これまでその開発経過をお伝えしていたMGインフィニットジャスティスガンダムがついに完成した! ガンダムインフォではその発売を記念して、アニメ本編のチーフメカ作画監督である重田智氏とバンダイホビー事業部の開発陣の特別対談をお届けする。これまでの『ガンダムSEED DESTINY』のMGシリーズ同様、重田氏とタッグを組んでの開発であったが、実は開発途中で予想外のアクシデントに見舞われたという。果たしてその内容とは!?
重田 智(しげた さとし) 『機動戦士ガンダムSEED』シリーズのメカ作画監督を勤める。 キレの良いアクションと見得切りポーズでMSに命を吹き込んだ。 |
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野口 勉(のぐち つとむ) バンダイホビー事業部・企画開発チーム 『SEED DESTINY』系MGシリーズ全般の企画・開発を担当。 バンダイ側の窓口として重田氏との折衝にも当たる。 |
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沢入 透(さわいり とおる) バンダイホビー事業部・製品設計チーム サブリーダーとしてMGインフィニットジャスティスの設計全般に携わる。 |
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井出征秀(いで ゆきひで) バンダイホビー事業部・製品設計チーム MGインフィニットジャスティスでは主にリフターと武装関係を担当。 |
――重田氏とタッグを組んでのMG開発はこれで4体目ですが、今回はどのように進められたのでしょう?
野口 前回のMGフォースインパルスを開発している時に、次にMGインフィニットジャスティスを予定していることは重田さんにすでにお伝えしていて、その時に口頭でうかがった内容を元に、バンダイ内で先行して試作製作を始めていました。コンセプトワーク画稿はほぼ同時進行で描いて頂いていたんです。
――口頭でうかがった内容とは?
野口 一言で言うと、アスランのキャラクター性を反映させたモデルにしたいということですね。特に顔付きに関しては詳しく詰めました。あとはリフターのバランスをどう取るかとか、蹴りアクションの再現性といった所です。
重田 そうしてでき上がってきた試作を見たら「もうこれでいいんじゃないの?」っていう、かなりの出来で。さすがにもう4回目だなって思いましたよね(笑)
野口 そうですね。「重田さんがイメージしているものは、こんな感じだろう」というのは、回数を重ねている分、以前より把握できていたという感触はありました。あとは今回設計を担当した沢入がMGデスティニーガンダムの設計を担当していたので、重田さんの意図する形状を十分理解していたというのもあるんですよ。
沢入 ええ。前回の経験を十分に活かすことができたことと、MG風をコンセプトに進行していた旧1/100シリーズのときに重田さんに描いてもらったインフィニットジャスティスの資料も残っていたので、その方向性を汲み取った上で試作を提示させてもらいました。
重田 元々、インパルスの時ほど迷いはなかったですよね。機体のイメージがハッキリしていますから。そういう意味で試作も良かった。ただ、『DESTINY』系MGも4つ目で、ただ「良い」だけではユーザーも頷いてくれないわけです。ユーザーの想定するレベルを超えてみせて、驚いてもらわなきゃならない。それがギミック面であり、アスランのキャラクター性の表現というところだろうと。今現在の『SEED』ファンは、最初の機体設定だけじゃなくて、本編での活躍も合わせてMSの魅力ととらえているだろうと思うので、そういうところが厭味なく出ればいいなと。そのためにじゃあどうすればいいんだっていうのは悩み所なわけですけど(笑)。
――試作をご覧になって再び重田氏から提案があったわけですね。
重田 絶対やってくれということではなく、あくまで希望としてお伝えしたんですよ。根拠のない思いつきもあるし、アイディアを拾うかどうかはおまかせしますと。
▲左が試作段階での顔、右が試作での検討を経た商品段階の顔。それぞれのCADデータを見比べれば、より精悍で引きしまった印象にブラッシュアップされたことがよくわかる。
――積極的に取り入れた部分は?
