『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』のメインスタッフが再結集し制作したスペシャル・プロモーションビデオ『PHASE-IMPULSE』。プ レビュー映像やMG特典映像などをご覧になった方々も多いことだろう。
その最終形ともいえる、「ignited-イグナイテッド -」の楽曲付きのフルバージョンがAMC(ANIME MUSIC CLIP)として、ソニーミュージックのサイト他で7月9日から販売されている。
MGのデータを元にした3DCGで表現 されたインパルスたちが、これでもかと激しく動く迫力の2分間のミュージッククリップ。アップテンポな楽曲にあわせた大胆なカット割り。ガンプラの設計 CADデータを元にしたシャープなスタイリングフォルム。アニメの決めポーズがリアルフォルムの3DCGでよみがえった。新たな『SEED』を思わせるダ イナミックな仕上りとなっている。
スペシャル対談の第2回はこの映像を制作した、絵コンテ・福田己津央氏、演出・重田智氏、CGディレクター・佐藤浩一郎氏の3名に集まっていただき、今回の映像制作のポイントを振り返ってもらった。
(聞き手 : サンライズ ガンダム事業部)
CGの効果など、その他のテーマについても語られている対談の【完全版】はXplosion! GUNDAM SEED にて掲載予定です! お楽しみに!!
――今回のPV制作にあたり、福田監督はどのようなコンセプトを描かれていたのでしょうか?
福田 まずは、MGフォースインパルスのキャンペーン用に使用されるPVということで、3DCGの表現の多様性、インパルスの魅力、曲と映像のマッチング。この 3つが今回のテーマです。TV版になかったシーンを新たに作るのは難しいので、基本はテレビにあったシーンをベースにしようと考えました。今回はある意 味、実験的な要素もあったので、地上だけでなく空中や宇宙のシーンを取り入れて、3DCGによる表現の多様性にも挑戦しています。曲に合わせて映像を作る ことにしたのは、ストーリー性が欲しかったからです。ストーリー性がないと、見ている人たちに与える訴求力がなくなってしまいますから。そう考えた時、僕 の中ではインパルスの曲といえば、『ignited -イグナイテッド-』のイメージが強かったので、この曲にしました。
佐藤 監督からは「TVシリーズの絵をそのままCGに置き換えをする必要はなく、3DCGならではの質感表現だったり、動きやエフェクトで『SEED』の世界を 表現してくれ」ということを初めに言われました。ですので、『SEED』の世界を守りつつ、監督の期待に少しでも応えられるよう、カット毎の+αを考えな がら制作していきました。
福田 あと、もうひとつの チャレンジはセルのキャラと3DCGのMSの組み合わせです。もともとアニメは手前のキャラと背景でタッチが違うものだから違和感があるものなんですが、 それに3DCGという新しい要素が加わったらどうなるか。セルのキャラ、3DCGのメカ、そして背景とのマッチングをどう見せられるかが、今回の課題のひ とつでした。かといって、キャラをCGにしてしまうと、今度は「セルアニメ」ではなくなってしまうので、そこはあえてセルにこだわりました。
――プラモデルのCADデータを元にした3DCGによる映像ですが、アニメに素材として使用するための実作業の過程を教えてください。まずは―
佐藤 プラモデルのCADデータを映像用ソフトで扱えるようにするためには、データ形式を変えてやる必要があるので、まずはそのデータのコンバート作業から入り ました。インパルスのCADデータ量はかなり膨大で、映像用のソフトで動かすのは難しいため、軽量化したモデルを使っています。形状はプラモデルを重視し ていますが、ところどころ重田さんの監修を受け、CG側で調整を行っています。たとえばプラモの強度の関係で太く作られている拳を小さくするとか。おも ちゃとしての稼働用の隙間を埋めるとか、そういった細かい作業ですね。
重田 映像制作とモデリングの調整を同時進行していたので、最終的なカットを見るまでどんなモデルになっているか誰も分からなかったんです(笑)。
佐藤 カットとして上がってきたものに対して、さらに重田さんからの調整が入るので、カットごとにモデリングデータを変えていました。
重田 やり方としてはちょっとイレギュラーなんですが、時間の関係もあって。
――モデルは最終的に何パターンぐらいになったのでしょうか?
