大ヒット全国ロードショー中の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より、村瀬修功監督のガンダムインフォ独占ロングインタビューをお届けします。
インタビュアーは、アニメ評論家の藤津亮太さん。小説を映画化するにあたって村瀬監督が考えたことから、特徴的な光と影の演出論、さらに、主人公ハサウェイ・ノアとヒロインのギギ・アンダルシアをどう捉えているかまで、深く掘り込んだ内容となっています。
なお、本インタビューでは本編の細部にまで言及しており、いわゆるネタバレ満載となっていますので、映画鑑賞後に読むことをオススメします。鑑賞後にインタビューを読み、内容を思い浮かべながら2度3度と劇場へ足をお運びいただけますと幸いです。
インタビュアーは、アニメ評論家の藤津亮太さん。小説を映画化するにあたって村瀬監督が考えたことから、特徴的な光と影の演出論、さらに、主人公ハサウェイ・ノアとヒロインのギギ・アンダルシアをどう捉えているかまで、深く掘り込んだ内容となっています。
なお、本インタビューでは本編の細部にまで言及しており、いわゆるネタバレ満載となっていますので、映画鑑賞後に読むことをオススメします。鑑賞後にインタビューを読み、内容を思い浮かべながら2度3度と劇場へ足をお運びいただけますと幸いです。
――富野由悠季監督が執筆した全3巻の小説を、3部作の映画としてまとめていくにあたっては、いろいろな工夫が必要だったと思います。『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』第1部の場合、冒頭に時計の作動音が置かれていて、最後は主人公ハサウェイの残した時計がギギの手元にあるシーンで終わることで、「止まっていた時間が動き出す」というイメージでまとめられていると思いました。
村瀬 実は冒頭の時計の音に関しては(音響演出の)笠松(広司)さんのアイデアなんですよ。そもそもハサウェイが買った時計は、今後ハサウェイと別々になっていくギギがハサウェイを思い出す小道具がいるだろうということで出したものです。そのプランを見て、笠松さんが冒頭に時計の音をつけてきてくれたんです。「そういう意味で、音をつけてくれたんですよね?」と確認をしたら、その通りだと。笠松さんは「ちょっとやり過ぎたかな」ともおっしゃっていたんですが、せっかくのアイデアなので、そのままいただこうと。
村瀬 実は冒頭の時計の音に関しては(音響演出の)笠松(広司)さんのアイデアなんですよ。そもそもハサウェイが買った時計は、今後ハサウェイと別々になっていくギギがハサウェイを思い出す小道具がいるだろうということで出したものです。そのプランを見て、笠松さんが冒頭に時計の音をつけてきてくれたんです。「そういう意味で、音をつけてくれたんですよね?」と確認をしたら、その通りだと。笠松さんは「ちょっとやり過ぎたかな」ともおっしゃっていたんですが、せっかくのアイデアなので、そのままいただこうと。
――そういうやりとりがあって、あのまとまり感が出てきたわけですね。そもそも村瀬監督は小説を読んだことがあったのでしょうか?
村瀬 今回、監督の依頼を受けて、初めて読みました。小説が出版された少し後に、『機動戦士ガンダムF91』に参加していたので、当時からそういう小説が存在していることは聞いてはいました。でもその時は読んではいませんでした。
――監督するという前提で小説を読んでどう思いましたか?
村瀬 (小説を読んで)映像は見えました。絵コンテを描くように書いている小説だな、と。もちろんキャラクターの心情はもっと深く描かれていますけれど。ただ一方で富野監督自身が、テレビシリーズを作る時と同じ発想で書いているように感じる部分もありました。例えば最初のほうで、名前のついているキャラクターを登場させるんだけれど、その後はまったく出てこなかったりするんです。おそらくいろいろなキャラクターを出してみて、おもしろくハネそうなものだけ拾っていこうとした結果ではないかな、と。その部分については、映画ではストーリーを変えない範囲である程度、フォローはしようと思っています。ミヘッシャもハンドリー・ヨクサンも第1部ではっきりカメラを向けただけの意味があったんだよ、というふうには見せたいと考えています。
――作品的には中盤の深夜のダバオ空襲から夜明けに至るまでの流れが様々な点でとても見応えがありました。例えばメカ演出の点では、モビルスーツと人間とが絡むカットが多い点が印象的でした。
村瀬 中盤の一連の戦闘シーンは、メカ描きの人に「モビルスーツを描くのではなく、モビルスーツがいる現象を描きたい。モビルスーツが主役なのではなく、手前にいる人たちや周囲に起きるリアクションが主役なんだよ」という説明をしました。人間よりもはるかに巨大なモビルスーツがいることで、木が揺れたり、風が通り抜けたり。そういう現象の方を描きたいんだと。それをなんとか画面に出すことができたという感じです。
――そこに表現の力点を置いたのは「今、モビルスーツ戦を描くなら、これぐらいやらないとおもしろくならない」という考えがあったからですか?
