2021年7月6日 (火)
「機動戦士ガンダムマン チョコ<スペシャルエディション>」発売記念!イラストレーター・中村佑介特別寄稿「子供を“こども扱い”しなかったガンダムとビックリマン」
中村佑介が語る、ガンダムとビックリマンの共通点
アニメ『機動戦士ガンダム』と「ビックリマン」シールのコラボ商品である「機動戦士ガンダムマン チョコ」の第2弾「機動戦士ガンダムマン チョコ<スペシャルエディション>」が発売されると知り、イラストレーターとしては勿論、多感な幼少期に両者からの恩恵を受けた身としても戦慄を覚える。
とは言え、1978年生まれの自分にとっては『機動戦士ガンダム』は少し距離のある存在だった。腰を据えてアニメを観始める小学生の頃には、既に上の世代の少し大人向けコンテンツとして定着しており、リアルタイムではなく再放送やプラモデルで軽く触れるくらいだった。
そんな80年代の子供たちのコンテンツ空白期間を結果的に埋めてくれたのが、アニメでも漫画でもプラモデルでもない、イラストの描かれた、たった48×48mmの30円のシールだった。それが「ビックリマン チョコ」である。
そんな80年代の子供たちのコンテンツ空白期間を結果的に埋めてくれたのが、アニメでも漫画でもプラモデルでもない、イラストの描かれた、たった48×48mmの30円のシールだった。それが「ビックリマン チョコ」である。
現在ではビックリマンというと、当たり前のように天使・悪魔・お守り・ヘッドのキャラクターシールを指すが、厳密にはそれは“悪魔VS天使”というビックリマンシリーズのひとつで、他にもだまし絵シールや駄洒落シール、女の子向けのファンシーなものもあった。
それがよく知られる今のかたちとなり、80年代後期に大ブームを迎えた。ビックリマン以前も以後も子供たちの集めるメンコ・カード・シール・ブロマイドの類はたくさんあるが、それらはあくまで人気コンテンツ(アニメやゲーム、漫画やプロスポーツ、芸能人等)の派生商品がほとんどだった。
例えば『SDガンダム』のカードダスは、みんなアニメの設定があらかじめ頭に入っているので、νガンダムがキラカードであることに何の疑問も浮かばない。
しかしビックリマンは後にメディアミックス(漫画、アニメ、ゲーム化)されたものの、“悪魔VS天使”シリーズが始まった1985年には、これらのキャラクターが一体何者で、何をしているのかさっぱり誰も知らない状態。第1弾のキラシールは“スーパーゼウス”。名前に“スーパー”とは入っているものの、お馴染みのかっこいいお兄さんではない、胸に金マークの衣装を着た知らない白髪のおじいさんだった。そして第2弾のキラシールも知らないおじいさん(シャーマンカーン)だった。
しかしそれを微塵にも疑問に感じさせることなく、瞬く間に大ブームとなり、世代を超えて社会問題としても新聞やテレビを騒がせ、時代を超えて今なおコンビニに置かれている長寿商品となった。
それがよく知られる今のかたちとなり、80年代後期に大ブームを迎えた。ビックリマン以前も以後も子供たちの集めるメンコ・カード・シール・ブロマイドの類はたくさんあるが、それらはあくまで人気コンテンツ(アニメやゲーム、漫画やプロスポーツ、芸能人等)の派生商品がほとんどだった。
例えば『SDガンダム』のカードダスは、みんなアニメの設定があらかじめ頭に入っているので、νガンダムがキラカードであることに何の疑問も浮かばない。
しかしビックリマンは後にメディアミックス(漫画、アニメ、ゲーム化)されたものの、“悪魔VS天使”シリーズが始まった1985年には、これらのキャラクターが一体何者で、何をしているのかさっぱり誰も知らない状態。第1弾のキラシールは“スーパーゼウス”。名前に“スーパー”とは入っているものの、お馴染みのかっこいいお兄さんではない、胸に金マークの衣装を着た知らない白髪のおじいさんだった。そして第2弾のキラシールも知らないおじいさん(シャーマンカーン)だった。
しかしそれを微塵にも疑問に感じさせることなく、瞬く間に大ブームとなり、世代を超えて社会問題としても新聞やテレビを騒がせ、時代を超えて今なおコンビニに置かれている長寿商品となった。
ビックリマンがオリジナルシールとしてそれを可能にしたのは、果たして偶然だったのか必然だったのか。子供のときには見えなかった理由が、大人になり、プロのイラストレーターとなったいま少しずつわかってきた。奇しくもそれはガンダムにも共通していることだった。
