国内外のアニメシーンに多大な影響を与えてきた富野由悠季監督のこれまでの仕事を回顧、検証する展覧会「富野由悠季の世界」の巡回展が、島根県立石見美術館で好評開催中だ。
1月11日(土)には、初日を飾る記念イベントとして「元気のGはグラントワのG!富野由悠季×山根公利、島根で語る」を実施。富野監督と、『Gのレコンギスタ』等に参加したメカデザイナー・山根公利さんが登壇し、「島根という土地が生み出すデザインやクリエイション」について対談した。
それでは早速イベントの模様をお届けしよう。
▲富野由悠季監督
アニメーション制作会社の多い東京都を離れ、現在は地元である島根県に住む山根さん。
富野監督は、山根さんの描く線の確かさと独創性は、個人的な能力だけではなく、土地の力=“地力”(じりき)が土壌になっているとし、
「人間というのは体の中に地域、土地の力を反映させている部分があるんだろう。生まれたときから持たされていたとか、育っていく上で身につけた空気感、地域でのものの考え方を、好き嫌い関係なく体に身に付けているものなんだろうと思います。それが東京に出てきたために削ぎ落とされて、才能だけで仕事をする人をいっぱい見てきた。能力がフラットになってクリエイティビティが無くなっていく」と実際の経験を語ると、
山根さんも「1990年代の終わり頃にアニメの企画もオリジナリティを失ってきて、周囲もマンネリになっていた印象があったんです。“地力”を一度確認するために島根に戻ってみるという選択肢もありかな、と思ったんです。もう一つはインターネット、メールの普及ですね。科学技術を利用するのもメカデザイナーの役目ではないかと思いまして」
と、“地力”の存在を語った。
メカをデザインする過程で、富野監督と山根さんは、ほとんど打ち合わせをしないとの事。
富野監督は、
「山根さん相手にはラフも出さないで、お願いすると勝手に送られてくる。細かいリテークは出しません。出せないんです。“山根ライン”の持っているメカの雰囲気は固有なものがあるので、うかつな線の改変は要求できないんです。
山根デザインには、東京慣れした、その時の流行りを取り込んでニュートラルに描いた感じが無いんです。全直しかOKかしか無い。
島根という所は世界中でもここしかない。絶対的に固有なものです。小賢しい知恵を持った人は国をかなぐり捨てるんですが、その瞬間、無国籍人になってしまうくらい固有なものを無くしてしまう。
皆さんは土着性をマイナスに捕らえていただきたくない。それぞれの土地に固有の匂いを作品に封じ込めていく努力をしていただきたい」
と、その土地で育まれる感性の重要性を語る。
そして山根さんは、自身と同じく島根県出身の石見美術館の澄川喜一館長とのエピソードを紹介。
「澄川さんはスカイツリーのデザインなど『反り』を得意とされています。
その『反り』のセンスが好きでお話できて光栄だったのですが、『カウボーイビバップ』のソードフィッシュIIをご覧になって、『感性が似ている』と褒めていただいて嬉しかったです。ルーツを考えた時に、石見には、たたら製鉄の文化があるので刀の『反り』に根源的な何かがあるのかなと」と言うと、富野監督も「それは絶対ある」と太鼓判を押していた。
続いて話題は、現在劇場版が公開中の『Gのレコンギスタ』へ。
「今の『ガンダム』で誤解されている事を解き明かしていくために、作らなくてはいけない!と思って作りました。なので『ガンダム』のつもりで観た人には理解不能と言われました。
ものの表現というのは、根本的な所で何を押さえているのか、何を考えているのか、を見抜く能力が鑑賞者にも必要になってくる。だけれども、アニメに理解力は必要なのか?というと基本的には不要で、観て楽しければ良いのであって、その上で気になることは思い出して欲しいな、という作り方をしています。
『機動戦士ガンダム』は、アニメでもちょっとだけ本物っぽい話が作れるかもしれない、という事だけでやった。『ガンダム』の時代は終わって、アニメも新しい時代に入ってきて、“地力”のついたメッセージを持った作品を作らなければと思っています」
と、『G-レコ』を新しいアニメとして制作している意気込みを語っていた。
▲メカデザイナー・山根公利さん
展覧会「富野由悠季の世界」島根会場の会期は、3月23日(月)まで。トークショー&ライブ「井荻麟の世界」のほか、劇場版『Gのレコンギスタ I』「行け!コア・ファイター」特別上映会&富野由悠季監督によるアフタートークなど、様々な関連プログラムも実施予定。
また、地元の老舗和菓子店「三松堂」とのコラボ商品として、シャア専用焼印が押された「シャア専用源氏小巻」が販売されている。会場へ足を運んだ際は、ぜひとも手に取ってみよう。
▲シャア専用源氏小巻(税込み1200円)
展覧会「富野由悠季の世界」開催概要
【開催情報】
- 第1会場[終了]
会期:2019年6月22日(土)~9月1日(日)
- 第2会場[終了]
会期:2019年10月12日(土)~12月22日(日)
- 第3会場
会期:2020年1月11日(土)~3月23日(月)
- 第4会場[予定]
会期:2020年4月18日(土)~6月21日(日)
- 第5会場[予定]
会期:2020年7月18日(土)~9月6日(日)
- 第6会場[予定]
会期:2020年9月19日(土)~11月8日(日)
【公式サイト】
http://www.tomino-exhibition.com
【協力】
サンライズ、東北新社、手塚プロダクション、日本アニメーション、オフィス アイ
【企画協力】
神戸新聞社
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