
ジオン本国から発進し、おそらく「虎の子」的に温存しておいた勢力と思われる。最終的にはア・バオア・クーの守備について活躍することになる。
【シャリア・ブルとシャア】
続いてシャア大佐に接触したシャリア・ブルは、「わたくしは大佐のようなお方は好きです。お心は大きくお持ちいただけると、ジオンのために素晴らしいことだと思われますな」と語る。続いて彼の「ニュータイプ全体の平和」をシャアは「人類全体のために」と、あえて読み替える。「ザビ家のために」ではないという意味だろう。つまり、シャアがキシリアを利用して「ニュータイプの時代」を招来し、その後には彼女をも討とうと計画していると取れる。シャリア・ブルは最終的に誰かの道具となる可能性を疎ましく思ったのか、出撃を早めて死に急いでしまう。ラスト近辺のシャアのセリフが彼の心情を説明するが、この一連を補助線として使うことで、シャアの最終回に至る行動原理は非常に明解になっていくはずだ。
【セイラの決意、ハヤトの決意】
セイラは兄からもらった金塊をブライトに渡す。一方で負傷を押してハヤトも再出撃し、ブラウ・ブロと交戦する。クルーたちは、ホワイトベースで戦いぬいて仲間とともに生きのびようと各人各様に、自然と決意を固め始めたのである。こうした前振りが最終回の感動に結びつく。
【誘導距離の調整】
ララァの疲れの原因は、ビットとの距離を取りすぎて脳波を受信する電圧が逆流したと判明し、伝達距離が短めに再調整される。この結果として、第41話でガンダムとエルメスがニアミスするという事態を招く。シャアの判断ミスかもしれない。
第33話以来の登場。そのときも使われた有線誘導によるオールレンジ攻撃はシャリア・ブルのニュータイプ能力を得て本格稼働し、ホワイトベースのクルーを苦しめる。しかし、実はララァの拝領したエルメスの方がジオン軍にとっては本命であることが、キシリアのセリフなどで語られている。やはりシャリア・ブルの運命は、必然だったのだろう。
【ガンダムの応答速度】
ガンダムの操縦系がアムロのスピードについてこれず、オーバーヒートを起こす。シャリア・ブルに賛辞を送られるほど優れたアムロの反射神経は、進化しすぎてその受け皿を失ってしまったのだ。この深刻な事態を抱えたまま、ドラマは次回へともつれこんでいく。
氷川竜介(アニメ評論家)
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