通常、子供向けに描かれるキャラクターは「デフォルメ」される。一言でデフォルメといっても大きく2つの目的に分けられる。ひとつは“線や色の単純化”。幼児期の認識能力に合わせ、線を太く少なく、色もハッキリと原色中心に見やすくするために行われる。
もうひとつは“頭身を低くする”こと。頭や目を大きく、身体を小さくすることでコチラも見やすく、また子供が感情移入しやすくするために行われる。駄菓子のパッケージイラストや、町にある“飛び出し坊や”がその最たる例だ。
しかしそれらの目的も知らず、ただなんとなく「子供向けだから」と真似すると、線が少ない分、とたんに形が崩れ、“記号として”は見やすくなっても、“絵として”の価値は見出せなくなる。“単純化”と“手抜き”は似て非なるものだからだ。そのような理由から無数に出た類似やパクリ商品のほとんどが子供心にも“安っぽく”見えていた中、同じ値段であっても、いくら重要度のない悪魔キャラでさえも手抜きなく丁寧に仕上げられたビックリマンは圧倒的に特別に見えた。
通常、子供向けに描かれるキャラクターは「デフォルメ」される。一言でデフォルメといっても大きく2つの目的に分けられる。ひとつは“線や色の単純化”。幼児期の認識能力に合わせ、線を太く少なく、色もハッキリと原色中心に見やすくするために行われる。
もうひとつは“頭身を低くする”こと。頭や目を大きく、身体を小さくすることでコチラも見やすく、また子供が感情移入しやすくするために行われる。駄菓子のパッケージイラストや、町にある“飛び出し坊や”がその最たる例だ。
しかしそれらの目的も知らず、ただなんとなく「子供向けだから」と真似すると、線が少ない分、とたんに形が崩れ、“記号として”は見やすくなっても、“絵として”の価値は見出せなくなる。“単純化”と“手抜き”は似て非なるものだからだ。そのような理由から無数に出た類似やパクリ商品のほとんどが子供心にも“安っぽく”見えていた中、同じ値段であっても、いくら重要度のない悪魔キャラでさえも手抜きなく丁寧に仕上げられたビックリマンは圧倒的に特別に見えた。
線や等身はデフォルメしても、内容はデフォルメという名の“赤ちゃん言葉”は使わなかったのである。
例えばヘッドロココの剣や盾の立体感や質感、桃太郎天子の枡の継ぎ目、コミック画王のペン先の切れ込み、くつわの助のベルトの構造、フォーカス眼鬼のレンズ等、挙げればキリがないが、ここまで1,000体以上の全キャラクターの細部にこだわっている子供向け商品はあっただろうか。
例えばヘッドロココの剣や盾の立体感や質感、桃太郎天子の枡の継ぎ目、コミック画王のペン先の切れ込み、くつわの助のベルトの構造、フォーカス眼鬼のレンズ等、挙げればキリがないが、ここまで1,000体以上の全キャラクターの細部にこだわっている子供向け商品はあっただろうか。
子供は十分に他者に伝える言葉をまだ持っていないだけで、大人が思っているよりずっと繊細に世界を受け止めている。だから喜んだり傷付いたりするし、その感触を今も憶えている。特に自我の芽生える小学生にとって、ビックリマンのその丁寧な態度は、まるで“大人扱い”されたようなこれ以上ない嬉しい体験だった。ビックリマンのイラストレーターは、他の大人が言ってくれない「一人前だね」という言葉を絵を通して伝えてくれた。褒めてくれたのだ。それが社会現象という結果に繋がったのではないだろうか。
また最初に少し触れた通り、それはガンダムも同じだった。その頃のロボットアニメは基本、スポンサーのグッズを売るためにわかりやすい「勇気のある正しい若者が世界平和のために悪の大魔王を倒してバンザイ!」というおとぎ話的内容が望まれることがほとんどの中、「勇気のないアムロが時に頼りない仲間とともに、好きな人もいたジオン公国軍に一旦は打ち勝っても嬉しくもないし、平和もやってこなかった」という、一切視聴者を子供扱いせずに信頼して伝えて下さった富野由悠季監督の姿勢は、大人になった今でも多くの人の心に刺さって抜けることはない。そう考えると、その両者が手を組むことは奇跡ではあるが、30年前から約束された必然だったのだろう。それがイラストレーターになった今少しずつわかってきたことである。
