2007年9月13日 (木)
栄光社編
今回取り上げる栄光社は、TVキャラクター専門というよりも、「ぬりえ」や「おけいこえほん」などの文具で知られる大阪の出版社です。他に、ぬりえに教育的要素を盛り込んだ「チャイルドテスト」というシリーズもありまして、『機動戦士ガンダム』も発売されていました。
さて、栄光社の絵本といえば「TV(テレビジョン)うたのえほん」が最も刊行点数も多く、一般に知られた存在でした。その歴史は結構長く、昭和40年代前半発刊の「テレビうたのえほん 東映動画の巻/TBSの巻」あたりがルーツだと思われます。
この「TVうたのえほん」の特徴として、主題歌の歌詞と楽譜が載っている点が挙げられます。また、もう一つの特徴は「絵本」への強いこだわりからなのか、ウルトラマンや仮面ライダーのごとき実写作品であってもイラストを使用している点です。とはいえ、この傾向は同時期の朝日ソノラマの「EMシリーズ」、「ひかりのくにテレビ絵本」にも見られるもので、当時はさほど珍しいことではありません。実写作品が、写真主体で構成されていて当然となった時代は、意外と最近の話なのです。
■「栄光社のTVうたのえほん機動戦士ガンダム」
本題へ参りましょう。「栄光社のTVうたのえほん機動戦士ガンダム」はナンバー79という、偶然なのか狙ったのかわからない通巻番号が入っています。もともと「うた」を主体にした「えほん」ですから、物語の要素はありません。「翔べ!ガンダム」と「永遠にアムロ」の歌詞と楽譜を載せつつ、作品情報が掲載されています。
このシリーズには物語が存在しないため、ビックリするような見どころはありませんが、初期設定を基に作られているため、ビッグ・ガン(本書ではビームスプレーガンと呼称)やスコープの付いたハイパー・バズーカが登場しています。発行日は書かれていませんが、グフが登場していないことから、放送開始間もない頃だと思われます。
■栄光社「よいこのTVコミックス」
栄光社編の第2ラウンドは「よいこのTVコミックス」。絵はコマで区切られており、フキダシはないまでもマンガっぽい構成に見えなくもないので、これがシリーズ名の所以でありましょう。判型は205ミリ×185ミリと通常の絵本よりも若干小さ目でした。
「TVうたのえほん」に比べて若干対象年齢が上がっており、文章には漢字が多く入っています。プロローグで「人口都市衛星」に「スペース・コロニー」とルビが入っているところとか、本格派の予感も……!? では、その内容を見てみましょう。
<あらすじ>
宇宙歴0079年、地球連邦政府は地球のまわりに人口都市衛星(スペース・コロニー)を作って、人々を移住させていました。やがて人口都市衛星の一つがジオン公国として独立し、地球を自分たちのものにするため、侵略を開始したのです。
「ホワイトベースをたたけ!あれさえやっつければ地球はわれわれのものになる」(原文ママ)デギン、キシリア、ドズル、ガルマが揃ってシャアに命令しました。
「わたくしシャア少佐がかならずやっつけてごらんにいれます」(原文ママ)と勇ましく、シャアがムサイ艦で出動。ホワイトベースもムサイ艦を発見し、アムロはガンダムで出撃します。「ようしまけるものかガンダムは世界一強いんだ」(原文ママ)
ガンダムのビーム・スプレー・ガンがムサイ艦に命中!! しかし、ムサイから出撃した3機のザクにガンダムは苦しめられます。
ザク「どうだっ」アムロ「うーむ」ザク「キックだっ」アムロ「うわっ」(原文ママ)とガンダムは明らかに不利です。そこへガンタンクとガンキャノンが参上しました。ガンタンクとガンキャノンがザクを撃破すると、グフを駆るシャアが登場。ガンダムは電磁ムチ・ヒートロッドの攻撃を受けますが、ビーム・サーベルで応戦し、ついにグフを倒しました。
シャア少佐は逃げさったがジオンの攻撃はつづく。だがガンダムやアムロたちがいるかぎり地球の平和は守られる。がんばれ!ガンダム。がんばれ!アムロ(原文ママ)
出だしは良かったのですが、突然次のページから不思議な作品になってしまいました。一家揃って(ギレンはいないけど)命令するザビ家や自信満々のアムロ、意外に弱いガンダムなど、作品とかけ離れすぎています。たぶん、文章を考えた方は作品をあまり御存知なかったのではないでしょうか。グフとガルマが同時に出てくるのもけっこう違和感がありますし。
絵本というジャンルですから、子供向けの改変は行われてしかるべきだとは思いますが、「よいこのTVコミックス」に関してはちょっとなぁ……という感じです。こうして見ていくと、子供向けのアレンジメントにも様々なやり方があることがわかりますね。
