▲インタビューに答えてくれた井本チーフ[左]、田宮マネージャー[右]
期間限定でオープンしていた東京・お台場のVRエンターテインメント研究施設「VR ZONE Project i Can」が、大好評のうちに終了した。8月26日(金)にはガンダムVR「ダイバ強襲」が登場したが、最終日となった10月10日(月・祝)まで予約が埋まってしまい、体験のチャンスを手にできなかった人もいることだろう。
今回、「ダイバ強襲」を開発した、バンダイナムコエンターテインメント AM事業部の田宮幸春マネージャー(以下、田宮)と、井本一史チーフ(以下、井本)にインタビューすることができた。開発秘話や、体験者の意外な反応など、今だからこそ聞ける話を伺うことができたので、お届けしていこう。
「VR ZONE Project i Can」とは?
バンダイナムコエンターテインメントが展開する「Project i Can」から生まれたVRエンターテインメント研究施設。ガンダムVR「ダイバ強襲」のほかにも、VR-ATシミュレーター「装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」など多彩なコンテンツをラインナップし、2016年4月15日(金)から10月10日(月・祝)までの期間限定でオープンしていた。多くの人々に驚き、楽しんでもらえる新しいエンターテインメントの提供を目指すというプロジェクトのメッセージを体現している。
バンダイナムコエンターテインメントが展開する「Project i Can」から生まれたVRエンターテインメント研究施設。ガンダムVR「ダイバ強襲」のほかにも、VR-ATシミュレーター「装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」など多彩なコンテンツをラインナップし、2016年4月15日(金)から10月10日(月・祝)までの期間限定でオープンしていた。多くの人々に驚き、楽しんでもらえる新しいエンターテインメントの提供を目指すというプロジェクトのメッセージを体現している。
ガンダムVR「ダイバ強襲」とは?
VR技術と専用体感マシンの掛け合わせにより生まれた、これまでにないVRアクティビティ。既存のガンダムゲームの視点とは異なり、実物大ガンダムと敵対MSとの戦いに遭遇した生身の人間の感覚を味わうことができる。巨大なMS同士がぶつかり合う迫力や衝撃を目の前で“体験”できる、全く新しいエンターテインメントとなっている。
VR技術と専用体感マシンの掛け合わせにより生まれた、これまでにないVRアクティビティ。既存のガンダムゲームの視点とは異なり、実物大ガンダムと敵対MSとの戦いに遭遇した生身の人間の感覚を味わうことができる。巨大なMS同士がぶつかり合う迫力や衝撃を目の前で“体験”できる、全く新しいエンターテインメントとなっている。
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──本題に入る前に、お二人の経歴を簡単に教えてください。
田宮: はい。今は「VR ZONE Project i Can」室長としてVRコンテンツを一通り見ていますが、もともとメカエンジニアとしてナムコに入社し、ゲームセンター用のタイトルをずっと作ってきました。 「ドラゴンクロニクル」という、ドラゴンを育てて戦わせるネットワーク対戦ゲームや、『ドラゴンボール』の多人数対戦格闘ゲーム 「ドラゴンボール ゼンカイバトル」などです。その後、新しいことを立ち上げたいということで、VRを担当するようになりました。
──メカエンジニアということは、ソフトウェアよりもハードウェアが得意ということでしょうか?
