2007年7月19日 (木)
朝日ソノラマ編
<はじめに>
このコラムでは主にガンダムに関する児童書についての話題を取り上げていこうと思っています。
とにかく、絵本などの児童向け書籍が振り返られる機会は決して多くはありません。それはガンダム以外の作品においても同様と言えるでしょう。
しかしながら、絵本とは最も低単価であり、かつ最も広範囲な流通ルートを持った出版物であります。それゆえ、絵本の出版点数はリアルタイムにおける人気を推し量る重要なゲージとなりうるのです。
例えば、ここ数年の特撮ヒーローの絵本を書籍販売サイトで調べてみてください。その出版点数がそのまま人気のバロメーターとなって、リアルに伝わってきます。少なくとも「あの作品は人気があった」と語る際の最低限の論拠にはなることでしょう。
前置きはこれまでにさせていただき、知られざるガンダムの世界を見て参りましょう。
■第1回 朝日ソノラマ編
先日、48年間の歴史に幕を下ろすことが報じられた朝日ソノラマ。レクイエムの意味も込めつつ、第1回は同社から出版された絵本について取り上げてみたいと思います。
朝日ソノラマのガンダム関連書は「ソノラマ文庫」の小説版「機動戦士ガンダム」(全3巻)が最も有名ですが、同社から初めて発売されたのが、この「主題歌のソノシート付き絵本 機動戦士ガンダム」です。
このソノシート付き絵本シリーズは、EMが通巻ナンバーに記されていることから通称「EMシリーズ」とも呼ばれています。そもそも「ソノシートって何?」 という人も多いと思いますから、さらりと説明しておきましょう。ソノシートとは簡単に言えば廉価版レコードです。通常のレコード盤よりも薄いために痛みや すく、音質も悪いという弱点もあるものの、製造コストの安さから長らく重宝されていました。なお、ソノシートは朝日ソノラマの登録商標であり、他社では フォノシート、シートレコード、テレシートなどと呼ばれています。
また、ソノシートの独自の利点として、厳密な意味でレコードではないという認識から、原盤権の範疇外に存在していました。それゆえに、カバーバージョンではなく必ずオリジナルの楽曲を使用することができたのです。そこもEMシリーズの魅力になっていました。
EM シリーズに「機動戦士ガンダム」が加わったのは、TVシリーズ放送中の1979年のことでした。絵本は児童向けという大前提がありますから、その内容が作 品を簡略化したものとなるのは必須条件です。普通ですと、宇宙を舞台にガンダムがジオン軍のモビルスーツと戦う話になるわけですが、EMシリーズの場合は オリジナルストーリーとなっていました。
▲EMシリーズ第1集と第2集。いずれも構成は星山博之氏による。第2集の作画はアニメーターの内海勇夫氏が担当。内海氏は 「たのしい幼稚園テレビ絵本 無敵ロボ トライダーG7」(講談社)の作画も手掛けていた。なお、このシリーズは発行日が記載されていないため、正確な発売日は不明。当時価格は各380円。
<あらすじ>
遊園地にやってきたフラウ・ボゥとキッカ、カツ、レツ。そこへモビルスーツに乗ったジオンの兵隊が攻めてきました。デギン・ザビより「ゆうえんちをこわして、てきのロボットをおびきだせ!」(原文ママ)との命令を受けたシャアがやってきたのです。
フラウ・ボゥはホワイトベースに連絡をしました。ちきゅうぼうえいぐん(原文ママ)のホワイトベースはシャアのムサイを発見して攻撃開始。ガンダムは子供の遊び場を壊すザクへ向かっていきます。
デニムとジーンはキッカたち3人を人質に捕りますが、ガンキャノンとガンタンクに助けられました。ザクはねつこうせん(原文ママ)でガンダムを攻撃しますが、はりのついたてつのたま(原文ママ)で破壊され、ムサイも逃げていきます。
遊園地の乗り物は壊れてしまいましたが、ホワイトベース・クルーがみんなで直すことにしました。その間、キッカたちは他の子供たちとともにガンダムで遊び、楽しい一日を過ごしたのです。
▲遊園地を襲撃するモビルスーツ。お話の中でザクの名称は語られておらず、名称がまだ決定していない時期に書かれた原稿である ことが推測できる。
▲初期設定画稿のガンダムハンマー(これも名称が出てこない)でジオン軍のモビルスーツを一撃必殺!! ムサイはTVどおり、 シャア専用の設定が使用されている。
▲ほのぼのとしたラストシーン。ハロもしっかり飛んでいる。ガンダムと戯れる子供たちは、この絵本用に描かれたオリジナルキャ ラクターであった。
お話はざっと、こんな感じです。初見の人は度肝を抜かれたことでしょう。
しかし、僕はTVとかけ離れたストーリーを笑いとばすつもりはありません。むしろ、ガンダムを大胆にアレンジしたことに対して、匠の手腕を感じるのです。
このEMシリーズの構成(脚本)を担当したのはTVシリーズのメイン・ライターである星山博之氏。シナリオの要点を知る人物だからこそ、ガンダムをここまで児童向けに改めることができたのではないでしょうか。
アムロから「お、おまえたちにまけるもんか!」(原文ママ)と、古谷徹氏の声が聞こえてきそうなセリフが出るところなんて、星山氏でなければ書けなかったと思います。
EMシリーズの『機動戦士ガンダム』はTVの放送終了後に第2集が発売され、映画化時期に合わせて第5集まで刊行されました。これは通常のEMシリーズではありえない点数で、ガンダムがどれだけ児童層の人気を得ていたかがわかります。
ちなみに第2集は「小さな防衛線」、第4集は「テキサスの攻防」と「光る宇宙」をモチーフにしていて、TVにより近いお話にシフトしていました。第1集との内容の違いは、ガンダムの物語が児童を含む、世の中に認知されたことを意味しています。
▲第2集はTVとのギャップはほとんどないが、シャアが一貫してグフに乗り続けている点が大きな違いとなった。基本カラーは TVどおりの青だが、1ページのみ赤いグフが登場する。
▲これがEMシリーズのアイデンティティたるソノシート。絵本の巻頭ページにステッカーで貼り付けられている。収録曲は第1集 が「翔べ!ガンダム」で、第 2集以降は「永遠にアムロ」「シャアが来る」「きらめきのララァ」「いまはおやすみ」となっていた。
▲サンライズ作品は『無敵超人ザンボット3』以降、『機甲界ガリアン』までのほとんどのタイトルが発売されていた。なお、『機 動戦士Zガンダム』は「ファ ンタスティックコレクションスペシャル」として対象を若干年齢を上げたグラフ誌として出版されたが、主題歌のソノシートは付属していた。
映像重視のマニアの方から見れば、たかが児童向けの絵本かもしれません。しかし、これも時代の移り変わりを知ることのできる貴重な資料なのです。
(第1回/終)
五十嵐浩司(タルカス)
【プロフィール】
五十嵐浩司(いがらし・こうじ)
ファーストガンダムを朝6時から放送し、あまつさえ26話で打ち切った青森県で生まれ育つ。本業は編集者。
サ ンライズ作品関連では「ガンプラ・ジェネレーション」(講談社)、「蒼き流星SPTレイズナー コンプリートワークス」(新紀元社)、「ガンダムX」「バイファム」「トライダーG7」「ダイオージャ」「ゴウザウラー」「メタルジャック」「エクスカイ ザー」~「ダグオン」(以上、DVD解説書)などを手がける。
最新作はファンコレ「ウルトラマンメビウス アーカイブドキュメント」(朝日ソノラマ)。
タルカス所属。
(C) 創通・サンライズ
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