そんななか、いま最も注目されているキーワード「ジョブ型雇用」について、「メンバーシップ型雇用」と比較しながら、ガンダムの世界に学んでいきましょう。Gundam Meets Businessシーズン2の最終回である第20回、どうぞお楽しみください。
こうした環境下で
「自分は効率あがって最高だ。もうオフィスとか不要だね」
などと公言するベテランもいそうです。すでに風雪を経て、ある程度のノウハウも確立し、自分自身を育成する方法やそうした機会を確保する人脈もお持ちなのでしょう。自分たちだけなら「仕事をするのにオフィスとか、対面の会議とか不要」というのは正しそうです。ガデムやブーン、ドレンなどの部隊長クラスのベテランにとっては、少しばかりの不具合は大きな問題にはなりません。
ところが、まだ成長の途上にある入社1年目から数年目の、経歴もキャリアも明確には定まっていない駆け出しのプロフェッショナルたちはそうではありません。
1年戦争の戦場に例を求めるなら、サンダーボルト宙域の母艦ビーハイヴでフルアーマー・ガンダムに敬礼していたムーア同胞団の若いパイロットたちや、ア・バオア・クー防衛戦に投入された学徒兵たちです。いくら将来を嘱望され、よしんばニュータイプの素養があったとしても、ろくな訓練もなく激戦に投入されてしまっては、活躍も成長もままならないでしょう。
オフィスにいれば、それはいわば有視界下の活動です。近くにいる先輩や上司が、部下の成功や貢献は褒め、失策や悪手は指摘してくれそうです。部下たちも、たとえ言語化が苦手でも、その場で資料を広げて説明しアドバイスを求められます。ところがリモートでは、ややもするとゼロ視界下の孤独な戦いです。
そうなると、オンラインの限定的な会話だけで行動し続けねばなりません。いつも勇気づけてくれる同僚も、見守ってくれる上司も隣の机にはいません。タイムリーなアドバイスをくれる元上司やメンターの先輩も、社員食堂やオフィスの廊下で「偶然に居合わせる」可能性はゼロになってしまいました。
ベテランたちが育ってきた背景には、そうした先輩や上司やメンターたちとの、タイムリーで非公式でカジュアルな、セレンディピティ (思わぬものを幸運にも掴み取ること)な会話がありました。偶然の接触頻度を高める作用の高密度なオフィスがあれば、風や昆虫による自然交配のように育成の花が実を結ぶこともあるでしょう。ですが、そうした有機的なオフィス環境に戻ることは、昨今の情勢ではあまり期待できそうもありません。
次世代のプロフェッショナルを育てるためには、新しい時代の工夫が必要です。
そのヒントは、「ジョブ型」と呼ばれる雇用形態に見つけられるかもしれません。
職種別採用などと呼ばれることもあったジョブ型では、明確な職務定義を前提として採用・雇用されます。欧米企業に多い制度で、仕事の内容を記した「ジョブディスクリプション(業務の記述)」に則って仕事をします。
モビルスーツのパイロットとして雇われたのであれば、基本的にはモビルスーツの操縦を任され、組織に貢献します。職域が変更になったとしても、せいぜいモビルアーマーを任される程度のことで「来月から要塞経理部に転属」ということはありません。
また、スキル(技術)やコンピテンシー(性質)、特定の経験の有無などがリスト化されていることも多いでしょう。これらは「いいプロフェッショナル」の定義でもあるので、育成の指針ともなります。「来年はスキルAを獲得するために、プロジェクトBを担当してみましょう」という具合に、ミッション(任務)とラーニング(学び)が直結することで、仕事と成長が密接につながります。
さらに、その領域の役員クラスへとつながるキャリアパス(昇進の過程)が示されていれば、次世代の育成にもつなげられます。個々のプロフェッショナルと、自律的な組織強化が仕組みとして機能すると理想的です。
日本の企業では、メンバーシップ型とも呼ばれる、企業組織のメンバーとして採用・雇用される時代が長く続いてきました。終身雇用とも通じる制度ですが、例えば「ソロモン要塞勤務」と帰属が決まれば、ジョブローテーションでやることは変わりつつも、退役までソロモン要塞で勤務する方式です。
「ソロモン要塞の東側の設備は全部知っている」とか、「A中隊の中隊長と砲兵大隊の大隊長は、昔から仲が悪いから、共同作戦は気をつけること」など、「ソロモン要塞のプロフェッショナル」になりつつも、スキル的には特に何ができるわけでもない人材が大量に生み出されることがあります。そうした組織においても、ジョブ型のようにまずは「自らが獲得すべきスキルリスト」を意識することは、「ソロモン要塞きっての腕利きパイロット」や「ジオン軍最高の工廠長」に通じるかもしれません。
そして筆者は宇宙世紀に思いを馳せます。
“我々は日々思い続けた。ビジネスプロフェッショナルとしての成長を信じ、年功序列の業火に焼かれていった者達のことを。
そして今また、敢えてその火中に飛び入らんとする若者のことを。
プロフェッショナルの心からの希求であるビジネスと組織の成長に対し、社内政治がその強大な人事力を行使して、ささやかなるその芽を摘み取ろうとしている意図を証明するに足る事実を、私は存じている。
かりそめの平和への囁きに惑わされることなく、繰り返し心に聞こえてくる組織の名誉のために、ジーク・ジオン!”
Gundam Meets Business シーズン2(第11回〜第20回)、いかがでしたでしょうか?
物事がどんどん複雑に、多様化している時代に突入して久しいですが、ビジネスの本質や戦略自体は、そうそう変わるものではありません。これからもビジネスを遂行する上で大事なことをガンダムから学んでいきたいと思います。
Gundam Meets Businessでは、皆様からのご意見・ご感想をお待ちしております。お便りは、ガンダムインフォのお問い合わせフォームよりお願い致します。
GMBとは
ガンダムをこよなく愛し、ガンダムでビジネスを語る、謎でもないマーケターユニット。
音部 大輔
日米P&G、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、資生堂などで、マーケティング担当副社長やCMOとしてマーケティング組織を構築・指揮し、持続的成長を実現。2018年より株式会社クー・マーケティング・カンパニー代表取締役。国内外のさまざまなクライアント企業にマーケティング組織強化など提供。博士(経営学 神戸大学)。日本マーケティング学会 理事。日経BPマーケター・オブ・ザ・イヤー審査員、日経BtoBデジタル・マーケティングアワード審査員。著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)、『マーケティングプロフェッショナルの視点』(日経BP)
新卒でクレディセゾン入社。その後ジェイアール東日本企画、電通、トランスコスモス、メトロアドエージェンシー、電通レイザーフィッシュ(現電通アイソバー)を経て、2015年インフォバーン入社。2017年に取締役に就任。2019年より取締役COO。マスからデジタルまで精通し、オンラインとオフラインを横断する総合的なコミュニケーションデザイン及び新規事業開発・推進が得意。
一般社団法人マーケターキャリア協会 代表理事。
豊後 祐紀
29歳。新卒でデジタルマーケティング支援会社、読売広告社 シンガポール支店を経て、2017年12月より子供の頃の夢だったゲームのマーケターとしてDMM.com(現 DMM GAMES)に所属。eスポーツ(PUBG JAPAN SERIES)におけるマーケティングやスポンサードを担当。自社のeスポーツのファン層拡大だけでなく、eスポーツ全体を視聴層を広げるために尽力している。
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