2008年4月1日 (火)
第37話「テキサスの攻防」
ドズル中将麾下の宇宙攻撃軍は事実上壊滅し、ガルマに続いて実子ドズルを喪ったデギン公王だったが、その反応は冷ややかであった。ギレン総帥はキラ星のごとく居並ぶ高官達の前でア・バオア・クーを最終防衛線とすることを宣言する。ガルマの国葬のときと比べ、ジオン公国が敗北に向け衰退しつつある描写であり、ここでギレンの殺意の萌芽も観察できる。
【アムロの成長】
アムロを診察するフラウ・ボゥ。久々の会話だと言うが、今までとの微妙な変化に注目してほしい。「弱虫のアムロなんて見たくもないし、みんなこうして大人になっていくんでしょ?」というセリフは、第9話や第19話の2人の関係と比べると、実に意味深。事実、サイド6の出来事を聞かれて本当のことを言えずにごまかすアムロは、確実に大人になっている。アムロのこうした精神的成長とニュータイプの覚醒の同期は、見逃せない重要ポイントだ。
キシリア少将に依頼して作ってもらったマ・クベの甲冑。しかし、その戦い方はパイロットの性格を反映して、あまりにも姑息だ。幾重にも罠を仕掛け、遠隔攻撃ばかりを繰りかえしてアムロに「こいつ、小賢しいと思う」などと言われてしまう始末。シールドをニードル・ミサイルで爆装しているのも奇妙だが、小型爆弾も内蔵しているため、ウェポン・ベイという見方もある。
【砂漠化するコロニー】
戦略上の価値がないとして放棄されたテキサスは、暗礁空域となっている。小惑星を利用した艦隊戦があるのも今回のみどころ。人工の大地は人の介在がなければミラーの調節も利かず、たちまち荒れてしまうことがシャアの言葉で語られる。しかし、そんな無重力の空間でもネズミはたくましく生き抜き、その描写から馬車馬やバッファローも人に取り残された動物たちだとわかる。そんな宇宙世紀の世界の厚みが、積みかさねられているのだ。
【シャアのポリシー】
ゲルググで出るシャアは、死にたくない一心で戦闘服やノーマルスーツを着用しない主義だと告げる。その言葉を聞いたララァの信頼に充ちた嬉しそうな表情に注目。第41話のキスシーンで、逆に不安な予感にとらわれノーマルスーツ着用を懇願するララァと対置されているのだ。
アムロの戦い方を見て、「勘がいいのか? それともあの新しいタイプの奴なのか?」とマ・クベは言う。これが本編中で「ニュータイプ」に関する具体的な発言の最初期のものである。シャアがニュータイプ部隊構想をキシリアに上申し、戦後まで含めた動きを始めたという事実を、マ・クベなりに察知していたということも意味している。
【拡大するアムロの戦闘力】
アムロの精神力は、戦いを媒介として何度となくララァと共鳴を始める。まるで恋人同士が互いに触れあったときの感触だというララァの言葉は、後の三角関係的な展開を考えると聞き逃せない。ギャンを仕留める瞬間、現実音が皆無となって抽象的な世界に行ってしまう音響演出も、精神的感応をうまく表現している。
【マ・クベの遺言】
「ウラガン、あの壺をキシリアさまに届けてくれよ、あれはいい物だ……」というあまりに有名な末期の言葉。最期の瞬間にいたって一番大事なものに気づくという演出は、ガルマの死にも共通する。計算高い建て前だけで生きていると、自分で自分を殺しかねないという警告もここには含まれている。ちなみに第17話の壺とは別のもの。
氷川竜介(アニメ評論家)
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