アニメ特撮研究家の氷川竜介です。
「ネット配信」は注目すべき大きなトレンドです。「アニメ産業レポート2015」(日本動画協会発行)によれば、2014年のネット配信市場は408億円、前年比120%の伸びとなっています。アニメはその約4分の1で、1,021億円のアニメパッケージに比べれば10分の1程度ですが、2015年を「動画配信元年」と位置づけています。
Huluが日本テレビに買収され、2015年秋には「黒船襲来」と言われたNetflixがサービス開始と同時にアニメ作品の開発をアナウンスしました。「日本発のコンテンツなら、配信サービスを牽引するのはアニメだ」という認識があります。
これらは月額サービスですが、amazonでもプライム会員になってさえいれば、それを会費として多くのコンテンツ(映像・音楽)が無料視聴できるようになりました。
そもそも米国の映画業界は、何シーズンも続く連続TVシリーズと劇場用超大作の相互作用からヒットメーカーが生まれ、話題を左右する相互関係が定着して久しいです。
そんな「海外ドラマ」は配信上も主力ラインナップとしてズラリと並び、集客のカンバンとなっている。そして「アニメ」には「海外ドラマ」に匹敵する魅力があると、世界市場で成功したNetflixが評価したことは、今後の企画にも大きな影響があると予想されています。
他にも日本製アニメの海外向け配信サービス「DAISUKI」がオールジャパン体制で躍進するなど、配信の話題は多いです。でも、そんな時代の変化は急に起きたことではありません。15年ぐらいの大きな「流れ」が生みだしたもので、止まることはないと思います。
その「流れ」とは何か?
21世紀早々、アニメ制作がデジタル化してDVDパッケージ化されたことで、日本製アニメが諸外国に多く輸出されました。パッケージは放送の制約なしに、大量のタイトルを海外ユーザーの手に届けることを可能としたのです。
次のトレンドを牽引したのは「ブロードバンドの普及」です。高速回線で太くなったインターネットのパイプに何を流すかと言えば「動画」などリッチコンテンツで、そのブレイクスルーは10年前の2006年でした。
「ネット上でアニメを観ること」が広く認知され、TV放送と録画がデジタル化していった結果、違法合法入り交じったかたちでDVD以上に急速に世界中にアニメが流れることになりました。
結果、パッケージビジネスは失速。amazonなど台頭するネット通販とのダブルパンチで、アメリカや韓国では大手レコード店舗が続々と閉店に追い込まれました。
そもそも「コンテンツ」とは「中身」のことなので、物質化された「コンテナ」が必須かといえば、ネットのパイプさえあれば必要なかった。「コンテンツビジネス」はさらなる進化だと言えます。
その証拠に「配信」はパッケージの代替ではなく、さまざまなアドバンテージをもつ新規性の強いサービスだということも、次第に明らかになりました。特に「データベース型消費」との親和性は、格別のメリットをもたらします。
6年以上前ですが、私はある調べ物をしようとして衝撃を受けたことがあります。資料用DVDを棚から取るかわりに、思い直してパソコンの前に座ったまま配信サイトに行き、目的の話数を検索してクリックしてみたのです。必要なシーンが目の前に出るまで1分かからなかったはずです。
DVDなら「よっこらしょ」と立ち上がり、棚に歩いて行き、探してケースを持ってきて、開いてお皿を出して、スロットにロードして、回転が安定してアプリが立ち上がって……。最低でも5分は要したでしょう。こんな風に、ずっと見過ごしてきた「物理現象」の介在が顕わになった。理屈では分かっていた気もしましたが、体感の驚きがあったのでした。
「パッケージという物質」だけでなく、付随する「物質の束縛」は意外に多く、実は何分も必要とするデメリットだった。ましてやDVDが見つからず、埋もれている可能性だってある。もっとも多いのは、ケースを開いたら前に使ったまま戻さず空っぽだった! という事故ですが(笑)。
そう言えばつい先日、山形に出張したら雪に覆われた市内に多くの大手レンタル店を目撃しました。聞いてみれば、厳寒の時期、市民は大量のレンタルビデオを借りてストックし、楽しんでいるからだそうです。
でも、それならもしかしたら雪国から配信への大転換が始まるのでは、と予想しました。なぜならば、レンタルビデオ最大のネックは「用が済んだソフトを返却する行為」にあるのです。
借りるのは楽しいが、返すのは苦痛。配信は返却不要ですし、借りようと思ったタイトルが貸出中ということもない。
もちろんパッケージにはパッケージのメリットがあります。セルでもレンタルでも、ズラリ並んだ棚から出したり戻したりして選ぶ楽しみは、リアルなDVDの方が上でしょう。
ところが配信サービスには「レコメンド」という機能があります。ある程度使いこんでいくと、「この映画を観ている人は、こんな作品も」とサービスの方から推薦し、これが有機的なデータベースとして成長していきます。
こうしたことは氷山の一角だと思います。クラウドの一種であり、動画もデータとする「ネット配信」は、こういうポジティブな流れの中で進化し、存在感を刻々と増している。まだ気づいている人が少ないだけです。特にそのメリットの多くは「快不快」という「体感の差」に直結している。だったら、もう流れは変えられないでしょう。
逆に言えば、まだ抵抗を感じている40代・50代の方でも、ちょっとしたきっかけで「配信ライフの楽しみ」は大きく拡大することになります。そして日本ではアニメグッズの一環でもあるパッケージ文化を代替するものというよりは、オルタナティブとしてコンテンツ消費の「かたち」を幅広く豊かにするものとなっていくのではないかと思います。
それは「配信の形態」自体がまだ誕生直後で、これからユーザーとともに成長していく伸びしろを多くもっているからです。次回はその「かたち」の一端を、『機動戦士ガンダム サンダーボルト』の事例から探ってみましょう。
第3回「ESTとは何か? 新しい配信の形態」は近日掲載予定。お楽しみに。
『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のアニメ第1話は、国内23サービスにてセル版500円(税抜)、レンタル版250円(税抜)で好評配信中。
第2話は、本日2月12日(金)正午より有料配信がスタート。価格はセル版800円(税抜)、レンタル版400円(税抜)。
氷川竜介(ひかわりゅうすけ)
1958年兵庫県生まれ。明治大学大学院客員教授、日本SF作家クラブ会員。
文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。
主な著書「細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション」(祥伝社、2015年)など。
文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。
主な著書「細田守の世界――希望と奇跡を生むアニメーション」(祥伝社、2015年)など。
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