アニメ評論家の氷川竜介です。
『機動戦士ガンダム サンダーボルト』は、内容的にも宇宙の戦場におけるモビルスーツの精緻なアクション、ギリギリの感情がダイレクトに伝わってくるハードなドラマが次々に炸裂し、非常に濃密な印象をのこします。
18分という過去例のない長さでありながら、みごたえは充分。劇場公開(1~2時間程度)やテレビ(30分)とはまったく異なる「配信が可能にした新たな尺(長さ)」と言えるでしょう。
濃縮してつくる分、各話の提供スパンは短くなりますし、待っている間に何度も反復して観るにしてもちょうどいい。さらに近年増えている、スマートフォンやタブレットによる動画視聴にもマッチしています。
電車など移動時間を考えると、15~20分程度のショートコンテンツが集中して観るには好ましい。これは筆者も10年近く前、PSPを使って実験済みです(ちなみに『ど根性ガエル』の10数分が数駅分の移動に最適でした)。
さて、もうひとつ『サンダーボルト』の大きな挑戦は「ガンダムシリーズ初のEST(Electronic Sell Through)配信作品」という販売形態があります。
報道では「視聴期限のないセル型配信サービス」と紹介されていて、「コンテンツの鍵となる権利を入手すれば、そのサービス上では半永久的に反復視聴可能」となっています。
つまり、パッケージ販売とは異なる「鑑賞の新たな選択肢」が誕生したわけです。
……という最重要なところが、逆に言えば第1回目でも述べたような「わかりにくさ」にもつながっているのかな? とも思っています。
そこでその「新しさ」を少し掘りさげて解説することで、最終回の締めくくりとしてみましょう。
これまでも「ネット配信」がテレビ、劇場、パッケージに先行するアニメはありました。ただしそれは「コンテンツをどの《窓》から先に見せるか」という「ファーストウィンドウ」なる概念の範疇でした。なので繰りかえし観るなら、最終的にはパッケージということだったわけです。
ところがESTは「電子的にスルー」です。そこには「物理媒体を必ずしも追加購入しなくていい」という意味が含まれています。もちろんパッケージにはパッケージの魅力があるので、必要なら購入してもいいのですが、「物理的束縛からの解放」という選択肢は大きいと思います。
たとえば対応した再生装置なら、テレビ、HDレコーダー、スマフォ、ゲーム機などどれでも視聴可能(個人鑑賞の範囲で)。途中で止めても続きは別のデバイスで観られます。この「マルチデバイス」も、物理的束縛からの大いなる解放です。
もうひとつ「EST」は「セル型」(販売)ということも大きな特徴です。
これまでの配信サービスは「EST」とは異なる「VOD(Video on Demand)」という方式でした。概念的には「ビデオレンタル」に相当するものです。課金方法により「SVOD:Subscription Video on Demand」(定額制動画配信)」と「TVOD:Transactional Video On Demand」(都度課金型動画配信)に大別されますが、いずれにせよコンテンツをユーザーが選択し、ある期間内に視聴を完了、という一過性の楽しみ方です。
サービス提供側も配信する作品の権利元に対して期間を決め、「MG(ミニマム・ギャランティ)」を支払っています。その上で利用数なども鑑みながら契約延長する・しないを決定するのです。「いつか観ようとプレイリストに入れておいたのに消えてしまった」ということが起きるのは、そのせいです。
その点でも「期間限定のレンタル」に近いのですが、ESTで契約すれば、楽しみ方は「セルビデオ」と同等。データはクラウドで管理することもできるので「棚」という物理束縛からも離れられるというメリットさえあります。
一般的なネット配信サービスは「ストリーミング」です。ネットが接続された状態でデータが流れこんでくる方式です。EST・VODともにネット接続がなくてもデバイス上で動画データを再生可能な「ダウンロード」という方式が用意されていますが、これは提供業者とデバイス次第です。
もちろん『サンダーボルト』にもESTの他、VODも用意されていますので、ご契約の提供形態とデバイス性能をぜひ詳しく調べていただき、多彩な方法で楽しんでいただければと思います。
……ということで、私自身もこのコラムを通じて整理しつつ説明の努力を重ねることにより、ようやく『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のめざす新しさや従来サービスとの違いが、改めて腑に落ちた感じです。
それくらい「アニメ鑑賞の究極はパッケージ購入」という既成概念――30数年にわたってスダンダードだった考え方の支配力は強かったのだなと感慨深いです。
「ネット配信」にご興味をお持ちの方は、『サンダーボルト』を契機に新しいコンテンツ鑑賞に身をまかせて、その利便性や魅力にひたってみてはいかがでしょうか。
きっとそこから《未来》が見えてくるはずです。
『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のアニメ第1話・第2話は、国内23サービスにて有料配信中。第3話の有料配信は、3月18日(金)12:00より開始される。
価格は第1話がセル版500円(税抜)、レンタル版250円(税抜)。第2話以降はセル版800円(税抜)、レンタル版400円(税抜)。
氷川竜介(ひかわりゅうすけ)
1958年兵庫県生まれ。明治大学大学院客員教授、日本SF作家クラブ会員。
文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。
主な著書「細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション」(祥伝社、2015年)など。
文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。
主な著書「細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション」(祥伝社、2015年)など。
関連サイト
あなたへのオススメ
編集部イチオシ
PREMIUM BANDAI
プレミアムバンダイ