村瀬 いや、小説そのものがそう書かれているからです。グスタフ・カールがビルの屋上に着地して、そこからずり落ちるという描写もあの段取りは小説通りだし、モビルスーツがぶつかると火花が散ったり、ビームの粒子が周囲に飛び散って被害が出るとか、小説に一通り描かれているんです。今までの作品は、そこまでを形にできていないので、小説をちゃんと映像化すればきっと面白いだろう、と。富野監督は『閃光のハサウェイ』を書いた後に『F91』を監督していますが、そこにも似たようなシーンが出てきて、ちょうど僕はそこの作画担当だったんです。自分としても『F91』でやろうとしたけど上手くいかなかった表現なので、そこはきちんと描きたいなと思ったんです。
村瀬 今回、監督の依頼を受けて、初めて読みました。小説が出版された少し後に、『機動戦士ガンダムF91』に参加していたので、当時からそういう小説が存在していることは聞いてはいました。でもその時は読んではいませんでした。
――監督するという前提で小説を読んでどう思いましたか?
村瀬 (小説を読んで)映像は見えました。絵コンテを描くように書いている小説だな、と。もちろんキャラクターの心情はもっと深く描かれていますけれど。ただ一方で富野監督自身が、テレビシリーズを作る時と同じ発想で書いているように感じる部分もありました。例えば最初のほうで、名前のついているキャラクターを登場させるんだけれど、その後はまったく出てこなかったりするんです。おそらくいろいろなキャラクターを出してみて、おもしろくハネそうなものだけ拾っていこうとした結果ではないかな、と。その部分については、映画ではストーリーを変えない範囲である程度、フォローはしようと思っています。ミヘッシャもハンドリー・ヨクサンも第1部ではっきりカメラを向けただけの意味があったんだよ、というふうには見せたいと考えています。
――作品的には中盤の深夜のダバオ空襲から夜明けに至るまでの流れが様々な点でとても見応えがありました。例えばメカ演出の点では、モビルスーツと人間とが絡むカットが多い点が印象的でした。
村瀬 中盤の一連の戦闘シーンは、メカ描きの人に「モビルスーツを描くのではなく、モビルスーツがいる現象を描きたい。モビルスーツが主役なのではなく、手前にいる人たちや周囲に起きるリアクションが主役なんだよ」という説明をしました。人間よりもはるかに巨大なモビルスーツがいることで、木が揺れたり、風が通り抜けたり。そういう現象の方を描きたいんだと。それをなんとか画面に出すことができたという感じです。
――そこに表現の力点を置いたのは「今、モビルスーツ戦を描くなら、これぐらいやらないとおもしろくならない」という考えがあったからですか?
