そのヒントをガンダムに探してみるGundam Meets Businessの第16回、どうぞお楽しみください。
一方で、まったくそうではない新規事業部門も少なくありません。流通企業を販売チャネルとして長期にわたって協働してきたメーカーが、新規事業としてDtoC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー。直販やeコマース)を開発するプロジェクトでは、既存取引先との関係悪化を懸念する部門からの横やりが入ることもあります。
従来の製品設計とは異なり、デジタル化したサービスやパーソナライゼーションを伴う新商品を開発するチームなどでは、ビジネスモデルの変革を理解しない部門から忌避されることもあるでしょう。このような場合には、関連部局の思惑や力関係などから、さまざまなダイナミズムに翻弄されるかもしれません。
そうした事態は、多くの企業、特に大企業の新規事業開発部門でしばしば見られます。国内企業でも外資系企業でも、事情は似たようなものです。配属されたチームメンバーにしてみれば、導入すら不確定な新規事業が、政治的にも不安定な環境におかれるのは不安なことです。
連邦軍の中で、第13独立戦隊とされたホワイトベースは、恵まれない新規事業部門のようにも見えます。ジャブロー以降には正式に編入されつつも、気鋭のニュータイプ部隊という扱いではなく、囮部隊として放置されていた様子がうかがえます。
ジオン軍では、モビルスーツ以前にモビルワーカーを開発していた、トレノフ・Y・ミノフスキー博士の研究チームが該当しそうです。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』で示されたように、ミノフスキー博士のモビルワーカーへの投資はまさに風前の灯でした。ギレンの一声で、いつ止まってもおかしくない状態だったようです。
では、こうした不遇の新規事業は、どのような対策を持ちうるでしょうか?
今日明日を生きながらえ、突破口を見出すためには、支援者を見つけることが役立ちます。支援者は、外資系企業では「スポンサー」などと呼ばれますが、ミノフスキー博士にはドズルが、第13独立戦隊にはレビル将軍とマチルダさんがスポンサーとして機能しており、彼らの支持が、困難な局面を乗り切る大事な“よすが”となりました。
誰かの肝いりで始まることの多い新規事業開発では、その発案者にスポンサーを担ってもらうのが手っ取り早いかもしれません。
加えて、あらためて言うまでもないことですが、真っ当な戦績・実績を出すことも重要です。場合によっては他の部局などから嫉妬を買うかもしれませんが、基本的には勝てば官軍です。所与の目的をうまく再解釈し、資源優勢を確立して戦略を固めましょう。
腕の立つ代理店や手練れのコンサルタントを雇うことが、効果的な一手となることもあります。困難が予想されるミッションこそ、できる限り資源を拡張するよう心がけたいものです。特に自身の経験が限定的な領域で経験と時間を買うことは、勝機を高めることが期待できます。
大事なことに、ここでいう実績は、売り上げや利益といった直接的な成果のみを意味するものとは限りません。特に、新しい領域での実践では、緒戦から大戦果を期待できることは少ないものです。しばらくは、成果の基準も曖昧かもしれません。こうした場面では、評価指標を正しく設定することも重要です。主体的に、何を達成すべきか提案していきましょう。
いまだラーニングを積むべきステージなのに、通常通りの利益を要求されて破綻した新規事業開発はたくさんあります。
ジオングは脚部がなくてもうまく機能しましたが、新規事業は万全の体制で臨んでも不測の事態が起きるものです。第9回でも触れたように、しばらくは失敗が続くことを前提とした組織と評価設計は不可欠です。ラーニングを成果指標にするなど、進捗を正しく評価できる仕組みを整えましょう。
ミノフスキー博士本人は亡命に失敗しましたが、スポンサーの支援と技術的な成功をうまくプレゼンテーションして、モビルスーツによる新時代の幕を開けました。ホワイトベースはひたすら生き延びることが目的でしたが、同時にその目的はジャブローの総司令部から期待された囮部隊の役割とも一致していました。
その過程でニュータイプ部隊としての覚醒を必要としましたが、それもスポンサーであるレビルの想定内だったのかもしれません。新規事業を成功に導く、支援者としてのあるべきリーダー像を彼に見ることができるでしょう。
Gundam Meets Businessでは、皆様からのご意見・ご感想をお待ちしております。「ぜひこんなテーマを扱って欲しい」「ビジネスでこんな課題を抱えている」「こんな用語をガンダムで解説すると?」など、お寄せください。連載の参考にさせていただきます。お便りは、ガンダムインフォのお問い合わせフォームよりお願い致します。
GMBとは
ガンダムをこよなく愛し、ガンダムでビジネスを語る、謎でもないマーケターユニット。
音部 大輔
日米P&G、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、資生堂などで、マーケティング担当副社長やCMOとしてマーケティング組織を構築・指揮し、持続的成長を実現。2018年より株式会社クー・マーケティング・カンパニー代表取締役。国内外のさまざまなクライアント企業にマーケティング組織強化など提供。博士(経営学 神戸大学)。日本マーケティング学会 理事。日経BPマーケター・オブ・ザ・イヤー審査員、日経BtoBデジタル・マーケティングアワード審査員。著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)、『マーケティングプロフェッショナルの視点』(日経BP)
新卒でクレディセゾン入社。その後ジェイアール東日本企画、電通、トランスコスモス、メトロアドエージェンシー、電通レイザーフィッシュ(現電通アイソバー)を経て、2015年インフォバーン入社。2017年に取締役に就任。2019年より取締役COO。マスからデジタルまで精通し、オンラインとオフラインを横断する総合的なコミュニケーションデザイン及び新規事業開発・推進が得意。
一般社団法人マーケターキャリア協会 理事。
豊後 祐紀
29歳。新卒でデジタルマーケティング支援会社、読売広告社 シンガポール支店を経て、2017年12月より子供の頃の夢だったゲームのマーケターとしてDMM.com(現 DMM GAMES)に所属。eスポーツ(PUBG JAPAN SERIES)におけるマーケティングやスポンサードを担当。自社のeスポーツのファン層拡大だけでなく、eスポーツ全体を視聴層を広げるために尽力している。
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