2007年8月2日 (木)
『ガンダム、Gファイターに立つ!?』
これから数ヶ月、このコーナーで ガンプラ(*1)についてのコラムを連載させていただくことになりました。本業は脚本家です。以後お見知りおきを。
ちなみに数年前までは、遊園地やデパートの屋上で ヒーローどもと戦って(*2)おりました。あと、ジーパンの下には 何もはかない主義(*3)です。
(*1)ガンプラ…言わずと知れた、ガンダムのプラモデルのこと。
(*2)ヒーローどもと戦って…世の中には、そういう過酷な仕事があるのです。
真夏のデパートの屋上は、ビリーも裸足で逃げ出す修羅場。
(*3)何もはかない…スーツの時は勿論はきますよ。
伝説のマンガ、プラモ狂四郎
僕が初めてガンプラに出会ったのは、小学生の頃。
昭和50年代後半、世の子供たちの間では、 キン消し(*4)とガンプラ旋風が吹き荒れておりました。まだインターネットもなく、 TVゲーム(*5)ですら普及していなかった時代。流行を追うことが友達との繋がりを強める、ある種 の共通言語だったんですね。なにせ話題についていけないと輪に入り込めないんですから、みんな必死でしたよ。たとえ 好きな女子を泣かしてでも(*6)ガンプラを取る。それぐらいの覚悟とクレイジーさが問われたので す。
そんな折、登場したのが 『プラモ狂四郎』(*7)というマンガ。おそらく30代の男性ならほとんどの方が知っていると思われる、今や伝説のマンガです。
この中で、もう主人公が好き放題にガンプラを改造しまくるもんだからサア大変。クラスの人気者=プラモ改造の上手いヤツ、という方程式が自然と出来上がっ てしまったわけです!まあ人気者といっても、 男子の間だけ(*8)の話ですけどね。
(*4) キン消し…某ダメ超人が主人公のマンガのキャラクターグッズ。
コレクションが主な購買目的で、消しゴムとしてはほとんど機能しない。
(*5) TVゲーム…カセットビジョンとか、皆さん知ってます?
(*6) 好きな女子を泣かして…筆者は昔、好きな女の子にアッガイを「一つ目小僧」
と罵倒され、キレたことがある。
(*7) プラモ狂四郎…主人公の京田四郎はガンプラ大好きの小学生。
近所の模型屋の親父が考案した謎のシミュレーションマシーンの中で自作の
ガンプラを操縦し、日夜ライバルたちと激闘を繰り広げるという熱血少年マンガ。
当時の子供たちの間で、もの凄く流行った。
(*8) 男子の間だけ…あの頃の女子って、何が流行ってたんだろう。
なんか、僕らに比べて随分と大人だったような気がする。
ガンダムはGファイターにまたがれない!
みゆき少年は、プラモの組み立てがヘタな子でした。
いやそれ以前に、 ムギ球(*9)と豆電球の区別すらつかないような子でしたから、土台最初からプラモの改造になど手を染めてはいけなかったのかもしれません。
そんな僕ですら改造の道に引きずり込むんですから、プラモ狂四郎というマンガは恐ろしい魔物です。忘れもしないのが第一話。接着の甘さを突かれ大ピンチの 狂四郎の元に、 Gファイター(*10)に乗って駆けつけるヒロインのみどりちゃん。ところがライバルの健は、ここで とんでもないことを言い放ちます!
「ばかめ!百四十四分の一のガンダムはGファイターにまたがれないんだ!!」
(左)1/144 Gアーマー(1981年9月発売)のAパーツとBパーツで構成されたGファイター
(右)プラモ狂四郎 第1話「ガンダム対シャアザク」(やまと虹一・クラフト団/講談社)より
(右)プラモ狂四郎 第1話「ガンダム対シャアザク」(やまと虹一・クラフト団/講談社)より
だが、それでも我らが狂四郎は諦めない!ジャンプ一番、しっかりとGファイターにまたがっているではないか!見よ、颯爽とGファイターを駆るガンダムの雄姿!なぜだッ!?
坊やだから(*12)などという冗談はさておき、狂四郎は事前にガンダムの股関節パーツを リック・ドム(*13)のものに取替えて改造しており、見事Gファイターにまたがることに成功したの です!ブラボー改造!
や、やってやる…俺だって!これをやらなきゃ、 侠(*14)じゃないぜッ!