村瀬 いや、小説そのものがそう書かれているからです。グスタフ・カールがビルの屋上に着地して、そこからずり落ちるという描写もあの段取りは小説通りだし、モビルスーツがぶつかると火花が散ったり、ビームの粒子が周囲に飛び散って被害が出るとか、小説に一通り描かれているんです。今までの作品は、そこまでを形にできていないので、小説をちゃんと映像化すればきっと面白いだろう、と。富野監督は『閃光のハサウェイ』を書いた後に『F91』を監督していますが、そこにも似たようなシーンが出てきて、ちょうど僕はそこの作画担当だったんです。自分としても『F91』でやろうとしたけど上手くいかなかった表現なので、そこはきちんと描きたいなと思ったんです。
――本編を見ると、グスタフ・カールやメッサーは“巨人”というイメージで演出されていましたが、ペーネロペーはそれを超えてほぼ“怪獣”として描かれているなと思ったのですが。
村瀬 そうですね、怪獣的な感じで、ペーネロペーはほかのモビルスーツとは全然違うものにしたかったです。機体のミノフスキー・フライト・ユニット部分に光が流れるように動いているのも、かつての怪獣で光が流れるように動く部位があったことを意識したからです。小説でも独特の飛行音について言及はあるのですが、何か不思議な力で動いていて、飛んでいった後に余韻があった方がいいかなと思って、あの鳴き声のような飛行音になっています。ペーネロペーに関しては、オーソドックスな立ちポーズよりもフライト・フォームのような鳥っぽいイメージを強調したポーズのカットを意識的に作りました。
――モビルスーツの流れでうかがうと、ガンダム世界は設定的な縛りも大きいと思いますが、そこはいかがですか。
村瀬 そこは大変なポイントではあります。というのもガンダム世界というのはすごく広がっているため、ガンダムのエキスパートと呼べる人たちに聞いても、「ここまでは許せる」という許容範囲が個別に違っているんです(笑)。とはいえ、なにか拠りどころを決めないとそのままズルズルになってしまうわけで。今回はかなりシビアにそのあたりを考えることにしました。だからミノフスキー粒子散布下では通信ができないというのは厳格にやっています。小説にもケネスとレーンの連絡がつかない描写はありますが、そこに準じて徹底していこうと。幸い、そういう設定を厳密に扱っても物語を変える必要がなかったので、そこは助かりました。
――ドラマ面では、ハサウェイが仲間と合流しなくてはならないにも関わらず、ギギのそばを離れられないという描写が出てきます。ここも小説通りの展開ではありますが、映像化されてメリハリがついたことで、ハサウェイが「感情」と「思想」に引き裂かれているキャラクターであることがぐっと伝わってきました。
村瀬 仲間のエメラルダの姿を見ていながら、ギギを抱きしめている一連のあのあたりは、小説だとちょっと混沌としている部分があります。そこを端折ってまとめたことで、シーンの持つ意味がよりクリアに見えたのかなと思います。
村瀬 そうですね、怪獣的な感じで、ペーネロペーはほかのモビルスーツとは全然違うものにしたかったです。機体のミノフスキー・フライト・ユニット部分に光が流れるように動いているのも、かつての怪獣で光が流れるように動く部位があったことを意識したからです。小説でも独特の飛行音について言及はあるのですが、何か不思議な力で動いていて、飛んでいった後に余韻があった方がいいかなと思って、あの鳴き声のような飛行音になっています。ペーネロペーに関しては、オーソドックスな立ちポーズよりもフライト・フォームのような鳥っぽいイメージを強調したポーズのカットを意識的に作りました。
――モビルスーツの流れでうかがうと、ガンダム世界は設定的な縛りも大きいと思いますが、そこはいかがですか。
村瀬 そこは大変なポイントではあります。というのもガンダム世界というのはすごく広がっているため、ガンダムのエキスパートと呼べる人たちに聞いても、「ここまでは許せる」という許容範囲が個別に違っているんです(笑)。とはいえ、なにか拠りどころを決めないとそのままズルズルになってしまうわけで。今回はかなりシビアにそのあたりを考えることにしました。だからミノフスキー粒子散布下では通信ができないというのは厳格にやっています。小説にもケネスとレーンの連絡がつかない描写はありますが、そこに準じて徹底していこうと。幸い、そういう設定を厳密に扱っても物語を変える必要がなかったので、そこは助かりました。
――ドラマ面では、ハサウェイが仲間と合流しなくてはならないにも関わらず、ギギのそばを離れられないという描写が出てきます。ここも小説通りの展開ではありますが、映像化されてメリハリがついたことで、ハサウェイが「感情」と「思想」に引き裂かれているキャラクターであることがぐっと伝わってきました。
村瀬 仲間のエメラルダの姿を見ていながら、ギギを抱きしめている一連のあのあたりは、小説だとちょっと混沌としている部分があります。そこを端折ってまとめたことで、シーンの持つ意味がよりクリアに見えたのかなと思います。
――本作を映画化するにあたってハサウェイという人物像をどう考えましたか?