佐藤 合体するシーンやシルエット換装もあるので、インパルスのモデルはざっと数えると22パターンぐらいあります。その22パターンを、さらにカットに合わせ て調整しているので、最終的にはかなりの数になりました。ブラストやソードインパルスのデータは(MGのためのCADデータがないので)1/100のデー タを持ってきて、MGインパルスのシルエット装備に近くなるようにチューニングしています。
重田 アニメだと「このシーンでしか出ないから、いい具合に描いてよ」って、アニメーターさんにお願いいしてしまったりするんですけど、3Dモデルでは、それが 簡単にできないのが大変だと実感しましたね。360度回して見ても、おかしくないものを作らなければいけないので、きちんと確認しなければいけないし、時 間もかかる。
佐藤 MSの他には、ゲタ(発進時に MSの足もとを固定させるための足場。カタパルトにある。)とかMSハンガー、電源コードといったものはちゃんと全部作ってあります。本編では一瞬しか出 てこないようなものでも、アニメで設定画を作るように、CGでは360度の立体としての設定画を作ります。
――それだけ調整を重ねたのであれば、プラモデルの形状から大きく変更した部分もあるのでしょうか?
佐藤 股関節の可動システムは重田さんのご意見で大きく調整しました。プラモデルの実寸で、アニメのポーズのように大胆に足を動かすと、カットの動きの内容に よっては胴長短足に見えてしまうことがあるんです。そこでモデルに、見えないスイッチを作って、そのスイッチを入れると股関節の位置が外側にずれる様な仕 組みになっています。MGデスティニーと同じような機構ですね。フリーダムの羽の演技も重田さんのオーダーにあわせたアニメーションを効率的に行うため に、見えないスイッチで複数の翼が連動して動く仕組みになっています。
――PVに登場するインパルス以外のMSは重田さんの監修外のプラモデルですが、こちらのモデリングの手直しも行われたのでしょうか?
佐藤 はい。105ダガーとかも元のCADデータから相当直しましたね。重田さんに監修して頂いたCGモデルはさらにシルエットがSEEDらしくなります。膝の可動も、MGインパルスを参考に、曲げても内部メカが出過ぎないようにスライド機構が設けられました。
――MSだけではなく、ミネルバの内部も作りこまれていますね。
佐藤 基本的な形状は設定から起こしつつも、TVシリーズで「絵」として盛り込まれていた細かな部分を追加したりしました。あとは内側にライトがあったほうがい いとか、重田さんとチェックしながら更に追加しています。コアスプレンダー発進口の壁などにライトがたくさんついてますが、あれは雰囲気作りです(笑)。
重田 内部も作りこまないと殺風景になってしまいますよね。でも、でっちあげでじゃなくて、ちゃんと設定にあるのものから雰囲気にあわせた形で追加していきました。
佐藤 誘導灯のように見えるリニアカタパルトの表現は、TVシリーズの時には床に埋まった光だったんですが、溝の中に灯りがあるような感じで、光が漏れているように見せました。
これは裏話ですが、実は後からブラストディフレクター(排気用の柵)を作り忘れていることに気づいて、セルで描いたものを使用しました。まわりの3DCGになじませる処理をして、立体的にみえるように置いています。
――3DCGということで、色や質感に関して注意された点はありますか?
福田 セルの色と同じものを、セルでない表現をしているものに使ってはいけない、ということだけ伝えました。セルの論法を3Dでは使わないように、ってことです。背景もリアルにするため、暗めに作ってありますから、動かす物体の色もそれにあわせる必要があります。
佐藤 場合によっては暗い宇宙の闇に溶け込んじゃうのもありかな、というご意見でした。
重田 今回の場合、『MS IGLOO』みたいにリアル路線で作ると、視聴者に「今までの『SEED』と違いすぎる」って見えちゃうかなと思い、セルシェード(トゥーンシェード)を選びました。
佐藤 格納庫は格納庫用の色指定を監督が指示しています。ほかのシーンはPV用カラーとして別途CGモデルを用意しました。
――コアスプレンダー発進のシーンは、セルシェードとまた雰囲気が違うようですね。
佐藤 コアスプレンダーが中央カタパルトから発進していくところは光の反射や写り込みで発進口内の雰囲気を表現したかったので、セルシェードじゃなくてリアル シェードを使っています。機体に背景が写りこんだり、本当は無いライトを反射させたり、と細かいこともやっています。カットごとの勢いや雰囲気を重視して 質感などを調整していきました。
重田 戦闘機って、レーダー対策や目視による索敵とかの事を考えると、本当は反射しちゃいけないんじゃないかと(笑)。
ア ニメの場合は、カメラが動いたとしても、光源の位置を決めて、それに対してそれらしい影を描けばいいんですけど、3Dの場合は光源を置いて、きちんと設定 してあげないと影ができない。なので、MSデッキにもカタパルトにも光源があると考えるんですが、その位置とか光量によっては、カットによって影が必要以 上にあちこちに動いていってしまうんです。別にそういった影の動きを見せたいわけではないので、望む絵をつくるには発想を変えていかないといけませんでし た。実写とか特撮のような考え方、段取りが必要だと感じましたね。CGとして見て気持ちいい絵を作るためにはいじる場所も違うものだなと思いました。その あたりの調整は難関でした。
佐藤 冒頭の格納庫内は、結構調整しましたね。
重田 その冒頭のインパルスの装甲がメッキコーティングのように見える色合いはすごくいいなって思っています。こういう表現もいいですよね。雰囲気があって好きです。
佐藤 内部構造のおもしろさを見せるべく、装甲もいくつか開いているんです。これは福田監督の絵コンテでの指示でした。
福田 ほかに整備用のコードがMSに繋がっているところとか、見えてもよかったね(笑)。
重田 それをまた、モデリングするの大変ですよ(笑)。
――3DCGモデルをアニメと同じレイアウト、角度で撮ったら、そのままアニメの絵と同じような感じになり得るのでしょうか?