野口 前腕が四角っぽかったんですけど、ご指摘にあったようにもう少しメリハリを入れるラインとしました。あとはふくらはぎの白い部分の見え方が試作よりもシャープになっています。脚はメリハリがついてスタイリッシュになりました。そこは結構ポイント高い部分ですよね。
重田 脚の長さって実際の寸法が何ミリ長いかだけではなく、どこか他のパーツや、脚を構成しているパーツのディテールなどの要素が干渉しあったりするせいで短く見えているんじゃないかと思ったんですよ。ファッションでもよく言うでしょう、「ベルボトムの方が足が細く見える」とか、「ジーンズのポケットの位置で足が長く見える」とか。そういうのと一緒で、視覚効果によって長く見えるようにすればいいんじゃないかと。実際に脚の長さを伸ばすと、脚だけスケールが違うみたいになってしまうでしょう。模型誌作例なんかだと商品が出た後の段階だから、実際に長さを伸ばすしかない場合も多いんだろうけど、商品では違う取り組みができると思ったわけです。
野口 前腕が四角っぽかったんですけど、ご指摘にあったようにもう少しメリハリを入れるラインとしました。あとはふくらはぎの白い部分の見え方が試作よりもシャープになっています。脚はメリハリがついてスタイリッシュになりました。そこは結構ポイント高い部分ですよね。
重田 脚の長さって実際の寸法が何ミリ長いかだけではなく、どこか他のパーツや、脚を構成しているパーツのディテールなどの要素が干渉しあったりするせいで短く見えているんじゃないかと思ったんですよ。ファッションでもよく言うでしょう、「ベルボトムの方が足が細く見える」とか、「ジーンズのポケットの位置で足が長く見える」とか。そういうのと一緒で、視覚効果によって長く見えるようにすればいいんじゃないかと。実際に脚の長さを伸ばすと、脚だけスケールが違うみたいになってしまうでしょう。模型誌作例なんかだと商品が出た後の段階だから、実際に長さを伸ばすしかない場合も多いんだろうけど、商品では違う取り組みができると思ったわけです。
▲重田氏の指摘によって、よりスタイリッシュになったふくらはぎ。
重田氏が指示をいれた画稿一覧(23点!)はこちら。
※上記ページは多数の画像が表示されるため、お使いの通信環境によっては表示に時間がかかる場合があります。
重田氏が指示をいれた画稿一覧(23点!)はこちら。
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――ギミック面ではいかがでしたか?
野口 苦労したのはなんと言ってもリフターでしょうね。
井出 一番始めに、「今回の目玉として左右のユニットを引き出すのと連動して翼が開くようにしたい」と言われた時に、まずは光造形で試作を作り、感触を確かめてみたんです。思ったよりは良かったんですけど、詰めていった時にいろんな問題が発生して、難航した部分です。
野口 元々このギミックも重田さんの作画からの発想なんです。例えば垂直に背負っている時と水平に立てている時で、作画ではリフターのサイズが違うんです。作画ではそれぞれの形態で一番カッコ良く見えるバランスで描かれている。だけど立体ではそういうわけにはいきません。スライドギミックは、これに対応して大きさが変わるように見える工夫をしようということだったんです。ただ、これって正直今までの経験上うまくいくかどうか微妙な部分でもあって、うまくいかない危険性も高かったんです。実際、試作段階では連動機構が内部で引っかかってしまったり、試作自体も想定していたリフターサイズよりも大きいものになってしまったんです。
井出 本体に関しては今までのノウハウが活かせる部分が多かったんですけど、リフターは初めて試みる連動機構もあったので試行錯誤でした。他には、重いものを背負うことでのけぞってしまうとか、最終的なクオリティにつながる部分で懸念もあったので、ロック機構を設けたり。そういった部分まで煮詰められたのは、やはり4作目ということが大きかったかと思います。
野口 苦労したのはなんと言ってもリフターでしょうね。
井出 一番始めに、「今回の目玉として左右のユニットを引き出すのと連動して翼が開くようにしたい」と言われた時に、まずは光造形で試作を作り、感触を確かめてみたんです。思ったよりは良かったんですけど、詰めていった時にいろんな問題が発生して、難航した部分です。
野口 元々このギミックも重田さんの作画からの発想なんです。例えば垂直に背負っている時と水平に立てている時で、作画ではリフターのサイズが違うんです。作画ではそれぞれの形態で一番カッコ良く見えるバランスで描かれている。だけど立体ではそういうわけにはいきません。スライドギミックは、これに対応して大きさが変わるように見える工夫をしようということだったんです。ただ、これって正直今までの経験上うまくいくかどうか微妙な部分でもあって、うまくいかない危険性も高かったんです。実際、試作段階では連動機構が内部で引っかかってしまったり、試作自体も想定していたリフターサイズよりも大きいものになってしまったんです。
井出 本体に関しては今までのノウハウが活かせる部分が多かったんですけど、リフターは初めて試みる連動機構もあったので試行錯誤でした。他には、重いものを背負うことでのけぞってしまうとか、最終的なクオリティにつながる部分で懸念もあったので、ロック機構を設けたり。そういった部分まで煮詰められたのは、やはり4作目ということが大きかったかと思います。
――最初はMGストライクフリーダムとフレームを共通化するという予定だったとうかがっていますが?
