▲「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」第1巻、第2巻 発売中
10月14日(日)に幕張メッセで開催された2007プラモデルラジコンショーにて、「機動戦士ガンダムUC」の著者、福井晴敏先生のトークショーが行われた。MGユニコーンガンダムver.kaの開発を担当されたのバンダイの岸山博文氏との対談で、福井先生のガンダムに対する思いがひしひしと語ってくれ、会場は熱気に包まれていた。
▲「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」著者 福井晴敏先生
▲バンダイホビー事業部 岸山博文氏 今回MGユニコーンガンダムver.kaの開発を担当。
■「新しい小説を書くときには必ず何かマスターグレードのガンダムを作る」
司会「まずは、福井さんに作家になったきっかけをお聞きしようかと思います。」
福井「これは非常にガンダムと縁の深いところがありまして。最初に自分が江戸川乱歩賞に
応募してみようかと思うも、当時は働いていて、働きながら書くというのは結構大変でし
て…書き始める前に今日は一日休もうと。
一日休んで何をしようかな、と思って街をブラついているうちに、たまたまおもちゃ屋で発
見したのが、一番最初のマスターグレードのガンダム。ファーストガンダムですね。」
岸山「突然プラモデルの話に飛んじゃいましたね。」
福井「ええ。それを見て、『今ってこんなスゲェことになってるのか!』って感動して、その1日
の休みで、何とか1日で作りあげたんです。作り上げて、それで初めて書いた小説が江
戸川乱歩賞の最終選考まで残って、『これはガンダムのおかげじゃないか』って思いま
したね。
以後、現在も続いているんですけども、新しい小説を書くときには必ず何かマスターグ
レードのガンダムを作るって決まりになって。これは俺の中では ガン掛け(願掛け)と
言ってるんですけど。」
岸山「あ、そうですか(笑)」
福井「モノがガンダムだけに……あんまり受けなかった(笑)」
(会場笑)
岸山「ガンプラを作ってから開始ということなんですね。」
福井「最初に「こういうの書こう」って決めておいて、「明日からいよいよ本文だ」というときに作
るわけです。例えば受賞作の『Twelve Y. O.』って、あのときは時間がないときだったの
で、ガンプラが作れなかったんです。
作れないで書いちゃったら、売れゆきが思ったほどが行かなかった。」
岸山「やっぱりガンダム作ると違うと(笑)」
福井「んー。その次に「亡国のイージス」を書くときには、たっぷり時間もあったので、GP01を
作りました。」
岸山「アレ、時間かかりますよね…。」
福井「ええ。でも1日で作らないとガン掛けにならないので。それ作ったら、ガーンと売り上げ
が行って、『あ、こりゃすごい』と。で、次に「終戦のローレライ」のときにはさらなる飛躍を
目指してガンダムMk-II with Gディフェンサーを作りました。『飛行機がついてりゃもっと
飛ぶだろう』ということで。」
岸山(笑)
福井「さすがにコレは2個ついてたんで2日かかったんです。そしたら出来上がった小説も上
下巻になっちゃいまして…。」
岸山「なるほど。因果関係アリなわけですね(笑)」
福井「質問の答えになってないと思うけど、作家になるきっかけにそんなことがありました…
と。」
岸山「いやいや、そういう影にガンプラがあったと思うと、妙に幸せな気持ちになりますね
(笑)。」
福井「全国の受験生にこのガン掛け(願掛け)はオススメですね。」
■最初に考えたのは「宇宙バンダイ」!?