重田 なりません。なったら誰も苦労しませんよね(笑)。
佐藤 3DCGの場合、止め絵のカットは前から見てるとちゃんと絵になっていますが、横から見ると手首が30センチ以上離れているものとかありますよ。1枚絵と しての完成度を突き詰めるために、実はけっこう無理をさせているんです。頭のつばで目が隠れてしまうというのは、バンダイさんのプラモデルでも常に苦労さ れている部分ということで、今回もアクション中に目が隠れてしまうカットがけっこうありました。その場合、顔の角度を変えていったりとか、角度を変えたく ない場合はつばの部分を変形アニメーションさせ、アップのときに浮き上がるようにするなどし、対応しています。ライティングもけっこう嘘をついています。
重田 手描きと違う部分での苦労がいっぱいありますよね。ポーズも作画で描くのとは微妙に違うし、やっぱり作画で嘘をついて描いてる部分をどうやってCGスタッ フに伝えたらいいのかが一番難しいと思いました。嘘をつかずにポーズを作るとMGサイズの18cmの大きさにしか見えないんですよ。ドキュメンタリーとか 製品紹介といった、モノの形状の正確性を求める映像ではないので、演出上の嘘をつくことに関してはあってもいいと思っています。
佐藤 たとえば、ラストカットは刀をかなり膨張させて迫力を出させています。右脚と左脚でサイズも違いますし。ポーズも最終的にどうバランスをとるかで悩みまし た。左手のサーベルを切ってしまおうか、画面に入れようか。結果的に「あれだけビームが光っていればわかるだろう」ということで、サーベルを思い切って切 りました。皆さんがプラモデルでPVのシーンを再現しようとしてくれれば、制作側の苦労が伝わると思います(笑)。立体的なものを二次元的にかっこよくま とめていくのはまた別の次元のお話しなので。
――パッケージのイラストと、PVのラストカットがお揃いになっていますが、絵コンテを元にして、パッケージのイラストが描かれたそうですね?
福田 絵コンテにエクスカリバーを持たせておいたのは確信犯です。これを描いた以上、MGインパルスにエクスカリバーをセットで付けなければいけなくなりますか らね(笑)。でも、このエクスカリバーを持っているおかげで、インパルスのキャラクター性が際立ってきたと思います。「HCM Pro SEED DESTINY 対決セット」でもエクスカリバーが付属していたから、今回もありかなと思って。持たせておいても文句はいわれないだろうと。
重田 もともとバンダイさんもつける予定だったみたいですよ( 「MG 1/100 ZGMF-X56S/α フォースインパルスガンダム」対談 開発協力・重田 智×バンダイ ホビー事業部開発担当・野口 勉【前編】)。その話を聞いていて、監督が絵コンテに描いたのかと思ってました。みんな考えてることは一緒なんですね。
――インパルスの動きに関しては、どういうコンセプトがあったのでしょうか?