なお、栄光社は現在出版社としての業務を停止している状態のようです。児童向けの作品が減り続けている昨今、致し方のないことなのかもしれません。
(第3回/終)
次回の更新は10月11日(木)17時予定です。
【プロフィール】
五十嵐浩司(いがらし・こうじ)
ファーストガンダムを朝6時から放送し、あまつさえ26話で打ち切った青森県で生まれ育つ。本業は編集者。
サンライズ作品関連では「ガンプラ・ジェネレーション」(講談社)、「蒼き流星SPTレイズナーコンプリートワークス」(新紀元社)、「ガンダムX」「バイファム」「トライダーG7」「ダイオージャ」「ゴウザウラー」「メタルジャック」「エクスカイザー」~「ダグオン」(以上、DVD解説書)などを手がける。
最新作はファンコレ「ウルトラマンメビウス アーカイブドキュメント」(朝日ソノラマ)。
タルカス所属。
さて、栄光社の絵本といえば「TV(テレビジョン)うたのえほん」が最も刊行点数も多く、一般に知られた存在でした。その歴史は結構長く、昭和40年代前半発刊の「テレビうたのえほん 東映動画の巻/TBSの巻」あたりがルーツだと思われます。
この「TVうたのえほん」の特徴として、主題歌の歌詞と楽譜が載っている点が挙げられます。また、もう一つの特徴は「絵本」への強いこだわりからなのか、ウルトラマンや仮面ライダーのごとき実写作品であってもイラストを使用している点です。とはいえ、この傾向は同時期の朝日ソノラマの「EMシリーズ」、「ひかりのくにテレビ絵本」にも見られるもので、当時はさほど珍しいことではありません。実写作品が、写真主体で構成されていて当然となった時代は、意外と最近の話なのです。
■「栄光社のTVうたのえほん機動戦士ガンダム」
本題へ参りましょう。「栄光社のTVうたのえほん機動戦士ガンダム」はナンバー79という、偶然なのか狙ったのかわからない通巻番号が入っています。もともと「うた」を主体にした「えほん」ですから、物語の要素はありません。「翔べ!ガンダム」と「永遠にアムロ」の歌詞と楽譜を載せつつ、作品情報が掲載されています。
このシリーズには物語が存在しないため、ビックリするような見どころはありませんが、初期設定を基に作られているため、ビッグ・ガン(本書ではビームスプレーガンと呼称)やスコープの付いたハイパー・バズーカが登場しています。発行日は書かれていませんが、グフが登場していないことから、放送開始間もない頃だと思われます。
▲表紙と裏表紙。初版と増刷版は表紙、裏表紙、背表紙のデザインを変更している。増刷版は通巻ナンバーが18に再カウントされていた。裏表紙は増刷版の方がトリミングが消えて、見やすくなっている。また、価格も300円から350円に上げられた。
▲本を開くと、まずは登場人物紹介。文字の色が青と赤に分けられている意味がけっこう謎。誌面の右隅に空白があるが、増刷版にはここに「翔べ!ガンダム」の楽譜が入った。
▲ガンダムとホワイトベースが登場!! 武器がしっかりTV映像準拠のガンダムハンマーになっているところに注目したい。「宇宙空母ホワイトベース」の呼称は、当時のクローバーの商品やプラモデル(1/1200および1/2400スケール)でもお馴染み。なお、このページはなぜか増刷版では削除されていた。
▲基本構成は2ページ単位で情報が載り、そこに歌詞(または楽譜)が入るというパターンで、他は大きなコピーが一箇所入るのみ。どことなく絵日記っぽい(?)、シュールな雰囲気をお楽しみいただければ、と思う。
▲ちなみに、ガンダム以上にシリアスな『装甲騎兵ボトムズ』の「うたのえほん」(発行は本書の4年後)も内容には特に変化はなく、やはりこんな雰囲気だった。
■栄光社「よいこのTVコミックス」
栄光社編の第2ラウンドは「よいこのTVコミックス」。絵はコマで区切られており、フキダシはないまでもマンガっぽい構成に見えなくもないので、これがシリーズ名の所以でありましょう。判型は205ミリ×185ミリと通常の絵本よりも若干小さ目でした。
「TVうたのえほん」に比べて若干対象年齢が上がっており、文章には漢字が多く入っています。プロローグで「人口都市衛星」に「スペース・コロニー」とルビが入っているところとか、本格派の予感も……!? では、その内容を見てみましょう。
<あらすじ>
宇宙歴0079年、地球連邦政府は地球のまわりに人口都市衛星(スペース・コロニー)を作って、人々を移住させていました。やがて人口都市衛星の一つがジオン公国として独立し、地球を自分たちのものにするため、侵略を開始したのです。