田宮: 機械設計で入社したのですが、大学時代はロボットの研究などもしていたので、ソフトもハードもわかっている状態でした。自分が入社した時期は体感筐体全盛期でして、競馬ゲームの 「ファイナルハロン」や、マウンテンバイク型の 「ダウンヒルバイカーズ」など、故障の連絡が入ると現場まで行って、原因を調査したり修理したりしてきました。その流れで、「どんな体感マシンが作れるか」や「開発者がどんなことを考えているのか」みたいなことを色々と見て、考えてきました。
──ありがとうございます。では、井本さん、お願いします。
井本: 私は家庭用の 「エースコンバット」チームの企画としてナムコに入社し、ゲームデザインやレベルデザイン(ゲーム内の空間設計によりバランスを調整をする)をしていました。そこから、 「機動戦士ガンダム 戦場の絆」と同じドームスクリーン型のアーケードシューティングゲーム 「マッハストーム」のディレクターを担当しました。他にも、全身で体感する没入型のコンテンツを作ってきたのですが、今回『ガンダム』のVRを作るにあたり、「井本君ガンダム好きだよね?」と、一本釣りされました(笑)。もともとガンダムは好きで、好きがゆえに半端なものは作りたくないな、と思っていましたが、今回の企画だったら今までになかった魅力を引き出せるものになるに違いない!と思い、ぜひやってみたいと参加させてもらいました。
──ありがとうございます。お二人とも興味深い経歴ですね。今、VRは開発花盛りですが、安価で高性能なHMD(Head Mount Display)が出てきたことで、ハードウェアを自前で開発する必要がなく、ソフトウェア側からアプローチしているケースが多いように感じます。お二人も参加している「VR ZONE Project i Can」は、それらとはちょっと違う、特殊なところからスタートしているようですね。
田宮: 特殊ですし、ウチの強みでもありますね。ウチ(バンダイナムコエンターテインメント AM事業部)のやりたいことって「ゲームセンターに来たお客さんが、さも本当の体験をしているかのようにゲームを楽しんでもらう」ということなんです。なので、昔は「画面は四角いけれど、身体だけは本物そっくりに動かしたら楽しいんじゃないか?」という発想から体感マシンがたくさん出てきた。例えば、スキーレースゲーム「アルペンレーサー」って、コントローラーでやると普通のゲームなんですけど、筐体と組み合わさることで、とっても面白い体験になる。そんな流れもあって、「映像に包まれる体験を実現したい」という思いが、HMDではなくドームスクリーンの「戦場の絆」という形で結実しました。VRに対する当時の我々の“解”が、ドームスクリーンだったわけです。
──「戦場の絆」がドームスクリーンだったのには、そういう理由があったんですね。
田宮: はい。そして、10年くらい前の「戦場の絆」開発を通じて、「VRで酔わないためにはどうしたら良いのか?」といった研究もさんざんしてきました。なので、良いHMDが出てきた時に、我々は「やっと来た!これとあれを使えば今までよりもっとすごい体験ができるぞ」と、すぐに具体的な方法をいくつも挙げられるれるくらいノウハウが溜まっていたんですよ。それと、筐体も含めて“物”を作れるというのも良くて、発想に制限を設けず、体験を追及できたのは大きかったです。
──そういう強みがあったから、どこよりも早くVR専用施設を実現できたんですね。
▲好評稼働中の「機動戦士ガンダム 戦場の絆」。プレイしたことがある人も多いだろう。
──ガンダムVR「ダイバ強襲」は、「VR ZONE Project i Can」最後発のコンテンツになりましたが、実際にはどれくらいの期間で開発されたのですか?