司会「ガンダムユニコーンを書かれるきっかけは何ですか?」
福井「これは単純で。ガンダムエースで何か小説を書くという話だったので。
どういう話で、どういう長さでというのは、おまかせという話だったので、1本、短いギャグ
の話でもやろうかな、と思って宇宙世紀に『宇宙バンダイ』という会社が登場する話を考
えました。」
岸山「は?(笑)」
福井「ホワイトベースにあったハロが、その世界では商品化されるんですが、スペースバン
ダイの社員がそのハロを商品化するためにホワイトベースのクルーを転々と回るとい
う話を書こうと思って提案をしたら、『真面目にやってくれ』と言われて…」
山岸(爆笑)
福井「『真面目にやったらエライことになりますよ』と話をしたんですけど、いくつかの段階を
経て、じゃあガッツリ宇宙世紀で行こうとという話になりました。お客さんも多分、多分今
一番そこが見たいと思って。
そこにオリジナルスタッフである安彦良和さんでキャラクターデザイン、そして今のガン
プラの流れを作ったと言っても良い人、カトキハジメさんと、この二台巨頭と組んで、そ
の新しい宇宙世紀モノを作ろうと。俺だったら単純に「買うな」と思って。
『これだったら買う』っていう勝算がバッチリ持てたので…今回こういう形でおかげさまで
出すことができました。」
■「やってきた中では初めてのやり方ですね。
最初に人物の顔があって、小説を書くというのは」
司会「キャラクターに対しての思い入れとかはありますか?」
福井「何度も何度もすり合わせをして、ようやくここにたどり着いたって感じで。今回は本当に
今まで創作活動の中で何がよかったって、あらかじめストーリープロットとかを作って、
安彦さんとやりとりをしてこのキャラクターデザインをもらってから、書きはじめたわけ
で。これは俺がやってきた中では初めてのやり方ですね。最初に人物の顔があって、小
説を書くというのは。
バナージなんて顔にひっぱられるんで。もうちょっとね、俺の中ではニヒルな要素が入っ
ていたんだけれど、それを、これを見ちゃうと、コイツはとっさにいろんなことを考えちゃ
うやつだろうな、って。
そういう絵にひっぱられるという経験をしたのが、今回新鮮でしたね。」
■「すんごいこだわったのが、
『ツノが割れて2本になる』というギミック」
司会「ユニコーンガンダムも絵が先だったんですか?」
福井「いや、書き始める前にデザインというものは上がってきていたんですが、最初に俺がす
んごいこだわったのが、『ツノが割れて2本になる』というギミック。カトキさんにお願い
するときに『エ?それはおもちゃにするときにやりずらいよ!』って散々反対されたん
だけど。」
岸山「そこにあったんですね。」
福井「もうそこにあったんで。『人相が変わる』っていうことをお願いして。でも『具体的にそれ
はどういう風にするんだ』 ていう腹案がまったくなくて、『あなたならできるよ』って(笑)」
岸山(笑)
福井「『あなたできる子だよ!カトキさん!』って(笑)それでもうお願いしちゃったわけです。」
岸山「なるほど。この話をもらって、数ヶ月前にカトキさんと打ち合わせをすることになった
わけですが、2枚のデザインがあって、『このツノが割れるんです』って見せられた時、
『本当にツノが本当に割れると思ってるんですかねー』ってカトキさんと話した
記憶が…。」
福井「いや、この2枚を見て、ギミックその通りって難しいと思ったんだけど、マスターグレー
ドの出来見て、本当にビックリしました。」
岸山「なんとかがんばれちゃいました。熱いものをいただいちゃったかなって、そんな気がし
ます。」
■「普遍的なもので、まだガンダムが
やったことのないものが何か言ったら『変身だ』と。」
福井「これね、何にこだわったかと言うと、ユニコーンってこのタイトルでさえ、一本角って
後付なんです。」
岸山「ええ!?」
福井「うん。俺の中でまず最初にあったのは、まず『角が割れる』だったんです。それは何か
っていうと、今までのガンダムって、何か必ず一要素付け加えられてきてますよね。
Zガンダムは『変形』、ZZガンダムは『合体』…でさらにクロスボーンガンダムまで言った
ら『マント』とか。F91だったら『小型化』とか。
今までやったことない一要素ってものを、それが突飛なことではなく、普遍的なもので
まだガンダムがやったことのないものが何か言ったら『変身だ』と。」
岸山「そうなんですか?」
福井「『変形』じゃなくて『変身』。『変形』というのは飛行機になったり、機能が変わったりと意
味はわかるけど、『変身』って意味がわかんないじゃないですか。」
岸山「急に今わかってきた気がする…。」
福井「『じゃあ、なぜ変身して形が変わるのか』とかの理屈付けなどが、実は全てそこからス
タートしていて。」
岸山「なるほど。カトキさんそこまでは教えてくれなかったな(笑)」
福井「うん。それはそのとき、もうちょっと頭の良い言葉でしゃべってた気がする。今そうとう
自由にしゃべっているので(笑)」
岸山「あーなるほど…ごめんなさいね。今ここで合点いっちゃってるんですけどね不思議なも
