
今日のビジネスの世界では、業種・業態問わず、随意契約よりも競争入札の方が多いように思われますが、そんなとき発注側(委託する側)は、あるいは受注側(受託する側)は、どんな備えと構えが有効でしょうか。それをガンダムから学んで行きましょう。
対して、ジオン公国には少なくともジオニック社とツィマッド社の2社がありました。さらにズゴックやモビルアーマーを開発していたMIP社という企業もあります。
アニメ『機動戦士ガンダム』本編では、ギャンはマ・クベ専用として運用されていましたが、名作ゲーム『機動戦士ガンダム ギレンの野望』などでは、その出自は競争入札で敗退した機種であったとされています。ザク、ドムに続く新型モビルスーツとして、ジオニック社が開発したゲルググと、ツィマッド社が開発したギャンが競作されたのです。
結果は、ビーム・ライフルを装備することで射撃戦にも適応しやすいゲルググが正式採用を勝ち取ります。
これは同一の方針にのっとった開発ではなかった可能性もありそうです。ギャンは、その性能を積極的に格闘戦に振った仕様となっています。射撃戦に優れた機体と格闘戦に優れた機体では、使い方や投入されるべき環境が大きく異なるでしょう。もし、次期主力モビルスーツの採用を決定する部局が早期に方針を決めていたなら、ツィマッド社も射撃戦に対応した機体を開発できたかもしれません。
その間、連邦軍は少数機種の大量生産により、戦局を大いに有利に進めます。競争入札をせず、一社を専属のパートナーとすることで、新型の開発契約やバリューチェーン全体を効率的に運用できた可能性があります。

【教訓1:果たして、ピッチ(競争入札)は善か?】
BtoB、特に広告などの代理店はキャンペーンやプロモーションごとに競争入札をすることがあります。あたかもゲルググ対ギャンや、『機動戦士ガンダム MS IGLOO』で描かれたヅダ対ザクの競作のように、クリエイティブや施策のアイディア、開発能力を競合します。
同時に、ブランドマネジメントで知られている企業の中には、ロスターエージェンシー制度を採用することも少なくありません。日本語では、ブランドAE(アカウント・エグゼクティブ)代理店とか、ブランド担当代理店とよばれるようです。特定の代理店が、ひとつのブランドと長期間に渡って協働し続ける仕組みです。
その契約期間はブランドマネジャーの任期よりも長いことが多く、経験や知識が代理店に蓄積されます。そうした知見を人事異動が繰り返されても喪失せずにアーカイブできるので、ブランド側にとっては都合のいい仕組みです。
代理店にとっても、長期的に契約を保持しやすくなるので人的資源の確保などに好適で、両社にWin-Winとなることも少なくありません。これは、連邦とアナハイム・エレクトロニクスとの関係を彷彿とさせます。

【教訓2:競作の効力をうまく使う】
同時に、せっかく競作するのであれば、状況に応じてもっと効果的な方法があるかもしれません。ギャンに投下された資源は、うまく使い切れず残念な結果に終わりました。資源に乏しいジオン公国の立場に立ってみれば、あまり必要とされなかったであろう格闘専用機に、ツィマッド社の優秀な人材を含む開発資源が集中投下されていたのです。
もし、彼らが射撃戦にも対応する機体を開発していたら、ゲルググを凌ぐ性能のモビルスーツが開発できたかもしれません。なぜこのような事態になってしまったのでしょう。
格闘戦か、射撃戦か。その判断は、実際に2機種のモビルスーツを開発する前にできたのではないかと思われます。
ここから得られるふたつ目の教訓は、競作におけるブリーフィングの重要性です。日本企業ではオリエンテーションなどと呼ばれることもありますが、外資系では少し様子が異なります。
例えば日本で「来期の新商品の導入計画の提案をお願いします」といったオリエンテーションがなされるような場面で、外資系では「来期の新商品導入で、既存顧客の使用量を10%増加するためのクリエイティブ案3つと全国およびテストエリアのメディアプランを提案してください」といったブリーフィングがなされるかもしれません。
大きな違いは、提案物の採用基準が明確に示されることです。もちろん、ロスターエージェンシー向けにも重要ですが、競作では長く協働することによる「あうんの呼吸」が期待しにくい分だけ、ブリーフィングの精度が代理店の仕事の質を決めるといっても過言ではありません。
もしジオン公国の担当部局が「次期主力モビルスーツの提案をしてください」というオリエンテーションではなく、「射撃戦において、ビール・ライフルを装備した連邦の主力モビルスーツに優越する次期主力機を提案してください」というブリーフィングをしていれば、我々はギャンとは異なるYMS-15を見たのかもしれません。
Gundam Meets Businessでは、皆様からのご意見・ご感想をお待ちしております。「ぜひこんなテーマを扱って欲しい」「ビジネスでこんな課題を抱えている」「こんな用語をガンダムで解説すると?」など、お寄せください。連載の参考にさせていただきます。お便りは、ガンダムインフォのお問い合わせフォームよりお願い致します。
GMBとは
ガンダムをこよなく愛し、ガンダムでビジネスを語る、謎でもないマーケターユニット。
音部 大輔
日米P&G、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、資生堂などで、マーケティング担当副社長やCMOとしてマーケティング組織を構築・指揮し、持続的成長を実現。2018年より株式会社クー・マーケティング・カンパニー代表取締役。国内外のさまざまなクライアント企業にマーケティング組織強化など提供。博士(経営学 神戸大学)。日本マーケティング学会 理事。日経BPマーケター・オブ・ザ・イヤー審査員、日経BtoBデジタル・マーケティングアワード審査員。著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)、『マーケティングプロフェッショナルの視点』(日経BP)
新卒でクレディセゾン入社。その後ジェイアール東日本企画、電通、トランスコスモス、メトロアドエージェンシー、電通レイザーフィッシュ(現電通アイソバー)を経て、2015年インフォバーン入社。2017年に取締役に就任。2019年より取締役COO。マスからデジタルまで精通し、オンラインとオフラインを横断する総合的なコミュニケーションデザイン及び新規事業開発・推進が得意。
一般社団法人マーケターキャリア協会 理事。
豊後 祐紀
29歳。新卒でデジタルマーケティング支援会社、読売広告社 シンガポール支店を経て、2017年12月より子供の頃の夢だったゲームのマーケターとしてDMM.com(現 DMM GAMES)に所属。eスポーツ(PUBG JAPAN SERIES)におけるマーケティングやスポンサードを担当。自社のeスポーツのファン層拡大だけでなく、eスポーツ全体を視聴層を広げるために尽力している。
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