「電子書籍で読める！おすすめガンダム本10選」は、数あるガンダム小説・マンガの中から厳選した“電子書籍が販売されている10作品”を、「 このマンガがすごい！」などで活動中のライター・山田幸彦氏が紹介していくコーナーです。

最後を締めくくる第10回は、劇場版『機動戦士ガンダムF91』をベースに富野由悠季監督が書き上げた小説「機動戦士ガンダムF91 クロスボーン・バンガード」をご紹介していきます。

「機動戦士ガンダムF91 クロスボーン・バンガード（上）」（KADOKAWA）

地球圏は、再び戦乱の渦へと巻き込まれる……

アムロとシャアの死闘から30年……宇宙世紀0123年の地球圏には大きな争いもなく、人々は平和を享受して生きていた。

新興スペースコロニー群「フロンティアサイド」内のコロニー「フロンティアIV」に住むシーブック・アノーも、平和な世界に生きる者の一人である。
彼はハイスクールの生徒として、セシリー・フェアチャイルドをはじめとした学友たちと過ごす青春を送っていた。

そんな彼の人生が、ある日突然一変する。
フロンティアIVを「コスモ貴族主義」を掲げる軍事組織「クロスボーン・バンガード」が襲撃したのだ。

地球連邦軍とクロスボーン・バンガードの間に開戦の狼煙が上がる中、シーブックはなりゆきから地球連邦軍の新モビルスーツ「F91」に搭乗して戦場へと出ることになる。
一方、セシリーはクロスボーン・バンガードによって連れ去られ、一年戦争以前からロナ家によって計画されていた貴族国家「コスモ・バビロニア」建国の象徴として祭り上げられることになり……。

野心と学園生活のコントラスト

本作は、劇場版『機動戦士ガンダムF91』をベースに、監督である富野由悠季が書き上げた小説版だ。
劇場版との大きな相違点は、宇宙世紀0068年から始まるロナ家やクロスボーン・バンガードの成り立ちと、現代に生きるシーブックたちの学園生活が描かれていることだろう。
基本的なあらすじは劇場版と同様なものの、上巻に関してはその3/4を前日譚が占めているのだ。

やり手経営者、シャルンホルスト・ブッホがジャンク屋を複合企業「ブッホ・コンツェルン」に成長させていく過程で貴族主義へと目覚め、息子であるマイッツァー・ロナが父の志を「コスモ貴族主義」へと昇華させていくドラマは、それだけで1本の長編作品が作れてしまうほどの密度を持っている。
その一方でシーブックたちの生活は、普通の若者感に溢れる学園ドラマだ。
劇場版冒頭でも描かれた学園祭の準備など、多くのシーンで映像では描かれなかった学友たちの新たな一面を知ることができる。
博打に興じたかと思えば、「女性の足首を見れば処女かどうかわかる」というウソを信じ込んでバカを見たりと、劇場版では正統派主人公なシーブックが、普通の高校生らしい日々を過ごす姿は一見の価値ありだ。

野心を燃やすロナ家の躍進と、爽やかな学園ドラマ……この2つの物語を経てから体感する「F91」の物語には、劇場版とは全く違う印象を持つことは間違いない。
そして、本作を読んでから劇場版を再見することで、より深みを持った物語を楽しむことができるはずだ。

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書籍情報

【タイトル】 機動戦士ガンダムF91 クロスボーン・バンガード
【著者】 富野由悠季
【巻数】 全2巻（上・下巻）
【定価】 583円（税込）
【出版社】 KADOKAWA

バックナンバー
第1回 「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」（2017/2/8）
第2回 「機動戦士ガンダム ギレン暗殺計画」（2017/2/15）
第3回 「機動戦士ガンダム エコール・デュ・シエル」（2017/2/22）
第4回 「犬ガンダム」
第5回 「新機動戦記ガンダムW フローズン・ティアドロップ」 （2017/3/8）
第6回 「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」 （2017/3/15）
第7回 「機動戦士ガンダム0079外伝 MS戦記」 （2017/3/22）
第8回 「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」 （2017/3/29）
第9回 「『ガンダム』を創った男たち。」 （2017/4/5）