沢入 そうなんです。正直言ってしまうとかなりギリギリまでその予定でした。当初はストライクフリーダムと共通フレームとすることで、2機が同じ技術体系で建造された兄弟機であることを感じさせたいというのもありましたし、また共通フレームにすることで開発費や開発スタッフのマンパワーを他の箇所の開発に回して、ギミックの面だとか作りの良さに反映したいとも思っていたんです。実際 その予定で進行して、これまでお話した通り、ギミック面などでかなり練り込んだものに仕上がっていったんですね。
野口 だけどどうしても目指したい外装形状と内部フレームが合わなかったんですよ。
沢入 特にふくらはぎなんかは、ストライクフリーダムの内部フレームだと外装の外にフレームが飛び出てしまう。スケジュールが切迫していたので、フレームに合わせて外装形状を妥協するべきかともギリギリまで検討したんですが、最終的にやっぱりフレームを新規で作ろうという方向にまとまったんです。
野口 もう内部フレームは使えるものとしてスケジュールを組んでいたので、他の箇所にやりたいことをいろいろ詰め込んだ後だったんですよ。その段階でフレームが使えないと発覚……そう、まさに「発覚」という感じですね(笑)。そこから各部署に集まってもらってスケジュールを調整し、新規のフレームも開発したんです。これはイレギュラーなことでした。
――イレギュラーと言うと?
野口 プラモデル開発は企業としての営利活動でもあるわけですから、当然 一つの商品にかけられる予算やマンパワーには、この利益に対してはこれぐらいと、適正なコストというものがあるんです。ちゃんと利益を出さないと、次の商品が開発できなくなってしまいますからね(笑)。ですが、このMGインフィニットジャスティスの場合、この新規で製作された内部フレームもあって、結果的には、適正値以上に労力を注ぎこんだ、非常に贅沢な作りとなっているわけです。あまりあっては、困ることなので大きな声では言えないのですが(笑)、イレギュラーな事態が想定以上のバリューを生み出してしまった珍しい例ですね。
――しかしそれはユーザーにとってはうれしいイレギュラーですね(笑)
重田 言っておきますけど、内部フレームが共有できないように意地悪で画稿に赤(修正)を入れたわけじゃないですからね(一同笑)
▲MGストライクフリーダムとMGインフィニットジャスティス。比較するとインフィニットジャスティスのふくらはぎのしなやかなラインがよく分かる。
――劇中では蹴り技の印象が強い機体ですが。
野口 ええ、ですから足を開く際に、腹部と脚部(太もも)のラインがきれいに見えるように、股関節の軸幅が1cm広くなる機構と、安定して保持できるロック機構を盛りこみました。デスティニーの時に開発した開脚ギミックが「これのためにあったのか」と思うほどうまく生きましたね。あと今までは足を横に開くとサイドアーマーが胴体に干渉するという問題があって、アーマーを後ろに逃がさないといけなかったんです。アニメ本編だとサイドアーマーは足の動きにちゃんと追従してる風に描かれているんで、MGではぜひこれを再現したいと。最終的に今のスライドする形に設計の方から提案してもらいました。
沢入 2重関節など、いろんな機構を考えたんですけど、耐久性と機構のシンプルさで今の形に落ち着きました。うまくまとまっていると思うので、今後のMGモデルのスタンダードになって欲しいですね。
重田 こんな風にいろいろ言ってもらえるほどカッコいいと思って福田監督はジャスティスに蹴りをさせたんですかねぇ。「脚のここからビームが出て、デスティニーのブーメランを蹴るんだよ!」って自信満々に言うものだから、スタッフはみんな最初「えぇー? 蹴っちゃうの?」って思ってね(笑)。福田監督の確証のない思い込み(?)を実現させる力はすごいです(笑)。
――それは重田さんの作画もあってのことですが(笑)
重田 描く方も蹴るという動作はなかなか難しいんですよ。デスティニーとは違う方向性での力技という意味でしなやかな蹴りがあるわけですから。デスティニーは長い直刀を力技でブン回しているイメージで、そういう力感溢れる上腕とか太モモをしていればいいんだけど、インフィニットジャスティスの場合はそこまでムキムキだと違うんですよね。作画としてはそういうことを考えました。ともかく、蹴りポーズのためにこれだけのギミックが盛り込まれているんですから、買った人はぜひカッコ良いポージングに挑戦して欲しいですね。
▲股間の開脚ギミックにより派手な蹴りアクションが可能に。また、これまでは足を横に広げると、サイドスカートアーマーは機体後方に逃がしていた。MGインフィニットジャスティスでは、スカートアーマーにスライドギミックを設けたことにより、横方向に水平位置まで上がるようになっている。
――『SEED DESTINY』系MGの開発を通じて、仕事の上で変わってきた部分などはありますか?
