2008年3月25日 (火)
第36話「恐怖!機動ビグ・ザム」
連邦軍は国力に基づく物量戦で宇宙要塞を制圧し、ジオン本国を追いこもうという方針だ。そのために量産されたのがジムとボール。圧倒的な物量がソロモンへ投入される映像が反復され、決戦ムードを盛りあげる。
【バンマス曹長】
ブライトの気遣いでミライと交代した操舵手。語源はバンドマスターの略で、富野総監督が当時レコード制作に立ち合ったとき覚えた専門用語であろう。
【謎の装置】
スレッガーは「フエールポンプ」の修理指示を出す。「FUEL(燃料)」のことなら発音は「フュール」なのだが……。彼の出身地ではこう発音するのかも?
【スレッガーの指輪】
スレッガーはミライの気持ちを受けとめることを回避しようとする。問題はここで彼が出す「母親の形見」と称する指輪。どことなく違和感が漂っている? 実は安彦良和が放映直後に描いたイラストでは母親は存命。浮ついたミライの気持ちを収めるため、とっさに信じやすいウソをついた可能性が大なのである。人生経験豊富なスレッガーならではの恋愛の機微で、そう考えるとキスの意味も微妙に変わって見える。
「右のミサイルが薄いぞ、手を抜くな!」とブライトは指示を出す。少なくともここでは有名なセリフ「右舷弾幕薄いぞ、何やってんの!」などと言っていない。他に弾幕と言っている箇所は第28話「左舷、弾幕を張れ!」、第41話「弾幕を張れ!」などがあるが、このセリフがどこかで合成されて伝わったのだろうか? または以後の他作品の印象と混同されているのではないだろうか?
【ビグ・ザムの巨大感】
これまでにない超巨大サイズの兵器ゆえに、全貌がなかなか認識されないという演出が徹底されている。硝煙に霞んで姿は見えず、フレーム内には身体の一部しか入らない。アムロが発見したときも、メインスラスターの噴射煙しか見えず、ガンキャノンが一部に衝突してもカイは何が起きたか意味不明という始末だ。こんな積みかさねがあるからこそ、ビグ・ザムの脅威の大きさも圧倒的なものとして伝わるのである。
【戦場の立体感】
危急存亡のときにあるソロモン要塞で、「人と人の気持ちのつながり」が軸になって映像を紡いでいることに注目。ビグ・ザム内のドズルが妻と娘に気持ちを向けるとカメラはPANしてソロモン上空の虚空を写す。一方で脱出艇を巡るバロム大佐とマ・クベ司令の衝突があり、救助の意味も浮きたつ。その脱出全体が、要塞放棄時の兵士の気持ちにつながるという具合に、情感が立体的に編み上げてある。こんな心理描写が決戦を、単なる機械のつぶし合い以上の「人の営み」に見せているのである。
【姿を現すガンダム】
ビグ・ザムへの特攻は、スレッガーのGファイターがガンダムを守る強化装甲として一体化することで成立している。ビグ・ザムがGアーマーを潰したと思った瞬間、奥からガンダムの上半身が出現するシーンは、ヒーロー性と「味方の屍を乗りこえていく」戦場のシビアさが混然となって、何とも言えない気分にさせられる。それを受けたアムロの「これでもか!」と武器をたたき込む気迫も圧巻だ。
銃を手に取りガンダムを撃つドズルのセリフは、最初は「やられはせんぞ」と受動態だが、すこし間をおいて「やらせはせんぞ」と能動態に変わる。銃を連射するうちに気持ちが高揚して、自分の意志で敵に勝とうと変わっているのだ。悪鬼のイメージの噴出も、この感情の変化の流れに則ったものと言える。
【初めて流れる挿入歌】
マチルダ役の戸田恵子による挿入歌「いまはおやすみ」が決戦を終えたホワイトベースの点景に重なり、修羅を乗りこえた安堵感を増幅する。これは戦地へ兵士を送り出すフラウ・ボゥのような凡俗(平凡な人)の気持ちを歌った曲だ。傷つき疲れた兵士達の各人各様の姿が戦火の激しさを物語る。重力ブロックに隠れ人気キャラのマサキ看護兵がいることも見逃せない。
氷川竜介(アニメ評論家)
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