福田 インパルスは「アニメの動きをCGで表現するとどうなるか」というコンセプトですね。それ以外のMSに関しては逆に「CGをアニメっぽく表現するとどうなるのだろうか」と考えていました。
佐藤 今回はSEEDの世界の「重田イズム」、と勝手に呼んでるんですけど(笑)、そういう、重田さんが描かれる独特の絵のイメージを大切にしていきたいと考え ていました。ラフ原(動きやタイミングを確認するために描かれたラフの原画)を元に簡易モデルを作って動きを乗せ、監督と重田さんに相談をしながらアニ メーションを詰めていきました。
重田さんの絵の動きと言うのは、5コマ先、10コマ先でポーズもカメラレンズも変わってしまうくらい大胆に動いて たりするんです。そういった重田さんの大胆な動きを、パースを保ったまま描いてしまうCGで再現すると、動きが遅く感じてしまう原因になることがありま す。これは重田さんの「絵と絵を繋ぐ変化量」に対し、CGの「リアルな計算による変化量」の方が絵の変化量が少ないために、そう感じられてしまうのだと思 います。
そういった場合は、CGアニメーションのタメツメを強調したり、カメラレンズをカットの途中で変更するなどし、対応していきました。いい 意味で、嘘をついていかなければいけない。そこがすごく難しい部分ですね。重田さんの動きを再現するという意味ではモデルの調整も含め、かなり無理をさせ てます。
福田 ということは、かなり邪道な描き方ってことかな(笑)。
重田 ええ~っ。自分では普通だと思ってるのに……。
福田 重田さんのラフ原見ただけじゃ、普通のアニメーターは描けませんよ。
重田 誤解されているようで困るんだけど、僕はいまだにちゃんと設定を見ながら設定通りに絵を描いているつもりなんですよ!
――最後に、今回のまとめをお願いします。
福田 今回は試験的な意味を兼ねていたので、全てのカットそれぞれが持っている意味あいが違う。CGスタッフをいじめているわけではないのですが、わざと各カットで同じ方法論がとれないように作りましたね。
重田 意地悪だよね。(笑)
佐藤 いえいえ、シークエンスごとにハードルをたくさん設けていただいたので、その点はやりがいがありました。全部に全力投球しなきゃいけないので大変でしたが。
福田 すべてが次に向うための課題です。自分たちの中のハードルというわけです。
佐藤 監督からは先陣切って目指す目的地を提示してもらっているので、ついていく側としては非常にやりやすかったですね。技術や表現方法が進化していくなかで、 監督も常にアンテナを張り巡らせていらっしゃって、今回CGという表現技術に積極的に取り組んでくれたのがうれしかったです。重田さんも別分野でありなが ら、テクニカルな面でもいろいろなアドバイスをいただきました。おふたりとも頂上についたときには次の山を目指したくなるような人なので、『SEED』の 映像は今後も進化し続けるんじゃないでしょうか
重田 何だかすごく褒められていますよ、監督。
福田 言ってくれるなぁ。
佐藤 言わせてください(笑)。
福田 僕らは比較的後ろ向きなので(笑)。
佐藤 変にベタ褒めするわけじゃないですけど、「自分がやりたかったことをここまでやれた」という状況って、なかなか巡り合えないものなんですよ。やりきれな かった悔しさと課題点ばかり残ってしまう。でも今回のPVは監督に自由にやらせていただいて、重田さんにたくさんのご意見をいただいて、すごく勉強になり ましたし、スタッフにも恵まれました。参加できてすごくよかったなと思える作品でした。
(6月中旬、サンライズ本社にて)
CGの効果など、その他のテーマについても語られている対談の【完全版】はXplosion! GUNDAM SEED にて掲載予定です! お楽しみに!!
MGのデータを元にした3DCGで表現 されたインパルスたちが、これでもかと激しく動く迫力の2分間のミュージッククリップ。アップテンポな楽曲にあわせた大胆なカット割り。ガンプラの設計 CADデータを元にしたシャープなスタイリングフォルム。アニメの決めポーズがリアルフォルムの3DCGでよみがえった。新たな『SEED』を思わせるダ イナミックな仕上りとなっている。
スペシャル対談の第2回はこの映像を制作した、絵コンテ・福田己津央氏、演出・重田智氏、CGディレクター・佐藤浩一郎氏の3名に集まっていただき、今回の映像制作のポイントを振り返ってもらった。
(聞き手 : サンライズ ガンダム事業部)
CGの効果など、その他のテーマについても語られている対談の【完全版】はXplosion! GUNDAM SEED にて掲載予定です! お楽しみに!!
PVは3つのテーマから作られる
――今回のPV制作にあたり、福田監督はどのようなコンセプトを描かれていたのでしょうか?
