2008年4月8日 (火)
第38話「再会、シャアとセイラ」
今回はコロニー外壁に起きた爆発シーンから始まる。ギャンの爆発を外側から見たものだ。第1話でザクが起こしたのと同じ現象で、破棄されたコロニーゆえ空気の流出は止まらない。そのため今回の大半のシーンで砂嵐が発生している。
【フラウの心労】
「アムロは大丈夫」と請けあうミライに対し、フラウ・ボゥは疑問を投げかけ複雑な表情を見せる。第36話のハヤトとの会話と同様に、ニュータイプへと変わりつつある人たちに対して置き去りにされたように感じたのだ。アムロへの想いに関する不安も入り交じっているかもしれない。後にブライトから声をかけられたとき彼女が放心していたのは、肉体疲労だけが原因ではないだろう。彼女がアムロからハヤトへ心を移したであろう最終的な描写(第42話)に関し、重要な過程が描かれているのである。
【背後からしかけるシャア】
シャアのゲルググはガンダムを後方から射撃し、アムロに疑念を抱かせる。あえて卑怯な戦法をしかけたのは、アムロの資質を試すため。「やっかいなことになりそうだ。ガンダムのパイロットもニュータイプだとはな」というシャアのセリフで、いよいよ物語はニュータイプ中心へと推移していく。
【慣らし運転】
ゲルググはガンダムを意識して投入された新鋭機。しかし、届いたばかりでシャアも思うように乗りこなせていない。自動車と同様に「慣らし運転」が必要だという事実が、モビルスーツに機械的なリアリティを与えている。
暗礁に隠れたホワイトベース。ジオン軍側のデラミン艦長の艦隊は高速重巡チベにムサイタイプが2隻とジオン軍が優勢。しかし、戦力差が微妙なためブライトもデラミン艦長も「先に動いた方が不利になる」と判断し、ジオン軍側はバロム司令艦到着による戦力差の増強を待とうとする。ワッケインのマゼランがバロムのチベを迎撃したことをきっかけにデラミンも援護に動かざるを得なくなり、艦隊はあっけなくホワイトベースとGファイターに沈められる。「恐ろしいものね……均衡が破れるということは」とはミライの言だが、逆にラストではワッケイン艦がシャアのザンジバルに撃沈されてしまうのだ。こうした戦いの駈け引きが、話のバックボーンに重みを与えている。
【ニュータイプ論の登場】
父ジオン・ズム・ダイクンの末期を回想するシャアとセイラ。シリーズ中初めて真っ正面からニュータイプの理念が語られる。「お父さまのジオン様が、なぜジオン共和国をお創りになったのか? それは、ニュータイプとして再生する人類全体の未来を考えてのことでございます」というジンバ・ラルのセリフによって……。ジンバ・ラルとは、第20話でランバ・ラルの父として出た名だ。兄の動きがニュータイプに関係すると知ったセイラは「ジンバ・ラルは、ニュータイプは人類全体が変わるべき理想のタイプだと教えてくれたわ。だったら、ニュータイプを敵にする必要はないはずよ」と反駁するが、その願いはすでに兄には届かない。セイラの絶望が痛々しい……。
【デギンの指輪】
ジオン・ズム・ダイクンの手をとるデギンの指輪が光り、ぐっと押しつけるアクションがある。「指輪で毒殺」とも取れるよう描かれているのだ。
フラウ・ボゥの代行で、通信兵の役目をするブライト。艦長の自覚ができたシリーズ後半では、他の人間を気遣う優しさが随所に描かれていて頼もしい。しかし、それが偶然セイラがシャアに語る言葉を傍聴することにつながってしまう。直前までブライトと会話をしており、セイラが傍聴に気づいていないはずはないのだが、それだけ気が動転していたに違いない。
【感極まる声の演技】
今回のラストシーンは全編通じて屈指の泣かせどころ。セイラは兄の手紙を読み、これまで張りつめていたものが切れたかのように嗚咽を始める。彼女の時に他人に厳しすぎた態度は、自分の内面にも向けられていたのだろう。井上瑶の演技も出色で、それを優しく包みこむ永井一郎のナレーションとの相乗効果によって、このエピソードに大いなる涙のカタルシスを与えてくれる。
氷川竜介(アニメ評論家)
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