村瀬 ハサウェイはなぜマフティーになったのか。その理由は、小説でも書かれてはいるのですが、今一つ腑に落ちない感じもあって。ハサウェイはマフティーとして、シャアの思想を継承しているわけですが、なぜかつて戦った相手であるシャアの思想に染まっているのか。小説はそこをポンと飛び越えているんですよね。でもきっとそこに何かがもう一段階あったはずだと。そこがこの作品の肝だなと考えました。そこが映画のハサウェイを描く上での核になっています。
――ハサウェイがマフティーになるだけのエピソードがあったはずだ、と。
村瀬 そうです。表面的には小説通りに描いているんだけれど、ハサウェイの行動の意味付けを明確にするというか、キャラクターの行動原理としてひとつ繋がったものがあるように描くことにしています。では一体何があったかのか、ということについては、今後具体的に描いていくつもりで、第1部ではまったく触れていませんし、アフレコの時もなにがあったかは説明しませんでした。アフレコのときは「ハサウェイは壊れた人間です」と説明をしました。「自分ではまともだと思っているけれど、実際には壊れている」ということだけ説明しました。
――一方、ヒロインのギギについてはどうでしょうか?
村瀬 ギギというのは、すごくピュアすぎるところと、世の中に、大人の世界にきちんと順応できるという二面性がある人です。ただそんな人ってなかなかいないので、手がかりになるものは小説しかなく非常に難しかったです。一方で、小説を読んだままに描くと嫌な女になってしまうな、という難しさもあり、ギギは富野作品によく出てくる人物像で、でもそれをそのまま描いてしまうと「なんでこんな子にみんな惹かれるのだろう」となりそうだなと。なので、ただの嫌な女にならないように気をつけました。たぶん嫌味なことを言っても許せてしまう感じの人間で、それは美人というだけでなく、ある種の可愛げがあるからだろうと。そのあたりはデザインで救われたところがだいぶありますね。
――ギギはハサウェイ以上に難しい存在だったわけですね。
村瀬 そうですね。富野監督はずっとこういうタイプを描いてきているので、きっと好きなんだと思います。ただ僕はそうではなくて。でも理解できないところであえて描いたから、今のバランスで出来上がったと思います。自分が理解できるようにしてしまったら、ギギはああいう人でなくなってしまうので(笑)。そこに上田麗奈さんのお芝居が加わったことで、ちょうどよいバランスでギギというキャラクターが出来上がったと思います。
――印象的なのは、ギギの瞳にオレンジのハイライトが入っているところです。
村瀬 あれは(キャラクターデザインの)pablo uchida君の仕事です。オレンジを入れるなんて普通は、思いつかないですよ。「遠くからだと、あんまり見えないよね」と言っていたのですが、やはりアクセントにはなりました。あれは効果的でしたね。
村瀬 ハサウェイはなぜマフティーになったのか。その理由は、小説でも書かれてはいるのですが、今一つ腑に落ちない感じもあって。ハサウェイはマフティーとして、シャアの思想を継承しているわけですが、なぜかつて戦った相手であるシャアの思想に染まっているのか。小説はそこをポンと飛び越えているんですよね。でもきっとそこに何かがもう一段階あったはずだと。そこがこの作品の肝だなと考えました。そこが映画のハサウェイを描く上での核になっています。
――ハサウェイがマフティーになるだけのエピソードがあったはずだ、と。
村瀬 そうです。表面的には小説通りに描いているんだけれど、ハサウェイの行動の意味付けを明確にするというか、キャラクターの行動原理としてひとつ繋がったものがあるように描くことにしています。では一体何があったかのか、ということについては、今後具体的に描いていくつもりで、第1部ではまったく触れていませんし、アフレコの時もなにがあったかは説明しませんでした。アフレコのときは「ハサウェイは壊れた人間です」と説明をしました。「自分ではまともだと思っているけれど、実際には壊れている」ということだけ説明しました。
――一方、ヒロインのギギについてはどうでしょうか?