福田 まずは、MGフォースインパルスのキャンペーン用に使用されるPVということで、3DCGの表現の多様性、インパルスの魅力、曲と映像のマッチング。この 3つが今回のテーマです。TV版になかったシーンを新たに作るのは難しいので、基本はテレビにあったシーンをベースにしようと考えました。今回はある意 味、実験的な要素もあったので、地上だけでなく空中や宇宙のシーンを取り入れて、3DCGによる表現の多様性にも挑戦しています。曲に合わせて映像を作る ことにしたのは、ストーリー性が欲しかったからです。ストーリー性がないと、見ている人たちに与える訴求力がなくなってしまいますから。そう考えた時、僕 の中ではインパルスの曲といえば、『ignited -イグナイテッド-』のイメージが強かったので、この曲にしました。
佐藤 監督からは「TVシリーズの絵をそのままCGに置き換えをする必要はなく、3DCGならではの質感表現だったり、動きやエフェクトで『SEED』の世界を 表現してくれ」ということを初めに言われました。ですので、『SEED』の世界を守りつつ、監督の期待に少しでも応えられるよう、カット毎の+αを考えな がら制作していきました。
福田 あと、もうひとつの チャレンジはセルのキャラと3DCGのMSの組み合わせです。もともとアニメは手前のキャラと背景でタッチが違うものだから違和感があるものなんですが、 それに3DCGという新しい要素が加わったらどうなるか。セルのキャラ、3DCGのメカ、そして背景とのマッチングをどう見せられるかが、今回の課題のひ とつでした。かといって、キャラをCGにしてしまうと、今度は「セルアニメ」ではなくなってしまうので、そこはあえてセルにこだわりました。
22パターンにも及ぶモデル調整
――プラモデルのCADデータを元にした3DCGによる映像ですが、アニメに素材として使用するための実作業の過程を教えてください。まずは―
佐藤 プラモデルのCADデータを映像用ソフトで扱えるようにするためには、データ形式を変えてやる必要があるので、まずはそのデータのコンバート作業から入り ました。インパルスのCADデータ量はかなり膨大で、映像用のソフトで動かすのは難しいため、軽量化したモデルを使っています。形状はプラモデルを重視し ていますが、ところどころ重田さんの監修を受け、CG側で調整を行っています。たとえばプラモの強度の関係で太く作られている拳を小さくするとか。おも ちゃとしての稼働用の隙間を埋めるとか、そういった細かい作業ですね。
▲MGインパルスのモデルが映像に使用されるにあたり、重田氏の監修がさらに加わっている。
重田 映像制作とモデリングの調整を同時進行していたので、最終的なカットを見るまでどんなモデルになっているか誰も分からなかったんです(笑)。
佐藤 カットとして上がってきたものに対して、さらに重田さんからの調整が入るので、カットごとにモデリングデータを変えていました。
重田 やり方としてはちょっとイレギュラーなんですが、時間の関係もあって。
――モデルは最終的に何パターンぐらいになったのでしょうか?
佐藤 合体するシーンやシルエット換装もあるので、インパルスのモデルはざっと数えると22パターンぐらいあります。その22パターンを、さらにカットに合わせ て調整しているので、最終的にはかなりの数になりました。ブラストやソードインパルスのデータは(MGのためのCADデータがないので)1/100のデー タを持ってきて、MGインパルスのシルエット装備に近くなるようにチューニングしています。
重田 アニメだと「このシーンでしか出ないから、いい具合に描いてよ」って、アニメーターさんにお願いいしてしまったりするんですけど、3Dモデルでは、それが 簡単にできないのが大変だと実感しましたね。360度回して見ても、おかしくないものを作らなければいけないので、きちんと確認しなければいけないし、時 間もかかる。
佐藤 MSの他には、ゲタ(発進時に MSの足もとを固定させるための足場。カタパルトにある。)とかMSハンガー、電源コードといったものはちゃんと全部作ってあります。本編では一瞬しか出 てこないようなものでも、アニメで設定画を作るように、CGでは360度の立体としての設定画を作ります。
▲あまり目に付かないオブジェクトもしっかりと作りこまれている。
――それだけ調整を重ねたのであれば、プラモデルの形状から大きく変更した部分もあるのでしょうか?
佐藤 股関節の可動システムは重田さんのご意見で大きく調整しました。プラモデルの実寸で、アニメのポーズのように大胆に足を動かすと、カットの動きの内容に よっては胴長短足に見えてしまうことがあるんです。そこでモデルに、見えないスイッチを作って、そのスイッチを入れると股関節の位置が外側にずれる様な仕 組みになっています。MGデスティニーと同じような機構ですね。フリーダムの羽の演技も重田さんのオーダーにあわせたアニメーションを効率的に行うため に、見えないスイッチで複数の翼が連動して動く仕組みになっています。
▲大胆な重田演出を再現するために作られたスイッチ。通称“重田スイッチ”と呼ばれてるとか……?
