2007年12月27日 (木)
『ガンプラ再チャレンジ世代の挑戦!』
さて、 前回(*2)の一件ですっかり自信を失い、モデラーとしての道を自ら閉ざしてしまったみゆき少年。以来プラモデルに触れることもなく、押入れの中では今も数点のガンプラが手付かずのままひっそりと 漬かって(*3)います。少年は思春期となり、興味の対象はプラモからTVゲーム、そして異性へと移り変わり、やがて少年は大人になりました。
あれから二十数年……。ふと立ち寄った量販店で、みゆき青年は思いがけずガンプラと再会することになったのです。
(*1) 前へ前へと進むため…ここでジ~ンと感動できた人はドラえもん好き。
(*2) 前回…くわしくはこちら↓
第1回『ガンダム、Gファイターに立つ!?』
第2回『父よ、それはソルティックだ!』
第3回『おもちゃ売り場に戦場を見た!』
第4回『荒野に散った紅いゲルググ』
第5回『リアルタイプ、それは迷彩の罠』
(*3) 漬かる…プラモを買ったはいいものの、組み立てないまま
押入れなどに放置しておく状態のことをこう表現する。「積む」ともいう。
積みプラと見せかけて、実は中身はエロ本だったりする場合も。
母親の魔の手から青春を守る高等技術である。
夢よもう一度…
その日、みゆき青年は彼女と一緒に、梅田の大型量販店で買い物をしていました。しかし人ごみ嫌いの上に飽きっぽいみゆき青年が、長い長い時間をかけてじっくり吟味しまくる女性の買い物に付き合えるはずがありません。案の定彼女にキレられ、とうとう「ここで待ってなさい」とおもちゃ売り場に置き去りにされてしまいました。
新作ゲームのデモムービーなどを見ながら時間を潰していたみゆき青年の目に映ったのは、少し奥のコーナーにあったガンプラの旧キットでした。あの日、プラモ狂四郎を夢見たGアーマーが、父と共に戦場から勝ち取ったグフが、尖端恐怖症という負の財産を与えてくれたテキサスの攻防が、そして二度とプラモは作るまいと誓ったリアルタイプゲルググが、 今も昔と変わらない姿(*4)で棚に並んでいます。
ひとつひとつ、思い出を確かめるように手にとって眺めるみゆき青年。懐かしさとほろ苦さが胸にこみあげます。
「そういえば ハチ(*5)が、 MG(*6)は完成度が高いなんて言ってたっけ……」
気がついた時には、みゆき青年はレジに並んでいました。その手に持っていたのは、MGグフ。あれほど泣いたはずなのに! あれほどプラモは作るまいと決意したはずだったのに…! しかし、再び心に灯ったガンプラへの熱い情熱を抑えることなど、もはやみゆき青年自身にもできなかったのです!
(*4) 今も昔と変わらない姿…発売から20年以上が過ぎた今も、
旧キットは当時と変わらぬ値段とパッケージで売り続けられている。
(*5) ハチ…学生時代の後輩で、みゆき青年の忠実なるしもべ。
飲み会の手配から旅行のチケット予約まで、あらゆる雑務に大活躍。
「無類のガンダム好き」を自称している割にはツメが甘く、
ジャブローの特殊工作班を暗唱しようとすると大抵は4人で詰まる。
ちなみに、読者諸兄は5人ちゃんと言えるかな?
(*6) MG…マスターグレードの略。
大人向けのガンプラとして非常に人気の高いシリーズ。
( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
「は、はは…やっちまった……」
帰ってMGグフの箱を開けたみゆき青年は、愕然としました。なんだこの パーツ数の多さ(*7)は! ていうかヒートロッドとか動力パイプとか、つなぎ目ごとに全部バラバラのパーツなんですけど……。説明書を見ると、ヒートロッドだけでなんとパーツ数48個。ムチ一本作るのに、都合96回もニッパーにぎにぎするんですぜ!?
うーむ、さすがMGの名は伊達じゃない。作り応えもマスタークラスということか。などとブツブツ独り言をつぶやきながら、ひとつひとつ丁寧にパーツを切り取るみゆき青年。机の上に順調に並べていたところでクシャミ発生。彼女に大笑いされつつ涙目で探すも、ヒートロッドパーツをいくつか ロスト(*8)。大人になっても、「ニッパーおへた」の称号はどうやら健在だったようです。
(*7) パーツ数の多さ…元々『究極のガンプラ』を目指して設計されたMG。
初心者でも組みやすいように配慮はなされているものの、
旧キットしか知らない人間が安易な気持ちで手を出した場合、
中々に度肝を抜かれることになる。
だがMGよりさらに格上の、パーツ総数なんと600点以上を誇る
パーフェクトグレードというのがあるから世の中恐ろしい。
良い子はちゃんとハイグレードから入門しような。
(*8) ロスト…その後、引越しの時に部屋の隅から発掘されました。
▲これが問題のヒートロッド。ひとつひとつ全部が別パーツ。
若干パーツを失くしたせいで予定より少し短くなった。
若干パーツを失くしたせいで予定より少し短くなった。
▲腰の動力パイプ。もちろんこれも別パーツ。
▲さらに頭部の動力パイプまで。もう許して……orz
これぞまさに強化新型!
悪戦苦闘の末、ついに完成したMGグフ。なんと、まったくの未塗装でも 設定色(*9)と同じ仕上がり。さらにデカールはかつての水転写タイプと違い、プラモに当てて上からこするだけで転写されるスグレモノ。いや、普段からガンプラを作り慣れてる人には当たり前のことかもしれませんが、20年ぶりにガンプラを手にした僕にとっては、この技術の進歩は本当に驚くべきものでした。
▲この迫力! この重量感! 苦労した甲斐ありました。
(*9) 設定色…ちなみにこれは「‘ONE YEAR WAR 0079’COLOR VERSION」
PS2のゲームソフト用に設定されたカラーバージョンで、
通常のMGグフよりも少し渋めなテイストに仕上がっている。
「勝利の栄光を、君に…!」
今、僕の部屋にはいくつものMGが並んでいます。まだまだ素人なんですが、それでも最近は自分なりに色を塗ってみたりと、楽しみを広げています。なんていうか、今のガンプラって単なる子供のおもちゃではなく、ちゃんとした大人のホビーなんですよね。子供の頃に夢中になって遊んだガンプラが、時代と共に進化し、成熟し、再び僕らを夢中にさせてくれる。凄いことだと思います。
このコラムを読んでくれている僕と同世代の諸君! デートやオフ会も良いですが、たまには部屋に引きこもってガンプラと向かい合うのも楽しいですよ! さあ、あの頃の感動を今すぐ取り戻そうじゃないか!
▲MGグフを手に朝陽を浴びるみゆき青年の勇姿。
息を吸い込み、メタボ気味のお腹を必死に隠す姿に涙せよ。
息を吸い込み、メタボ気味のお腹を必死に隠す姿に涙せよ。
『青春ほろ苦ガンプラ道』は、ひとまずこれでおしまいです。
ご愛読ありがとうございました。
いずれまたどこかでお会いしましょう!
岸本みゆき(フリー脚本家)
【プロフィール】
岸本みゆき(きしもと・みゆき)
1973年生まれ、フリー脚本家。巨大ロボと変身ヒーロー、時代劇をこよなく愛する熱血関西人。現在はテレビアニメ『結界師』のシナリオの他、『SDガンダム三国伝』の構成なども手がけている。
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