村瀬 ギギというのは、すごくピュアすぎるところと、世の中に、大人の世界にきちんと順応できるという二面性がある人です。ただそんな人ってなかなかいないので、手がかりになるものは小説しかなく非常に難しかったです。一方で、小説を読んだままに描くと嫌な女になってしまうな、という難しさもあり、ギギは富野作品によく出てくる人物像で、でもそれをそのまま描いてしまうと「なんでこんな子にみんな惹かれるのだろう」となりそうだなと。なので、ただの嫌な女にならないように気をつけました。たぶん嫌味なことを言っても許せてしまう感じの人間で、それは美人というだけでなく、ある種の可愛げがあるからだろうと。そのあたりはデザインで救われたところがだいぶありますね。
――ギギはハサウェイ以上に難しい存在だったわけですね。
村瀬 そうですね。富野監督はずっとこういうタイプを描いてきているので、きっと好きなんだと思います。ただ僕はそうではなくて。でも理解できないところであえて描いたから、今のバランスで出来上がったと思います。自分が理解できるようにしてしまったら、ギギはああいう人でなくなってしまうので(笑)。そこに上田麗奈さんのお芝居が加わったことで、ちょうどよいバランスでギギというキャラクターが出来上がったと思います。
――印象的なのは、ギギの瞳にオレンジのハイライトが入っているところです。
村瀬 あれは(キャラクターデザインの)pablo uchida君の仕事です。オレンジを入れるなんて普通は、思いつかないですよ。「遠くからだと、あんまり見えないよね」と言っていたのですが、やはりアクセントにはなりました。あれは効果的でしたね。
――映画では、ケネスを乗馬させるという仕掛けをつかって、『逆襲のシャア』で描かれたクェスとハサウェイの関係を見せるシーンをダバオ空襲のエピソードの最後に持ってきました。
村瀬 『閃光のハサウェイ』の原点として『逆襲のシャア』を見直したときに、クェスがシャアの元へ走るあの瞬間こそが『閃光のハサウェイ』の出発点だということをはっきり思いました。もっと具体的なスタート地点としては、ハサウェイが戦場で誰を殺してしまったのか、というところもありますが、そこは映画と小説(「逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」)でも異なっていて、いずれにしてもそれは“結果”であると思いました。やはりあそこでクェスを止められなかったことがすべての始まりだろうと。『逆襲のシャア』を見ていない方には何がなんだかわからないかもしれませんが、画としては一度描いておいたほうがいいだろうと入れたシーンです。
村瀬 『閃光のハサウェイ』の原点として『逆襲のシャア』を見直したときに、クェスがシャアの元へ走るあの瞬間こそが『閃光のハサウェイ』の出発点だということをはっきり思いました。もっと具体的なスタート地点としては、ハサウェイが戦場で誰を殺してしまったのか、というところもありますが、そこは映画と小説(「逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」)でも異なっていて、いずれにしてもそれは“結果”であると思いました。やはりあそこでクェスを止められなかったことがすべての始まりだろうと。『逆襲のシャア』を見ていない方には何がなんだかわからないかもしれませんが、画としては一度描いておいたほうがいいだろうと入れたシーンです。
――これは画作りの側面になりますが、ハサウェイがクェスのことを思い出しているときに、顔がシルエットになって表情が見えないようになっています。村瀬監督の過去の作品を見ても、暗い画面にこだわりがあるように感じられるのですが、そのあたりの狙いを聞かせてください。
村瀬 そういう題材の作品が多いからでしょうか。でも、暗い画はわりと作りやすいんですよ。それにシルエットで芝居をさせるのが好きなんです。
――今回も整備兵の姿などがシルエットで描かれているカットがありました。
村瀬 ありますね。背景とキャラクターの絵のバランスを考えると、普通であればキャラクターを明るく照らして、背景はあまり見えない画を作るのでしょうが、僕はどちらかというとキャラクターを沈めて背景を綺麗に見せたいんです。そうしてシルエットで芝居をさせた方が想像が広がるといいますか……。
――暗い画面ということは、光を効果的に使うことにも繋がりますよね。