▲フリーダムの翼コントローラー。
――PVに登場するインパルス以外のMSは重田さんの監修外のプラモデルですが、こちらのモデリングの手直しも行われたのでしょうか?
佐藤 はい。105ダガーとかも元のCADデータから相当直しましたね。重田さんに監修して頂いたCGモデルはさらにシルエットがSEEDらしくなります。膝の可動も、MGインパルスを参考に、曲げても内部メカが出過ぎないようにスライド機構が設けられました。
▲重田氏が製作監修を行っていなかったMGフリーダムも今回映像化するにあたり、各部に調整が加わっている。
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――MSだけではなく、ミネルバの内部も作りこまれていますね。
佐藤 基本的な形状は設定から起こしつつも、TVシリーズで「絵」として盛り込まれていた細かな部分を追加したりしました。あとは内側にライトがあったほうがい いとか、重田さんとチェックしながら更に追加しています。コアスプレンダー発進口の壁などにライトがたくさんついてますが、あれは雰囲気作りです(笑)。
重田 内部も作りこまないと殺風景になってしまいますよね。でも、でっちあげでじゃなくて、ちゃんと設定にあるのものから雰囲気にあわせた形で追加していきました。
佐藤 誘導灯のように見えるリニアカタパルトの表現は、TVシリーズの時には床に埋まった光だったんですが、溝の中に灯りがあるような感じで、光が漏れているように見せました。
これは裏話ですが、実は後からブラストディフレクター(排気用の柵)を作り忘れていることに気づいて、セルで描いたものを使用しました。まわりの3DCGになじませる処理をして、立体的にみえるように置いています。
▲コアスプレンダーの後方にあるブラストディフレクターが手描きで描かれた部分。一見すると気づかない。
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▲スリットに灯りが置かれたように変更され、いっそう雰囲気が出ている。
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その場にふさわしい色と質
――3DCGということで、色や質感に関して注意された点はありますか?
福田 セルの色と同じものを、セルでない表現をしているものに使ってはいけない、ということだけ伝えました。セルの論法を3Dでは使わないように、ってことです。背景もリアルにするため、暗めに作ってありますから、動かす物体の色もそれにあわせる必要があります。
佐藤 場合によっては暗い宇宙の闇に溶け込んじゃうのもありかな、というご意見でした。
重田 今回の場合、『MS IGLOO』みたいにリアル路線で作ると、視聴者に「今までの『SEED』と違いすぎる」って見えちゃうかなと思い、セルシェード(トゥーンシェード)を選びました。
佐藤 格納庫は格納庫用の色指定を監督が指示しています。ほかのシーンはPV用カラーとして別途CGモデルを用意しました。
――コアスプレンダー発進のシーンは、セルシェードとまた雰囲気が違うようですね。
佐藤 コアスプレンダーが中央カタパルトから発進していくところは光の反射や写り込みで発進口内の雰囲気を表現したかったので、セルシェードじゃなくてリアル シェードを使っています。機体に背景が写りこんだり、本当は無いライトを反射させたり、と細かいこともやっています。カットごとの勢いや雰囲気を重視して 質感などを調整していきました。
重田 戦闘機って、レーダー対策や目視による索敵とかの事を考えると、本当は反射しちゃいけないんじゃないかと(笑)。
ア ニメの場合は、カメラが動いたとしても、光源の位置を決めて、それに対してそれらしい影を描けばいいんですけど、3Dの場合は光源を置いて、きちんと設定 してあげないと影ができない。なので、MSデッキにもカタパルトにも光源があると考えるんですが、その位置とか光量によっては、カットによって影が必要以 上にあちこちに動いていってしまうんです。別にそういった影の動きを見せたいわけではないので、望む絵をつくるには発想を変えていかないといけませんでし た。実写とか特撮のような考え方、段取りが必要だと感じましたね。CGとして見て気持ちいい絵を作るためにはいじる場所も違うものだなと思いました。その あたりの調整は難関でした。
佐藤 冒頭の格納庫内は、結構調整しましたね。
重田 その冒頭のインパルスの装甲がメッキコーティングのように見える色合いはすごくいいなって思っています。こういう表現もいいですよね。雰囲気があって好きです。
佐藤 内部構造のおもしろさを見せるべく、装甲もいくつか開いているんです。これは福田監督の絵コンテでの指示でした。
福田 ほかに整備用のコードがMSに繋がっているところとか、見えてもよかったね(笑)。
重田 それをまた、モデリングするの大変ですよ(笑)。
▲冒頭の格納庫内のカット。左胸のハッチが開いているのがわかるだろうか。他にも腕や脚のハッチも開いているのが映像で確認で きる。左肩のFAITHマークはこのシーンでしかついていないサービスショットだ。
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3Dにも必要な“嘘(ディフォルメ)”
――3DCGモデルをアニメと同じレイアウト、角度で撮ったら、そのままアニメの絵と同じような感じになり得るのでしょうか?