「ホワイトベースをたたけ!あれさえやっつければ地球はわれわれのものになる」(原文ママ)デギン、キシリア、ドズル、ガルマが揃ってシャアに命令しました。
「わたくしシャア少佐がかならずやっつけてごらんにいれます」(原文ママ)と勇ましく、シャアがムサイ艦で出動。ホワイトベースもムサイ艦を発見し、アムロはガンダムで出撃します。「ようしまけるものかガンダムは世界一強いんだ」(原文ママ)
ガンダムのビーム・スプレー・ガンがムサイ艦に命中!! しかし、ムサイから出撃した3機のザクにガンダムは苦しめられます。
ザク「どうだっ」アムロ「うーむ」ザク「キックだっ」アムロ「うわっ」(原文ママ)とガンダムは明らかに不利です。そこへガンタンクとガンキャノンが参上しました。ガンタンクとガンキャノンがザクを撃破すると、グフを駆るシャアが登場。ガンダムは電磁ムチ・ヒートロッドの攻撃を受けますが、ビーム・サーベルで応戦し、ついにグフを倒しました。
シャア少佐は逃げさったがジオンの攻撃はつづく。だがガンダムやアムロたちがいるかぎり地球の平和は守られる。がんばれ!ガンダム。がんばれ!アムロ(原文ママ)
▲「よいこのTVコミックス」表紙。通巻ナンバーは28。他に『ザ☆ウルトラマン』『りすのバナー』『ゼンダマン』『闘士ゴーディアン』『仮面ライダー(新)』などが発売されているところから見て、1979年に発刊されたシリーズのようだ。
▲ギレン抜きのザビ家が勢揃いして、シャアに命令を下す。ホワイトベースさえいなければ地球はザビ家のものになるらしい。ジーンがホワイトベースを発見するが、ホワイトベーズはどう見ても上から下へ落下しているように見える。ここはどこ?
▲ホワイトベースの第2艦橋(……ではないと思うが)でブライトはアムロに出撃命令を下した。ガンダムはシールドをランドセルに装着して出動。本文中ではほとんどの場面でシールドは背面に付けられたままである。
▲ビーム・スプレー・ガンの直撃で、シャアのムサイ艦はあっさりと撃破!? カツ・レツ・キッカはアムロを応援する。それにしても3人の背景のモチーフは初期アイキャッチっぽい気が……。
▲直撃したはずが、シャアのムサイはなぜか無傷だった。そしてトリプル・ドムならぬトリプル・ザクがガンダムを襲撃!! 赤いやつがいるわけでもないのに、ガンダムはやたらと苦戦を強いられてしまう。そこへ助っ人登場!!
▲ザクはあっさりガンタンクとガンキャノンに始末され、業を煮やしたシャアはグフで出撃。しかし、ガンダムはビーム・サーベルでグフを切り裂く。シャアは「おぼえていろ!」(原文ママ)と捨てぜりふを残してドップで脱出した。それにしてもなぜドップなのだろうか。グフにドップが内蔵されていたのだろうか?
▲ラストシーン。地球をバックにホワイトベースのクルーが総登場。フラウ・ボウだけ私服なのはなぜなのか? よく見ると、彼女だけ等身が違うような気もするし……。
出だしは良かったのですが、突然次のページから不思議な作品になってしまいました。一家揃って(ギレンはいないけど)命令するザビ家や自信満々のアムロ、意外に弱いガンダムなど、作品とかけ離れすぎています。たぶん、文章を考えた方は作品をあまり御存知なかったのではないでしょうか。グフとガルマが同時に出てくるのもけっこう違和感がありますし。
絵本というジャンルですから、子供向けの改変は行われてしかるべきだとは思いますが、「よいこのTVコミックス」に関してはちょっとなぁ……という感じです。こうして見ていくと、子供向けのアレンジメントにも様々なやり方があることがわかりますね。
なお、栄光社は現在出版社としての業務を停止している状態のようです。児童向けの作品が減り続けている昨今、致し方のないことなのかもしれません。
(第3回/終)
五十嵐浩司(タルカス)
次回の更新は10月11日(木)17時予定です。
【プロフィール】
五十嵐浩司(いがらし・こうじ)
ファーストガンダムを朝6時から放送し、あまつさえ26話で打ち切った青森県で生まれ育つ。本業は編集者。
サンライズ作品関連では「ガンプラ・ジェネレーション」(講談社)、「蒼き流星SPTレイズナーコンプリートワークス」(新紀元社)、「ガンダムX」「バイファム」「トライダーG7」「ダイオージャ」「ゴウザウラー」「メタルジャック」「エクスカイザー」~「ダグオン」(以上、DVD解説書)などを手がける。
最新作はファンコレ「ウルトラマンメビウス アーカイブドキュメント」(朝日ソノラマ)。
タルカス所属。
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