かくて、 みゆき少年の戦い(*15)が始まりました。
プラモ狂四郎 第1話「ガンダム対シャアザク」(やまと虹一・クラフト団/講談社)より
(*9) ムギ球…今で言う発光ダイオード(LED)のようなもの。
1/60ザクはムギ球を仕込むことで、モノアイを光らせることができた。
当然のことながら、豆電球を買ってきたみゆき少年は涙に暮れた。
(*10) Gファイター…ガンダムのパワーアップメカのこと。
ガンダムはこれに乗って空中戦をすることができる他、
合体してGアーマーになったり、分離して戦車になったり色々できる。
残念ながら劇場版ではコアブースターに取って代わられた。
ちなみに筆者はコアブースターよりもGアーマー派だった。
だって、合体とかできる方がカッコいいもん。
(*11) アニメのように…現在のHGUCシリーズなら、ちゃんと再現できます。
技術の進歩って凄いですね。
(*12) 坊やだから…なぜだと問われれば坊やだからと答える。
ガンダムファンにとっては、一種の禅問答のようなもの。
(*13) リック・ドム…旧ザクの股関節パーツでもOK。
ちなみに1/144のドムはなく、リック・ドムのみの発売だった。
今でこそ外観の違う2体ですが、当時は同じデザインだったのですよ。
(*14) 侠…オトコと読む。詳しくは下記URLをクリック。
http://bandai-hobby.net/sangokuden/index.html
(*15) みゆき少年の戦い…準備したもの。接着剤、ニッパ、ヤスリ、以上。
お前は改造をナメているのかという突っ込みは無しの方向でひとつ。
成功の暁には、カッコ良く 写真(*16)を撮ってやろう。クラスの連中、驚くだろうなァ…。あれ?でも股関節パーツを取ったら リック・ドムの方はどうなっちまうんだ?ああそうか、外したガンダムのパーツをつければいいんだ。多少ドムの足腰は立ちにくくなるかもしれないけど、G ファイターにまたがるガンダムの雄姿の方が大事さ!フフフ…今日から俺がプラモ狂四郎だ!!
プラモ狂四郎 第1話「ガンダム対シャアザク」(やまと虹一・クラフト団/講談社)より
ありゃ?ちっともサイズが合わないじゃないか。ははぁ…つまりこれは、ヤスリでもかけて合わせろってことか?上等じゃねえか。生まれてこの方ヤスリなんて 一度も握ったことはねえが、 アムロだって最初は素人(*18)だったんだ!この狂四郎様に不可能はないぜ!ゴリ…ぎゃっ! 指まで(*19)こすっちまった!チクショウ、ここで負けてたまるか!ゴリゴリ。まだかな?ゴリゴ リ。うーん、まだ太い。ゴリゴリ。もうちょっとか?ゴリゴリ。…………。やっちまった。
(*16) 写真…まだ使い捨てカメラなどなかった頃。
筆者の撮る写真はたいがいピンボケだった。
(*17) トリップ…周りの状況判断ができなくなってしまう状態のこと。
ガンダムと対峙したジオン兵は、しばしばこういう状態になる。
(*18) アムロだって最初は素人…ただし、向こうはニュータイプ。
(*19) 指まで…以来20年以上、ヤスリがけはしていない。
「僕は…取り返しのつかないことをしてしまった…」
Gファイターにまたがるどころか、 三階級特進(*20)となってしまったみゆき少年のガンダム。股関節を奪われ、スカスカのパーツをあてがわれたドムも、もちろん三階級特進となりました。
後 日、Gファイターにまたがるガンダムを自慢げに見せびらかし 喝采(*21)を受ける友人の陰で、ひとり 哀悼の意を表し敬礼(*22)するみゆき少年の姿があったのは、言うまでもありません。
(*20) 三階級特進…その際は、ありがとうの一言ぐらいかけてあげよう。
何のこっちゃサッパリわからん人は、哀・戦士編を見てください。
(*21) 喝采…ガンプラの改造に成功することは、レアなキン消しを引き当てる、
カブトムシの孵化を成功させる、バレンタインデーに大量のチョコを獲得する、
などと同様に大変名誉なことだった。
(*22) 哀悼の意を表し敬礼…マチルダさんに謝ること。
でも、できればリュウさんのことにも触れてあげて。
次回は第2回『父よ、それはソルティックだ!』で刻の涙をお見せします。
次回の更新は 8月30日(木)17時予定です。
岸本みゆき(フリー脚本家)
【プロフィール】
岸本みゆき(きしもと・みゆき)
1973年生まれ、フリー脚本家。巨大ロボと変身ヒーロー、時代劇をこよなく愛する熱血関西人。現在はテレビアニメ『結界師』のシナリオの他、『SDガンダム三国伝』の構成なども手がけている。
(C) 創通・サンライズ
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