重田 なりません。なったら誰も苦労しませんよね(笑)。
佐藤 3DCGの場合、止め絵のカットは前から見てるとちゃんと絵になっていますが、横から見ると手首が30センチ以上離れているものとかありますよ。1枚絵と しての完成度を突き詰めるために、実はけっこう無理をさせているんです。頭のつばで目が隠れてしまうというのは、バンダイさんのプラモデルでも常に苦労さ れている部分ということで、今回もアクション中に目が隠れてしまうカットがけっこうありました。その場合、顔の角度を変えていったりとか、角度を変えたく ない場合はつばの部分を変形アニメーションさせ、アップのときに浮き上がるようにするなどし、対応しています。ライティングもけっこう嘘をついています。
▲ビームライフルを構えたフリーダム。正面から見ると決まっているが、横から見ると……。
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▲プラモデルでこのアングルにすると本当は目が隠れてしまうのだが、つばの部分がせりあがって目がくっきり見えるようになっている。
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重田 手描きと違う部分での苦労がいっぱいありますよね。ポーズも作画で描くのとは微妙に違うし、やっぱり作画で嘘をついて描いてる部分をどうやってCGスタッ フに伝えたらいいのかが一番難しいと思いました。嘘をつかずにポーズを作るとMGサイズの18cmの大きさにしか見えないんですよ。ドキュメンタリーとか 製品紹介といった、モノの形状の正確性を求める映像ではないので、演出上の嘘をつくことに関してはあってもいいと思っています。
佐藤 たとえば、ラストカットは刀をかなり膨張させて迫力を出させています。右脚と左脚でサイズも違いますし。ポーズも最終的にどうバランスをとるかで悩みまし た。左手のサーベルを切ってしまおうか、画面に入れようか。結果的に「あれだけビームが光っていればわかるだろう」ということで、サーベルを思い切って切 りました。皆さんがプラモデルでPVのシーンを再現しようとしてくれれば、制作側の苦労が伝わると思います(笑)。立体的なものを二次元的にかっこよくま とめていくのはまた別の次元のお話しなので。
▲迫力のある絵を描くために嘘が必要なのと同じく、3Dでもさまざまな「効果的な」嘘が必要なのだ。
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――パッケージのイラストと、PVのラストカットがお揃いになっていますが、絵コンテを元にして、パッケージのイラストが描かれたそうですね?
福田 絵コンテにエクスカリバーを持たせておいたのは確信犯です。これを描いた以上、MGインパルスにエクスカリバーをセットで付けなければいけなくなりますか らね(笑)。でも、このエクスカリバーを持っているおかげで、インパルスのキャラクター性が際立ってきたと思います。「HCM Pro SEED DESTINY 対決セット」でもエクスカリバーが付属していたから、今回もありかなと思って。持たせておいても文句はいわれないだろうと。
重田 もともとバンダイさんもつける予定だったみたいですよ( 「MG 1/100 ZGMF-X56S/α フォースインパルスガンダム」対談 開発協力・重田 智×バンダイ ホビー事業部開発担当・野口 勉【前編】)。その話を聞いていて、監督が絵コンテに描いたのかと思ってました。みんな考えてることは一緒なんですね。
――インパルスの動きに関しては、どういうコンセプトがあったのでしょうか?