村瀬 光を使うと奥行き感というか空間を感じさせることができるんです。全部に光を当てるとスケール感はわからなくなってしまう。でもモビルスーツみたいな巨大なものをシルエットでみせて、一部にだけ光を当てると大きさが感じられるようになる。フラットな地面も、一部に光が当たっていることで距離感が出てくる。そのあたりはかなり意識をして演出したつもりです。ただアニメーターが、自分が描いた線が暗くて見えなくなってしまうと不満であるというその気持もわかるんです。きれいなシルエットを描くためには、中もちゃんと描いてなくてはダメなので、中の線は絶対に必要なんです。だからパッと見はシルエットに見えるけれど、よく見るとギリギリ線も見えるぐらいのバランスがベストなんでしょうね。そこについて今回は、僕のほうで指針を出して細かく追い込む余裕はなかったのですが、結果として良いバランスに仕上がっていたと思います。
村瀬 そういう題材の作品が多いからでしょうか。でも、暗い画はわりと作りやすいんですよ。それにシルエットで芝居をさせるのが好きなんです。
――今回も整備兵の姿などがシルエットで描かれているカットがありました。
村瀬 ありますね。背景とキャラクターの絵のバランスを考えると、普通であればキャラクターを明るく照らして、背景はあまり見えない画を作るのでしょうが、僕はどちらかというとキャラクターを沈めて背景を綺麗に見せたいんです。そうしてシルエットで芝居をさせた方が想像が広がるといいますか……。
――暗い画面ということは、光を効果的に使うことにも繋がりますよね。
村瀬 光を使うと奥行き感というか空間を感じさせることができるんです。全部に光を当てるとスケール感はわからなくなってしまう。でもモビルスーツみたいな巨大なものをシルエットでみせて、一部にだけ光を当てると大きさが感じられるようになる。フラットな地面も、一部に光が当たっていることで距離感が出てくる。そのあたりはかなり意識をして演出したつもりです。ただアニメーターが、自分が描いた線が暗くて見えなくなってしまうと不満であるというその気持もわかるんです。きれいなシルエットを描くためには、中もちゃんと描いてなくてはダメなので、中の線は絶対に必要なんです。だからパッと見はシルエットに見えるけれど、よく見るとギリギリ線も見えるぐらいのバランスがベストなんでしょうね。そこについて今回は、僕のほうで指針を出して細かく追い込む余裕はなかったのですが、結果として良いバランスに仕上がっていたと思います。
――今回の制作にあたってシーンのカラーキー(監督のシーンイメージを各スタッフに共有するために、絵コンテのキーとなるカットを描いたカラーイラスト)を作成したそうですね。カラーキーの狙いはどこにあったのですか?
村瀬 アニメは、いちおうのプランがあったとしても、背景は背景、作画は作画というバラバラにつくった素材を、最終的に撮影さんになんとかまとめてもらうことが多いんです。そうすると各セクションとしては、自分が作業中に想定したような使われ方になってないことでのフラストレーションも溜まりやすい。そこで「こういう風にしたいから、こんな影を付けてほしい」という方向性を示すことができれば、その問題がクリアできるだろうと考えたわけです。
村瀬 アニメは、いちおうのプランがあったとしても、背景は背景、作画は作画というバラバラにつくった素材を、最終的に撮影さんになんとかまとめてもらうことが多いんです。そうすると各セクションとしては、自分が作業中に想定したような使われ方になってないことでのフラストレーションも溜まりやすい。そこで「こういう風にしたいから、こんな影を付けてほしい」という方向性を示すことができれば、その問題がクリアできるだろうと考えたわけです。
――先程完成画面に指針を出せる余裕がなかったというお話でしたが、指針を出す時はどうしているのですか? メモですか? それともPhotoshop(Adobe社の画像編集ソフト)で実際に画面を組むとかでしょうか?
村瀬 以前はPhotoshopで、『虐殺器官』の途中からAfter Effects(Adobe社の映像合成ソフト)を使い始めました。それで遠近の作り方や、入射光などのちょっとした光など、「こういう風に処理を使いたい」と見せるんです。
――自分で撮影(背景画やセル画、CGなどの素材をひとつの映像としてまとめ、カメラワークや照明効果なども付与する。コンポジットとも言う)をしてしまうんですか。
村瀬 コンポジットで全然変わるんですよ。別々で上がってきた素材を撮影時に調整することによって、画の完成度は変わります。今回は全くできませんでしたが、砂浜に佇むハサウェイの特報と、本編では先程話が出たハサウェイがクェスのことを思い出す一連のシーンや、ラストの船の甲板を歩くハサウェイのカットなど要所要所でやっています。(村瀬監督が手がけた)過去の作品のときも「最後のコンポジットの楽しさのためだけにやっているんだ」と言っていたぐらいで(笑)。だから本当は大事にしたい工程なのに、一番最後の工程なのでどうしてもスケジュールに追われてしまいがちで。
――撮影の楽しさに目覚めたのはいつ頃でしょうか?