ので(笑)」
福井「これでね、ギミックがあるとジオン軍の兵士とか『ツノ割れのモビルスーツだ!』なんて
ことを言って、そこでまたキャラが立ったり。」
岸山「そこでまた『異形のもつ強さ』みたいのが出てきちゃうと。」
▲1本角が割れ、全身の形態が変わり、ガンダムに「変身」する。
■「ユニコーンというのは実は
『可能性の生き物』と言われているんです。」
司会「テーマは何ですか?」
福井「さっき、一本角から割れるとこから全部考えたって言っちゃったので、いまさら言っ
ても信じてもらえないかもしれないですけど、ユニコーンというのは言葉として、とって
も大事な要素です。
ユニコーンというのは実は『可能性の生き物』と言われているんです。本当はいないん
だけど、みんながいると信じれば、それを餌にしてそこにいることができるという。
で、ある程度みんながそこにいるということを信じたあとは、別にそこにいるかどうかは
気にしないでいいよ…っていうリルケっていう有名な詩人が詩に書いているんですけど。
これを聞いたときに、これってガンダムをじっと見てきた人ならピンとくる『ニュータイプ』
っていう要素があるんですけど、それをすごくきちんと重ね合わせられるなぁって。
その『可能性』というものを、今現実に毎日生きている我々って、どのくらいその自分の
中にある可能性を信じているかって思って。人の中にあるものを信頼してるか、未来に
対して、社会に対して……全部の中におそらく可能性ってあって、今はまだ出来ないけ
ど、いずれはできるかもしれない。
でもなかなかやっぱり人ってそこに目を向けられないで、今出来ることとかやれること
の範囲で物事をかたずけたりしちゃうでしょ。」
司会「そうですね。」
福井「そういうことを続けていると、発展もないし、息苦しいわけです。でも実はちょっと一つ、
物事の見方を変えただけで、本当に世の中も自分もガラっと変わっちゃう瞬間ってある
わけじゃないですか。」
司会「はい。」
福井「それこそ、最初のマスターグレードのガンダムをチラっと見たことで、俺も『時代はここ
まで来たんだ』って感じさせられることで人生が変わったわけで。バカバカしいって言え
ば、バカバカしいんだけど、人間って人生そんなことで変わったりとかするわけです。
まぁ、今回の宇宙世紀って今描いてるところって先が決まってないんで。この先、宇宙
世紀120何年というものを舞台にしてF91っていうものがあるから、ユニコーンガンダム
のこの時代で世界が滅ぶとかって絶対無いわけで、劇的に何かが変わるというのもお
そらくないはずなんだけど、でも何も変わらない中で、ユニコーンの登場人物たちだけ
は、おそらく世界の見方を変えさせたわけです。
『この人たちがいるからには、おそらくこれから何かが変わっていくんじゃないかって
ね』そういうような気分に最終的には持っていければいいなって思って、やってます。」
岸山「なんか、こう背筋がシャンとするようなことを言われたような気がするんですが…。」
福井「いや、思いついたこと言ったので取り繕っておかないと(笑)
エライ考えてやってますよ~~(笑)」
岸山「いろんな要素がかみあって最後にまとまったときに良い体裁になっていたら、もうそれ
に勝るものはないというか。」
福井「そうですね。」
■「もうちょっと統括的にガンダム全シリーズに
日が当たるように上手く着陸させられないかなぁ…」
司会「ユニコーンの時代の前のお話とかも見たりされたんですか?」
福井「見ました。実はこの仕事やるって決まる前まで、ZZって見たことなかったんです。
ZZを大慌てで見て(笑)これをやる前にTVシリーズのガンダムを全話を見るというスー
パーマラソンをして。トライアスロンみたいに。ファースト終わったらZ、ZZと見るたびに
体重減っていくみたいな。「鉄人ガンダム」みたいなことをやったんですけど(笑)
その中で見るとZZってかわいそうな子だなぁ…と。ガンダム商品花盛りな中で、何か
いまいち注目されてない感があったんで…下手すると『あれはなかったことに感』も漂っ
てこなかったでもないんで、こりゃイカンだろ…と。」
岸山「ええ…まぁ…なんかいけない気がしてきたなぁ…(笑)」
福井「だから今回のユニコーンで、このマスターグレードを皮切りに、いろいろな商品展開あ
るかと思われますが、ファースト中心、Zも映画になったから…という流れを、『もうちょっ
と統括的にガンダム全シリーズに日が当たるように上手く着陸させられないかなぁ…』
ということを、個人的にちょっと思ったりしてます。それでちょっとですけどネェル・アーガ
マを出たりしてるわけですけど。」
岸山「なるほどちょっとだけ出てますね。」
■「マスターグレードというのは、今やってる商品が
「次の何か」に 役立つためのテストトライアルをやっているんです。」
司会「福井さんはMGユニコーンをご覧になられてどうですか?」
福井「今回、俺がユニコーンのやつで衝撃を受けたのは、俗に言う、この細かい字で送られ
てくる「カトキメモ」!
