2007年7月10日 (火)
序章 「ネイティブ」のもつ迫力と情報量
この第1作目は、「ファーストガンダム」とも呼ばれている。宇宙植民地の独立戦争を描いたそのドラマは25年以上が経過した今も原典として熱く語り継がれ ている。しかし、ここにひとつ大きな問題が存在している。「ファーストガンダム」という呼称で世間的にまず連想されるのは、どうやら「劇場版」の方らしい のだ。
「劇場版」は3部構成、各2時間強の形式でTVシリーズ全43話を「再編集」した作品である。いくつかの展開を束ねて一本化したり、新作 カットで補填を行ったりしてチューニングされた作品だ。同時期の他の作品に比べ、TVシリーズに対してかなり忠実度の高い移植が行われているものの、TV のさまざまなディテールが「割愛」されたり「修正」されたりした結果、異同部分も多い。
作画は激しくバラつき、アニメーションディレクターの安彦良和が病気降板した第34話以後は特に厳し い。キャラクターやメカの設定や演出も、不統一が散見される。アムロとブライトが無重量下でダブルキックを放ったり、指に機銃を内蔵するグフがザクマシン ガンを手にしていたり……。さらにスーパーヒーロー系ロボットの様式を引きずっていた部分も山ほどある。ガンダムがガウ攻撃空母の翼に飛び乗り、ビーム・ ジャベリンで大穴をあけるシーンは、かなり濃いガンダムファンでもアゴが外れるほど驚くはずだ。
そう……当時はまだまだ「テレビまんが」の時代だった。『ガンダム』は確かに画期的な作品だったが、何もかもが画期的だったわけでもなかった。そうした過渡期の時代の空気ごとパッケージ化されたものが、一番最初に作られた『機動戦士ガンダム』のTVシリーズなのである。
そんな風に理解すると、今度はTVシリーズへの愛おしさが増してくる。毎週放送していただけに情報の量は圧倒的に多いから、楽しめるパーツも満載なのだ。 ことに劇場版では割愛されたドラマの行間が濃密に浮かびあがって来て、意外性のある嬉しさを覚えるだろう。その中には改めて驚くような事実も多数、見つけ ることもできる。たとえばギレン・ザビがなぜキシリアに殺されなければならなかったのか……その理由は、元祖・木星帰りの男シャリア・ブルの言動の裏をよ く読めば、自ずと浮かびあがってくる。
このように、劇場版や小説版、外伝や漫画化など 後に作られた作品群では忘れられがちな、原初ならではのパワフルなエネルギーが、TVシリーズには満ちあふれている。このように、手の加わっていない「生 粋」のことを英語では「Native:ネイティブ」と言う。後天的学習によらない母国語として話す人間は“Native Speaker”と呼ばれるし、かつてインディアンと呼びならわされたアメリカ原住民も今では“Native American”である。コンピュータの世界でも機械語で直接制御することを“Native Mode”と呼ぶ。こうした事例から明らかなように、「手の加わっていない、直接的でダイナミックな」イメージが“Native”である。
これからこのコラムではそうした観点から、後のシリーズでは減じてしまったかもしれない「ネイティブな」ガンダムの楽しさと魅力を探り、ピックアップしていきたい。改めての鑑賞の手引きとなれば、幸いである。
氷川竜介(アニメ評論家)
【プロフィール】
氷川竜介(ひかわ・りゅうすけ)
アニメ評論家。『機動戦士ガンダム』放映時からアルバム制作、ムックなどに参加。主な編著「ガンダムの現場から」(キネマ旬報社)、「フィルムとしてのガンダム」(太田出版)、「Z BIBLE」(講談社)など。NHK BS-2「BSアニメ夜話」に出演中。
(C) 創通・サンライズ
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