村瀬 監督になってからですかね……。『Witch Hunter ROBIN』(2002年放送。村瀬氏の初監督作品)の時、テレビシリーズなのでそれまでは手を入れる余裕がなかったんですが、最終話になって自分で演出した時にある程度、撮出し(素材組み)をすることができました。それから自分で各話演出をする時には、撮出しすることも多くて。全カット撮出ししたものもありました。
――今回は立体的なカメラワークも多く、従来の2Dの手描き絵コンテではイメージを伝え辛いところもあったのかなと思うのですが、その点はどうでしょうか?
村瀬 それはあります。今回はビデオコンテ(Vコン)を作っているんですが、Vコン自体は2Dです。本編も見た人が「これは3Dだろう」と感じるものも、実際は2Dで描いているものが多かったりするんですよ。カメラワークや2D素材の引き(スライド)で立体的に見せられるものも多いので。Vコンの良いところのひとつはカメラワークのスピードやタイミングを自分が具体的に示すことができるところなんですが、実作業の過程では紙のコンテを作らざるを得なくて、そのあたりの連動はいろいろ課題だなと思いました。3DCGの現場だと逆に連動しやすかったりするのですが。
――Vコンは絵コンテ用ソフトを使って作ったのですか?
村瀬 いえ、After Effectsです。専用ソフトも使ってみたんですが、自分としては慣れているAfter Effectsを使うのがいいなと。
村瀬 以前はPhotoshopで、『虐殺器官』の途中からAfter Effects(Adobe社の映像合成ソフト)を使い始めました。それで遠近の作り方や、入射光などのちょっとした光など、「こういう風に処理を使いたい」と見せるんです。
――自分で撮影(背景画やセル画、CGなどの素材をひとつの映像としてまとめ、カメラワークや照明効果なども付与する。コンポジットとも言う)をしてしまうんですか。
村瀬 コンポジットで全然変わるんですよ。別々で上がってきた素材を撮影時に調整することによって、画の完成度は変わります。今回は全くできませんでしたが、砂浜に佇むハサウェイの特報と、本編では先程話が出たハサウェイがクェスのことを思い出す一連のシーンや、ラストの船の甲板を歩くハサウェイのカットなど要所要所でやっています。(村瀬監督が手がけた)過去の作品のときも「最後のコンポジットの楽しさのためだけにやっているんだ」と言っていたぐらいで(笑)。だから本当は大事にしたい工程なのに、一番最後の工程なのでどうしてもスケジュールに追われてしまいがちで。
――撮影の楽しさに目覚めたのはいつ頃でしょうか?
村瀬 監督になってからですかね……。『Witch Hunter ROBIN』(2002年放送。村瀬氏の初監督作品)の時、テレビシリーズなのでそれまでは手を入れる余裕がなかったんですが、最終話になって自分で演出した時にある程度、撮出し(素材組み)をすることができました。それから自分で各話演出をする時には、撮出しすることも多くて。全カット撮出ししたものもありました。
――今回は立体的なカメラワークも多く、従来の2Dの手描き絵コンテではイメージを伝え辛いところもあったのかなと思うのですが、その点はどうでしょうか?
村瀬 それはあります。今回はビデオコンテ(Vコン)を作っているんですが、Vコン自体は2Dです。本編も見た人が「これは3Dだろう」と感じるものも、実際は2Dで描いているものが多かったりするんですよ。カメラワークや2D素材の引き(スライド)で立体的に見せられるものも多いので。Vコンの良いところのひとつはカメラワークのスピードやタイミングを自分が具体的に示すことができるところなんですが、実作業の過程では紙のコンテを作らざるを得なくて、そのあたりの連動はいろいろ課題だなと思いました。3DCGの現場だと逆に連動しやすかったりするのですが。
――Vコンは絵コンテ用ソフトを使って作ったのですか?