井本: ゴールデンウィーク辺りに開発をスタートして、8月26日(金)に稼働したので、3ヶ月半ですね。
──早い(笑)。
田宮: 「VR ZONE Project i Can」は、4月15日(金)にオープンしたのですが、すぐに「ガンダム立像が立っているダイバーシティ東京の中にあるのに、なぜガンダムのコンテンツがないんだ!」とツッコミを受けまして……また、非常に理解のある上司に「夏休みまでに稼働できるなら開発しても良いよ」と言われ……作りたかったので「やります!」と答えた結果、大変なことになりました(笑)。
井本: そういう意味では本当に“場所ありき”のコンテンツですね。もし「VR ZONE Project i Can」がダイバーシティ東京になかったら、この内容にはなってなかったでしょうし、そもそもガンダムのVRを作らなかったかもしれません。
田宮: 我々の考えるガンダムのVRって、「戦場の絆」で完結していたんです。「パイロットとして乗り込む」という、一番想像しやすい形で、一度完成していました。実は、ずいぶん前に技術検証として、HMDを使った「戦場の絆」も作ってみたのですが、プレイしてみると驚きが全然なかったんですね。考えてみれば、ドームスクリーンと、ガンダムシリーズに登場する全天周囲モニターって似たようなものなので、VRの中にドームスクリーンが再現されているようで、これは意味がないな、と。
井本: ということで、「VRでガンダムをやるなら、どういう体験が良いのか?」というテーマをもう一度見つめ直した時に、ガンダム立像が最高のモチーフになりました。ガンダム立像を目の当たりにした時の感覚と、「大きさや高さを実感できる」というVRならではの体験がシンクロしたんです。そこから、「一人の人間の視点で恐怖を体感する」というコンセプトが生まれました。
田宮: 実は、現実に存在しないファンタジーなものって、そのままVRにするとプレゼンス(実在感)を感じづらいんです。高所での恐怖体験とかスキーとか、現実の世界を表現する方がリアリティを感じる割合が高い。自分が経験したことのあるものの方が、脳がすでに持っている情報量が多いので、勝手に補完してリッチな体験になるようなんです。そう考えた時に、一般の人はガンダムに乗り込んだことがないので、それをそのままやってもリアリティに欠ける体験になってしまうだろうと。それよりはガンダム立像を見たことがある人の方が多く、あの圧倒的なリアリティを経験した脳みそでもってリアルに感じるコンテンツを目指した方が、びっくりするものができるだろう、という意図もあります。
井本: 立像を見ているからこそ「これが動いたらどうなるだろう」って、リアルに想像できると思うんですよ。
──確かに、あの存在感は絶対的ですよね。「ダイバ強襲」を公開してみて、体験した方の反応はどうでしたか?
井本: 我々は「実物大のガンダムが動いたらこんなに怖いんだよ」という恐怖と驚きを狙って作ったのですが、体験された女性の、かなり多くの方から「ガンダムに守られてキュンキュンした」という感想をいただきました。男性はガンダムのカッコよさとかザクの怖さに反応するんですけど、まさか守ってもらうことに感動されるとは……驚きました。
※発売中の「月刊ガンダムエース 2016年11月号」に掲載されている、アイドルグループ・アンジュルムが「ダイバ強襲」を体験したレポートでも、同様の感想が述べられている。
井本: それと、「上がっていく感じがすごい」という感想もよくいただきました。狙って作ってはいたものの、多くの方から開口一番に言われるとは、想定外でした。
田宮: 実際は、ガンダムの手が動き出す瞬間に筐体がガッと揺れ、上がっていく間は等速運動で、手が止まる瞬間にもまたガッと揺らしているだけなんですが、それだけで上がっている感じが出るんです。
井本: 開発中、筐体の揺れができる前に、映像だけの段階があったんですが、それで体験するとすごく気持ち悪いんですよ。目から入ってくる情報だと自分は動いているはずなのに、実際には止まったままなので、感覚にズレがあって気持ち悪く感じるんですね。最終的にうまくいって良かったです。
田宮: 私は、体験者の方がガンダムの手のひらにちゃんと座れるかが心配でした。言ってしまえば、「目隠しをした状態で歩いて座る」というハードルの高いアクションを要求するアクティビティなので。「映像と現物をぴったり合わせればうまくいく」と、理屈上ではわかっていましたが、公開してみたら全く問題なかったのですごく安心しました。実は企画の最初の段階から「ガンダムの手に乗る」というコンセプトだけは決めていて、他の部分はちょっとずつ今の形になっていったのですが、筐体のデザインも、デザイナーは相当悩んでましたね。