福田 インパルスは「アニメの動きをCGで表現するとどうなるか」というコンセプトですね。それ以外のMSに関しては逆に「CGをアニメっぽく表現するとどうなるのだろうか」と考えていました。
佐藤 今回はSEEDの世界の「重田イズム」、と勝手に呼んでるんですけど(笑)、そういう、重田さんが描かれる独特の絵のイメージを大切にしていきたいと考え ていました。ラフ原(動きやタイミングを確認するために描かれたラフの原画)を元に簡易モデルを作って動きを乗せ、監督と重田さんに相談をしながらアニ メーションを詰めていきました。
重田さんの絵の動きと言うのは、5コマ先、10コマ先でポーズもカメラレンズも変わってしまうくらい大胆に動いて たりするんです。そういった重田さんの大胆な動きを、パースを保ったまま描いてしまうCGで再現すると、動きが遅く感じてしまう原因になることがありま す。これは重田さんの「絵と絵を繋ぐ変化量」に対し、CGの「リアルな計算による変化量」の方が絵の変化量が少ないために、そう感じられてしまうのだと思 います。
そういった場合は、CGアニメーションのタメツメを強調したり、カメラレンズをカットの途中で変更するなどし、対応していきました。いい 意味で、嘘をついていかなければいけない。そこがすごく難しい部分ですね。重田さんの動きを再現するという意味ではモデルの調整も含め、かなり無理をさせ てます。
福田 ということは、かなり邪道な描き方ってことかな(笑)。
重田 ええ~っ。自分では普通だと思ってるのに……。
福田 重田さんのラフ原見ただけじゃ、普通のアニメーターは描けませんよ。
重田 誤解されているようで困るんだけど、僕はいまだにちゃんと設定を見ながら設定通りに絵を描いているつもりなんですよ!
SEEDはまだまだ進化し続ける!
――最後に、今回のまとめをお願いします。
福田 今回は試験的な意味を兼ねていたので、全てのカットそれぞれが持っている意味あいが違う。CGスタッフをいじめているわけではないのですが、わざと各カットで同じ方法論がとれないように作りましたね。
重田 意地悪だよね。(笑)
佐藤 いえいえ、シークエンスごとにハードルをたくさん設けていただいたので、その点はやりがいがありました。全部に全力投球しなきゃいけないので大変でしたが。
福田 すべてが次に向うための課題です。自分たちの中のハードルというわけです。
佐藤 監督からは先陣切って目指す目的地を提示してもらっているので、ついていく側としては非常にやりやすかったですね。技術や表現方法が進化していくなかで、 監督も常にアンテナを張り巡らせていらっしゃって、今回CGという表現技術に積極的に取り組んでくれたのがうれしかったです。重田さんも別分野でありなが ら、テクニカルな面でもいろいろなアドバイスをいただきました。おふたりとも頂上についたときには次の山を目指したくなるような人なので、『SEED』の 映像は今後も進化し続けるんじゃないでしょうか
重田 何だかすごく褒められていますよ、監督。
福田 言ってくれるなぁ。
佐藤 言わせてください(笑)。
福田 僕らは比較的後ろ向きなので(笑)。
佐藤 変にベタ褒めするわけじゃないですけど、「自分がやりたかったことをここまでやれた」という状況って、なかなか巡り合えないものなんですよ。やりきれな かった悔しさと課題点ばかり残ってしまう。でも今回のPVは監督に自由にやらせていただいて、重田さんにたくさんのご意見をいただいて、すごく勉強になり ましたし、スタッフにも恵まれました。参加できてすごくよかったなと思える作品でした。
(6月中旬、サンライズ本社にて)
CGの効果など、その他のテーマについても語られている対談の【完全版】はXplosion! GUNDAM SEED にて掲載予定です! お楽しみに!!
福田 己津央(ふくだ みつお) アニメーション監督、演出家。サンライズのロボット作品の多くの演出を手掛けてきている。 主な代表作は 『機甲戦記ドラグナー』(演出)、『魔神英雄伝ワタル』(演出)、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』(監督、絵コンテ)、『GEAR戦士電童』(総監 督、絵コンテ)、『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(監督、演出、絵コンテ)など。 |
重田 智(しげた さとし) アニメーター。特にメカ系のアニメに数多く参加している。ダイナミックで迫力のある構図が特徴的。 代 表作は『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』ビデオシリーズ(メカ作画監督)、『GEAR戦士 電童』(総メカ作画監督)、『機動戦士ガンダム SEED』『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(チーフメカ作画監督)など。 |
佐藤 浩一郎(さとう こういちろう) CGディレクター、エフェクトクリエイター。サンライズ作品のCGディレクションやエフェクトを主に担当している。 主 な代表作は『SDガンダムフォース』(CGエフェクトスーパーバイザー)、『超劇場版 ケロロ軍曹』(CGエフェクトスーパーバイザー)、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(CGテクニカルディレクター)など。 |
ガンダムインフォ編集部
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