村瀬 いえ、After Effectsです。専用ソフトも使ってみたんですが、自分としては慣れているAfter Effectsを使うのがいいなと。
――第1部を振り返って村瀬監督が上手くいったと思うところはどこでしょうか?
村瀬 全体のバランスですね。最初はもう少し間延びをしてしまうかなと危惧をしていました。かなり切って詰めたつもりでも、前半はやはりちょっと鈍重かなと。でもトータルでみるとそこまで長さは感じなかったし、戦闘が入ることでちゃんとメリハリもあったので、そのあたりは一安心しました。そこは音響さんの演出のおかげというところも大きいです。あと、“間”という点については、小説にある富野ゼリフによるところも大きいかなと思います(笑)。今まで僕は、会話シーンでは、相手の言うことをちゃんと聞いた上で答えを返すという間尺を取っていたんです。でも富野さんの会話はポンポンポンポーンじゃないですか(笑)。そこを意識して間尺の部分はとらずに今回はいきました。それが間延び感がないのに繋がったのかもしれません。富野監督にとっては御自分のセリフが他人に演出されているわけですから、確実に違和感を覚えられていると思うのですが(笑)。
――第2部は第1部よりもハードな戦闘シーンが出てきそうですが……。
村瀬 明るい画面で戦闘シーンを描く時に、それまで暗い中で誤魔化せていたものが誤魔化せなくなる。それをどう底上げするのかが課題と思っています。第1部については最終的に夜だったことがテクニカル的には救いだったのかもしれないですね。
村瀬 全体のバランスですね。最初はもう少し間延びをしてしまうかなと危惧をしていました。かなり切って詰めたつもりでも、前半はやはりちょっと鈍重かなと。でもトータルでみるとそこまで長さは感じなかったし、戦闘が入ることでちゃんとメリハリもあったので、そのあたりは一安心しました。そこは音響さんの演出のおかげというところも大きいです。あと、“間”という点については、小説にある富野ゼリフによるところも大きいかなと思います(笑)。今まで僕は、会話シーンでは、相手の言うことをちゃんと聞いた上で答えを返すという間尺を取っていたんです。でも富野さんの会話はポンポンポンポーンじゃないですか(笑)。そこを意識して間尺の部分はとらずに今回はいきました。それが間延び感がないのに繋がったのかもしれません。富野監督にとっては御自分のセリフが他人に演出されているわけですから、確実に違和感を覚えられていると思うのですが(笑)。
――第2部は第1部よりもハードな戦闘シーンが出てきそうですが……。
村瀬 明るい画面で戦闘シーンを描く時に、それまで暗い中で誤魔化せていたものが誤魔化せなくなる。それをどう底上げするのかが課題と思っています。第1部については最終的に夜だったことがテクニカル的には救いだったのかもしれないですね。
(聞き手:藤津亮太)
ロングインタビューは以上となります。
なお、村瀬監督も登壇する「大ヒット御礼舞台挨拶&全国ライブビューイング」が7月4日(日)に実施されることが決定しました。詳細はこちらの記事をご覧ください。
さらに、アニメやマンガの情報サイト「アニメ!アニメ!」の藤津さんの連載「アニメの門V」でも、『閃光のハサウェイ』の映像的ポイントやドラマを考察した記事が公開されています。あわせてお読みください。
⇒「ガンダム 閃光のハサウェイ」圧倒的な“市街戦シーン”に込められた映像&ドラマ的ポイントとは?【藤津亮太のアニメの門V 第70回】 | アニメ!アニメ!
なお、村瀬監督も登壇する「大ヒット御礼舞台挨拶&全国ライブビューイング」が7月4日(日)に実施されることが決定しました。詳細はこちらの記事をご覧ください。
さらに、アニメやマンガの情報サイト「アニメ!アニメ!」の藤津さんの連載「アニメの門V」でも、『閃光のハサウェイ』の映像的ポイントやドラマを考察した記事が公開されています。あわせてお読みください。
⇒「ガンダム 閃光のハサウェイ」圧倒的な“市街戦シーン”に込められた映像&ドラマ的ポイントとは?【藤津亮太のアニメの門V 第70回】 | アニメ!アニメ!
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