1/35スケールのミリタリーテイストのプラモデル『U.C.HARD GRAPH』から派生した、2冊の小説(『機動戦士ガンダム U.C.HARD GRAPH 小説』地球連邦軍編&ジオン公国軍編)とコミックス『機動戦士ガンダム U.C.HARD GRAPH 鉄の駻馬』第1巻の書籍発売記念トークイベントが、6月3日に新宿のロフトプラスワンにて開催された。
イベントは3部構成で行われ、第1部は小説版とコミックス版の著者3人が登壇。小説『ジオン公国軍編』の著者である吉祥寺怪人さんが司会を務め、小説『地球連邦軍編』の著者である高橋昌也さん、そしてコミックス『鉄の駻馬』の著者の夏元雅人さんによるクロストークが展開された。
お酒を飲みながらのトークイベントということで、会場のお客さんと共に乾杯し、それぞれの作品の誕生の経緯からスタート。
小説版は当初、もともと編集者である吉祥寺怪人さんが編集を担当、高橋昌也さんが『地球連邦軍編』と『ジオン公国軍編』の両方を書く予定だったが、高橋さんが「(吉祥寺怪人さんは)小説を書く能力のある人だと思っていた」ため、吉祥寺怪人さんに『ジオン公国軍編』を書くよう勧めたとのこと。
また、「一年戦争を振り返る視点で書かれた戦記の翻訳本」という設定や「ひとつの戦場を二つの軍の視点から描く」と言ったような、『地球連邦軍編』と『ジオン公国軍編』がクロスオーバーした内容が企画されていたことも明かされた。
一方コミックス版は、夏元雅人さんがU.C.HARD GRAPH用に描かれた設定画を見て、「このデザインなら、こんな話が描けそうだ」、「あの設定画があったからこそマンガにしたかった」とデザインに惚れたことが連載開始のきっかけであると明かした。
その後話題は、作品執筆にあたっての苦労話へ。
アメリカを舞台にした『地球連邦軍編』を描いた高橋昌也さんは「構想では、日本人の高橋昌也が書いたのではなく、飽くまで外国人作家が書いた本の翻訳ということにしようとしていたので、まず頭の中をアメリカ人に切り替えることが必要だった」こと、そしてそのために毎月、人が滅多に来ない湖畔のロッジに籠もって頭の中から日本人的な感覚を捨てるよう努力したと振り返る。
また、もともと連作短編の構想を長編用に変更したことや、アメリカに異星人が攻めてくるパニック映画のパターンをベースにハリウッド映画的に多方面のキャラクターで描くようにしたという、プロットの面での苦労も話題に上がった。
吉祥寺怪人さんは、『ジオン公国軍編』を描くにあたって、内容の大部分を「主人公が戦後に書いた手記」とし、さらに主人公を取材するジャーナリストによる取材記……という二重の構造をとったため、主人公とジャーナリスト二者の語り口を書き分けるための頭の切り替えに苦労したと明かした。
月刊ガンダムエース誌上で10年にわたってガンダムマンガの連載に関わっている夏元雅人さんは、「今までは、年代によって曖昧なガンダムの設定デザインを、どの年代の設定で描けばいいのか?」という部分で悩んだという、漫画を描く上での苦労話を披露。
「今の一番新しいデザインで描こうと決めたんですが、『MS IGLOO』以降、設定がしっかりして地に足が着いたようになって、逆に制約が増えて苦労している」と、これまでの曖昧な部分からの苦労が、きっちりと描かれた設定を描写する苦労に変わったという、長年ガンダムマンガに携わっているからこその裏話が明かされた。
次の話題は、クリエイターとしてこだわる小説、漫画の中でのリアリティの描き方へ。
夏元雅人さんは、『地球連邦軍編』の劇中に携帯電話を出すという時代性の描き方に感心。
「小説のリアリティの描き方がすごく今風ながら、1970年代に創作された一年戦争という架空の戦争を舞台にしているのに、違和感がなくリアルな部分に感動しました」と語った。
高橋昌也さんは「プラモデル発の企画ですけど、初めてジオン軍のモビルスーツを見た一般の連邦兵は、グフとザクの見分けがつくわけがない…という部分が逆にリアリティなんだろう」と自身の小説の描き方を言及している。
後半には、あくまで希望というレベルで、それぞれが今後描きたい「ガンダム作品」のネタを披露。
「いくつかネタはあるけど、コーネリアス・ライアンやジョン・トーランドがオデッサ作戦を書いたら、多分こうなるだろうという作品を構想しています。何百人もの兵隊にインタビューをして書いたという構成のものですね。それをやってみたいです」(高橋昌也)
「今回、戦争が始まる前の人々の様子を少し書いたのですが、ナチスの台頭の状況をダブらせて、世の中が変わっていく状況を表現できたのが楽しかったので、そこを膨らませるようなものが書ければと。あとは、戦時下での女子工員の話とか、戦争に翻弄される普通の人の話が面白そうですね」(吉祥寺怪人)
「『鉄の駻馬』はクワランを主人公に書いていますけど、他のキャラクターでも描きたいですね。可能ならば『U.C.HARD GRAPH』をシリーズ化してもいいんじゃないかと思っています」(夏元雅人)
そして第1部の最後は、それぞれ自身の作品についてアピール。
「2012年のリアリティとは何か?」を考えて書きました。特に中間管理職の方には共感してもらえて、「判っていただける」話になっているのではないかと思います。(高橋昌也)
今回は小説版の発売に合わせて、オマケのようの登壇させてもらいました。コミックは月刊ガンダムエース誌上で絶賛連載中なので、応援よろしくお願いいたします。(夏元雅人)
小説を書くのは最初で最後かもしれないと思ったので、自分の経験や今の気分を入れ込んでしまい恥ずかしいです。かなりナイーブな内容ですが、同世代の皆さんのなかには共感できるという方もおられるかもしれません。(吉祥寺怪人)
こうして、盛り上がったまま前半である第1部は終了。休憩の後、豪華ゲスト共演の第2部へと突入して行くのだった。
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