井本: (体験者がしがみつく)ガンダムの親指が斜めにカットされてるのは、実は理由があるんです。親指がまっすぐだと、体験者が頭を振った時にHMDがぶつかってしまうんです。安全上の理由から、あのデザインになりました。
▲「ダイバ強襲」の筐体。ガンダムの親指にあたる部分が、斜めにカットされている。
田宮: 本当は親指を板金で作って、鉄の冷たさを感じられる方がリアルかな、と思っていたのですが、やはり安全面から柔らかい素材になりました。シンプルに見えますけど、安全面とのせめぎ合いで結構色々なことが考えられた筐体になっています。
井本: 安全面の確認をする「セーフティレビュー」をした結果、筐体から落ちてしまうことを防ぐために、台座部分を80cm延長したりもしましたね。
──安全面への配慮も相当なものになっているんですね。
田宮: ええ。例えば、座ったまま体験するVRコンテンツでも、始めに立ってもらって、自由に動いた後で体験してもらうと、驚きが全然違うんですね。電車の運転体験ができる「トレインマイスター」は、座ったままプレイするコンテンツですが、VR内のホームを歩いたりしてから運転を始めると、より感動があるんです。ですので、「ダイバ強襲」でも、プレイヤーが自分の意志で歩けるようにしました。
──歩き回れる、ということがプレゼンスにもつながるんですね。実際のガンダム立像前も歩き回れますしね。
井本: そうなんです。立像の周りを歩いたり、駅のホームに立つことは、現実でもできることですが、MSや電車の運転って経験するチャンスがあまりない、ファンタジーなんですよね。
田宮: 「ダイバ強襲」は、先ほども言ったように「ダイバーシティ東京前に立っているガンダム立像」という設定にすることでリアルに引き寄せているので、一般の方でも想像しやすい状況を作っています。また、ファンタジーにリアリティを与えるコツとして、環境との物理現象を挟むようにしています。今回だと、ザクマシンガンの弾が地面にぶつかった瞬間にアスファルトがめくれて破片が飛んでくるとか、つぶれた弾頭が地面に落ちたら足元が振動するとか。環境とファンタジーが接触した瞬間に、自分がよく知っている物理現象を挟み込むと、リアリティのある体験に変えられるんです。
──確かに、「ダイバ強襲」は非現実の世界なのに、リアルな体験でした。それでは最後に、今後の展開などをお聞かせ願えますでしょうか?
田宮: 実は、あるすごい企てをしてるんですけど、一切他言無用と言われておりまして……「VR ZONE Project i Can」は終了しましたが、我々はスピードを緩めるつもりは全くなく、むしろアクセルを思いっきり吹かす状態になっていますので、次に何をしかけてどんなコンテンツを作るのか、十分に期待していただけるんじゃないかと思います。みなさんの想像を超える形で、面白いものができるような気がしております。
──またこれから大変な日々が始まるわけですね?
井本: いえ、もうすでに始まっているんです(笑)。
予定時間を大幅に超過し、かなり踏み込んだインタビューとなったが、「機動戦士ガンダム 戦場の絆」との意外なつながりなど、驚いた部分も大きかったのではないだろうか。
2016年は「VR元年」と呼ばれることも多く、先日開催された「東京ゲームショウ2016」でも、VRに関連する出展は枚挙に暇がないほどだった。「VR ZONE Project i Can」は期間限定の施設だったが、12月9日(金)には、東海地区初となるVR体験コーナーを併設したアミューズメント施設「namco イオンモール長久手店」がオープンする。「ダイバ強襲」の設置予定はないものの、VRを味わうには身近な施設になるだろう。
インタビューでも語られていた通り、バンダイナムコエンターテインメントのVRは早くも次のフェーズに突入しているようだ。続報に期待して、楽しみに待とう。
(ガンダムインフォ編集部)
VR ZONE Project i Can
[場所]ダイバーシティ東京 プラザ3F
[期間]2016年4月15日(金) ~ 10月10日(月・祝) ※ガンダムVR「ダイバ強襲」は、8月26日(金)~
[場所]ダイバーシティ東京 プラザ3F
[期間]2016年4月15日(金) ~ 10月10日(月・祝) ※ガンダムVR「ダイバ強襲」は、8月26日(金)~
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