また最初に少し触れた通り、それはガンダムも同じだった。その頃のロボットアニメは基本、スポンサーのグッズを売るためにわかりやすい「勇気のある正しい若者が世界平和のために悪の大魔王を倒してバンザイ!」というおとぎ話的内容が望まれることがほとんどの中、「勇気のないアムロが時に頼りない仲間とともに、好きな人もいたジオン公国軍に一旦は打ち勝っても嬉しくもないし、平和もやってこなかった」という、一切視聴者を子供扱いせずに信頼して伝えて下さった富野由悠季監督の姿勢は、大人になった今でも多くの人の心に刺さって抜けることはない。そう考えると、その両者が手を組むことは奇跡ではあるが、30年前から約束された必然だったのだろう。それがイラストレーターになった今少しずつわかってきたことである。
最後に、SNSや講演会でイラストレーター志望の方から「どうやって作家性を身につければよいか?」と訊かれるのことが多いのでここで答えよう。
アニメ『機動戦士ガンダム』を観てから「ガンダムマン」シールをよくよく観察してほしい。ディテールやストーリー解釈が正確なだけでなく、きちんとアニメーションディレクターの安彦良和さんのタッチで描かれていることに気付くだろう。なのにビックリマン以外の何者にも見えないのは、タッチでも世界観でもなく、その丁寧な姿勢こそがグリーンハウスの唯一無二の作家性ということに他ならない。なので同様のお悩みを抱えている方は、まずは「機動戦士ガンダムマンチョコ」をひとつ買ってみてほしい。参考書は1,000円以上するが、100円(税抜)で手に入れたたった1枚のシールでも、お釣りがくるほど学べるだろう。ハズレなど1枚もない。48mmの宇宙に絵のコツの全てと、信じる心が詰まっているのだから。あなたを。
アニメ『機動戦士ガンダム』を観てから「ガンダムマン」シールをよくよく観察してほしい。ディテールやストーリー解釈が正確なだけでなく、きちんとアニメーションディレクターの安彦良和さんのタッチで描かれていることに気付くだろう。なのにビックリマン以外の何者にも見えないのは、タッチでも世界観でもなく、その丁寧な姿勢こそがグリーンハウスの唯一無二の作家性ということに他ならない。なので同様のお悩みを抱えている方は、まずは「機動戦士ガンダムマンチョコ」をひとつ買ってみてほしい。参考書は1,000円以上するが、100円(税抜)で手に入れたたった1枚のシールでも、お釣りがくるほど学べるだろう。ハズレなど1枚もない。48mmの宇宙に絵のコツの全てと、信じる心が詰まっているのだから。あなたを。
中村佑介(なかむらゆうすけ)
1978年生まれ、兵庫県出身のイラストレーター。大阪芸術大学デザイン学科卒業。ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしなどのCDジャケット、『夜は短し歩けよ乙女』『謎解きはディナーのあとで』、音楽の教科書などの書籍カバー、浅田飴、ロッテのチョコパイなどのパッケージほか、数多く手掛けるイラストレーター。ほかにもアニメのキャラクターデザイン、ラジオ制作、エッセイ執筆など表現は多岐にわたる。画集『Blue』『NOW』は13万部を記録中。教則本『みんなのイラスト教室』、ぬりえブック『COLOR ME』『COLOR ME,too』、最新刊CDジャケット全集『PLAY』も好評発売中。
1978年生まれ、兵庫県出身のイラストレーター。大阪芸術大学デザイン学科卒業。ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしなどのCDジャケット、『夜は短し歩けよ乙女』『謎解きはディナーのあとで』、音楽の教科書などの書籍カバー、浅田飴、ロッテのチョコパイなどのパッケージほか、数多く手掛けるイラストレーター。ほかにもアニメのキャラクターデザイン、ラジオ制作、エッセイ執筆など表現は多岐にわたる。画集『Blue』『NOW』は13万部を記録中。教則本『みんなのイラスト教室』、ぬりえブック『COLOR ME』『COLOR ME,too』、最新刊CDジャケット全集『PLAY』も好評発売中。
追伸/また別の角度からデフォルメやイラストの可能性を広げた『SDガンダム』についても話したいが、文字数の関係上それはまた別の時に。
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