野口 これまでは劇中で出てきたいろんな絵を見ながら、それらの最大公約数的なもの、平均的なものを立体で作ろうとする傾向にあったと思うんですが、それが重田さんと何回か仕事をさせてもらって、「あ、でかく見える所は強調したいわけだから、大きく作ればいいんだ。不都合があれば、伸縮できる機構にしてしまえばいい」とか。例えばですよ。何かでかく見えるように工夫をすればいいんだとか。今までと違う視点の物作りができるようになったかと思います。
重田 キャラクターモデルって正確さも大切だろうけど、イメージも重要だと思うんですよね。スケールモデル的な正確さに突き進み過ぎちゃうと、ある種の劇中のカッコよさは出づらいところがあるのかなぁと個人的には思ったりするんです。普段ガンプラ開発にとっては優しくない作画をしている言い訳ではないのですが(笑)。
野口 でもそういう作画があったからこそ、今までの『SEED DESTINY』系MGシリーズって特別なギミックが入っていたり、これまでにない商品として成立できていると思います。
――最後に今回の「MGインフィニットジャスティスガンダム」について、一言お願いします。
沢入 インフィニットジャスティスは3年前に1/100スケールモデルが出てるじゃないですか。SEED系は他のシリーズより、通常キットが出てからMG化の間の期間が短いんです。他のシリーズのように間が長いと形状のアレンジもしやすいし、ここが進化したというのも技術的に見せやすい。そういう意味では今回は不利だからこそ、いかに先の1/100モデルとの違いを見せられるかが勝負だと思っていました。一目瞭然で進化したとわかってもらえるように、プロポーションを含めた形状も、ギミック面も力を注いでいます。モールドにも凝っているので注目して欲しいですね。
井出 従来のMGスタイルに加えて重田さんのテイストを盛り込まれ、僕が言うのもなんですが、物として的を射たまとまり方をしているなと感じます。リファインがいい方向を向いているなと。「劇中に似ている」という素直な印象が僕の中であったので、そのあたりを見ていただけたらなと。アクションポーズもいいですが、胸を反らして、手足を広げて飛ぶ時のX字に広がる美しいシルエットなども見どころです。
重田 蹴りも大切ですけど、そういう基本があってこそですよね。一生蹴りポーズのままにしておくわけにもいかないし(笑)。根本的なプロポーションが美しければ飽きないはずですよね。あとはもうアスランファンの女性の方もぜひ買ってくださいと(笑)。
――作れない人は男子に作ってもらってくださいと(笑)。結果としてガンプラを作れる人がモテるようになれば、業界のステイタスも上がります(笑)
野口 これまでのMGやHGUCでは、商品化のために新しく設定画を起こしてそれを元にプラモデルを開発している面があったかと思うのですが、このインフィニットを含めた『SEED DESTINY』系MGは、実は「アニメで見た絵を元に商品を作る」というガンプラの一番の原点に回帰したシリーズと言えるかもしれません。これだけ短いスパンで商品が連続して出せているのは、やはりユーザーの方々からも、社内からも高い評価を頂いているのだと感じています。今後のさらなる展開も前向きに検討したいですね。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました。
(9月某日 静岡バンダイホビーセンターにて)
協力 : バンダイ ホビー事業部
ガンダムインフォ編集部
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