2008年4月29日 (火)
第41話「光る宇宙」
『ガンダム』の原点のひとつである『無敵超人ザンボット3』衝撃の最終回が「燃える宇宙」である。ガンダムのクライマックスが本エピソードだという一種の「覚悟」のようなものが、サブタイトルからひしひしと伝わってくる。
【ギレンの秘書】
「技術顧問のアサクラ大佐からです」とギレン総帥を呼ぶ女の声。台本上は役名がないが、小説版と劇場版に登場するギレンの秘書セシリア・アイリーンだと思われる。
【手の震えの謎】
キシリアに謁見するシャア。作戦の話の前に「お前の打倒ザビ家の行動が変わったのはなぜだ?」と、キシリアはズバリ切り出す。シャアは自分の正体が知られた恐怖を「手の震えが止まりません」と表現するが、画面上では震えているように見えない。シャアは猿芝居を打っているのである。「胸中懐に飛び込めば……」という言葉のごとく自分をわざと弱い立場に見せれば、交渉を優位に運べると思っているのであろう。
【そのあとのこと】
キシリア側のセリフも意味深である。「ギレンはア・バオア・クーで指揮を執る。そのあとのことはすべて連邦に勝ってからのこと」というのは、ギレンを打倒し、ニュータイプを統率して新たな建国をするのは良いが、その過程でシャアがキシリアごと討とうとしても無駄だと、釘を刺しているのであろう。
【とんがり帽子】
エルメスのコードネーム。アムロ自身も互角に戦えるのは自分しかいないと自分の実力が向上していることを認めているが、望んだことではないのがニュータイプ悲劇性を強調している。
【唇を確認するララァ】
出撃直前、シャアに抱擁されキスを受けるララァ。大佐への心配をノーマルスーツの着用を願うことで表現する。そして、唇に残った感触を手で確認するララァ。今回主眼となるララァの悲劇は、アムロと精神的には交歓できたものの、結局はシャアとの肉体関係を優先したことが原因だ。落着点への伏線は、この「肉体的接触」で自然に埋めこまれているのだ。
発進指示をするミライに、ブライトは何ごとか気づき、言いかけてやめる。アムロの「これだけ戦いぬいてこられたホワイトベースのみんながニュータイプです」という言葉を彼女につい重ね、ふと考えごとをしてしまったのだろう。
【ララァへ逆流する精神波】
「撃つ」ことは「撃たれる」こと。戦争映画でもスナイパーが敵をとらえた瞬間、逆に撃たれるという描写を見かける。2者が「射撃」という関係性で結ばれる本質は、そういうことなのだ。ビットで狙われているということは狙っている者がいて、コントロールの系統を読めばいいとアムロが考えた道筋もほぼ同じ。そして撃ち返そうとするアムロの精神波は、サイコミュを通じてララァへと逆流してしまう。
【光の噴流】
アムロとララァの殺意の交流は「思惟の直結」を招き、最終的に「愛の交歓」に近しいものに変化する。Bパートで「2人の世界」は「光の充満」で描かれるが、「歓喜」あるいは「エクスタシー」に通じると見れば分かりやすい。もうひとつ生命の源流「海」のイメージが重なっていることにも注目。全体が「プラトニック・セックス」とでも言うべき状態であることも、こんな積みかさねから分かる。シャアの「戯れごと」という言葉も、その方向性を示唆している。
【精神と肉体の三角関係】
ララァの立場はアムロとシャアの三角関係の頂点であるが、これは「精神と肉体」あるいは「バーチャルとフィジカル」のはざまに置かれたと見ることができる。アムロがシャアを滅ぼすことを恐れた彼女は、アムロの刃を自分の身体で受け、関係に決着をつける。結局、肉体がなければ人の思いさえも存在しえないというのが結論なのだが、それはララァの肉体の崩壊という代償をともなっていた。悲劇はその引き裂かれた関係性に生まれる。
「ああ……アムロ。刻(とき)が見える」ララァの肉体が蒸発する寸前にアムロへ残した言葉である。「時」は自然界に流れる時間だが、「刻」と書けば人間が時間に意味を与えたものとなる。「時間が来た」と「その時刻を迎えた」では意味合いが異なるわけだ。そんな哲学的な思索のための素材が、このエピソードには充満している。
【シャアの激昂】
全編を通じてシャアが感情を抑制できなくなったのは、ララァを喪ってパネルを叩くこの一瞬だけである。劇場版では落ち着いたリアクションに改訂されているため、余計に印象に残るシーンである。
【ザンジバル撃沈】
ホワイトベースとの砲撃戦の結果、マリガンが指揮するザンジバルは撃沈。前回、シャアはデミトリーの無断出撃を見逃した件で「貸しがあった」とマリガンに釘を刺しているが、艦を看取ることで結局その貸しを払ってしまったわけだ。「残るはこのグワジンのみ。ひどいものですね」とキシリアが語り、帰還する場所をなくしたシャアもグワジンに合流。ジオン軍敗色が濃い状況下で「ソーラ・レイ・システム」発射の報が告げられ、異常感が盛りあがる。
【電力を光に変える】
「発電システム異常なし。マイクロウェーブ送電良好。出力8500ギガワット・パー・アワー」「825発電システムのムサイ、下がれ! 影を落とすと出力が下がる」という会話から、ソーラ・レイ・システムの原理に推察がつく。太陽光発電エネルギーをマイクロ波に乗せて結集、莫大な電力でコロニー内に充填したガス分子を励起させて発光、「臨界透過膜と偏光ミラー」を使って一方向に集中させたものだ。TV版ではこれが直径6キロの「コロニー・レーザー」とは明言していないが、レーザーとはコヒーレント光といって光の位相を整えて誘導放出したものなので、用語から連邦軍が使った反射光と同じ原理ではなく、レーザー砲ということが推測できるのである。
氷川竜介(アニメ評論家)
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