ユニコーンは耳のところが回転するんですけど、あそこが『約157°ほど回転します』っ
て書いてあったんですけど、『160°くらい』ならまだわかるじゃないですか、でも『157°
くらい』って…、あの人の頭の中、小数点まで行ってるのかって!(笑)」
岸山「そーですね(笑)モールドで凹んでるところがあるんですが、ここは「0.3mm凹んでいま
す」って指示にあって(笑)」
福井「これはMGの何がすごいってキャラクターモデルとしてあって、絶対そもそも3次元とし
て起こせないものを3次元化しているのであって、MGは工業製品の域に達しているん
ですよね。
工業製品というのは、ミリ単位で成立しないとできていかないものなんだけど、MGの
場合は、ガンダムを本当に工業製品のレベルまで持っていって、解体して解釈し直し
て、作っているという。
そうなってくると本当に新しく作るガンダムというのは難しくて、例えば今やっているガン
ダム00とかのキャラクター性を優先して、そっちを突き詰めていくというやり方もあれば、
工業製品としての精度というものをひたすら追求していくという、両方のパターンが
あって。
そういう意味では今回のユニコーンの仕掛けというものと、さっき言った『この形で行き
たい』という理想を実現できたのって、本当にカトキさんしかいなかっただろうし、それを
モデルにできるのは、マスターグレードしかなかったんだろうなぁ…って思いますね。」
岸山「そうですね。お話もらったときに、「ぜひMGで考えてもらいたい」というところがスター
トラインにあります。
この2モードの「変身」は、実は10年前に発売したパーフェクトグレードの中に、ほぼ同じ
技術が入っているのですが、パーフェクトグレードは1/60ということで、約30cmの大きさ
あるんですが、逆に言うと30cmないと出来なかった。
ところが今回それが20cmという中に凝縮しているということが、「10年の進化」みたいな
ところになるんですね。マスターグレードというのは、今やってる商品が「次の何か」に
役立つためのテストトライアルをやっているんです。
このユニコーンガンダムというのが成立するためのテクニックのために、ノウハウが
生きているものとして、昨年やったF91というものがあるんですが、それまで18cmくらい
あったマスターグレードを15cmくらいに縮小しました。
つまり高密度化しつつ、マスターグレードならではなの可動も再現するという小型化のテ
クニックの習得を昨年やったんですね。
それからMGターンエーの胸の部分のコンテナハッチがパカパカ開くんですね。その
ヒンジが目立たないように出来ている。そういう箱根細工的な仕掛けをターンエーで
テストしています。
そういういくつかのものがここに入ることで成り立っているんですね。」
福井「逆に今度はこれを元にして、もっとスゴイものができていくんだろうな…と。」
岸山「まさにおっしゃるとおりで、この子でないとやる必要が無かったということも、こん中に入
ってまして、やはりそれがまた今後の商品に反映するために仕込んであるんです。だ
から作ってもらうと、ハーとかヘーとか言っちゃうところがいっぱいあると思います。」
▲1/100 MGユニコーンガンダムver.ka 12月発売予定
■「『俺たちはこういうの見て育って、今こうなってんだぜ』と、
恥ずかしくないものをきちんと提示していこうと思っています。」
司会「最後にご来場しているみなさんにメッセージをお願いします。」
福井「今回、空気が空気なので非常にリラックスして話していますが(笑)、
これからガンダムUCは来年いっぱいよりちょっと行って続く予定です。ガンダムエース
の連載、そして単行本も12月に出るので、楽しみにしていただけたらと思います。
モビルスーツもたくさん隠し玉ありますから。今岸山さんから、これを元にしてマスター
グレードはどんどん進化しているんだという話がありましたけど、じゃあガンダムユニ
コーンはトばして今度は三本角にしてみるとか…。」
岸山「かぶと虫みたいだ(笑)」
福井「ここにいらっしゃる半分くらい同世代だと思いますが、もう社会の一線で働く歳になっち
ゃいましたよ我々も。そういう我々が今作るガンダム、受け取るガンダム。『俺たちは
こういうの見て育って、今こうなってんだぜ』と、恥ずかしくないものをきちんと提示して
いこうと思っていますので、これからもご声援のほどよろしくお願いします。」
司会「ありがとうございました。」
(トークショー本文敬称略)
トークショーでは、福井先生と岸山氏から、「機動戦士ガンダムUC」に賭ける熱い思いがひしひしと伝わってきた。12月下旬発売予定のMGユニコーンガンダムver.ka、機動戦士ガンダムUC第3巻は要チェックだ!
ガンダムインフォ編集部
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