『鉄腕アトム』から代表作『機動戦士ガンダム』を経て最新作『ガンダム Gのレコンギスタ』まで、富野由悠季さんの55年間の業績を振り返る展覧会「富野由悠季の世界」の開催が決定した。
展覧会は、6月22日(土)に開幕する福岡市美術館を皮切りに、兵庫、島根、青森、富山を辿り、2020年9月から開催される静岡県立美術館まで、全国6会場を巡回予定。
本日1月4日(金)、展覧会の公式サイトがオープンしたほか、富野さんから展覧会に寄せてのコメントも到着した。
近くを訪れる際は、ぜひとも足を運んでみよう。
展覧会に寄せて
「概念の展示」は不可能なのだが……
富野由悠季
この展覧会の企画について、美術館の学芸員の方々からご提案をいただいたときには、嬉しかった反面、「展示するものなどはないのだからやめたほうがいい」と何度も伝えました。
「演出」という仕事は、感覚的な仕事であると同時に、たいへん観念的な作業で、「概念(考え方)を示すことができる仕事」なのです。つまり、この一行半を展示で説明することはできないのです。しかし、美術館の学芸員の方々は、みなさん方がとても熱心で、ぼくの言うことを聞いてくれませんでした(笑)。
そして、彼らと話し合いをするうちに、「トミノは巨大ロボットを動かすだけではないという部分を記録してみたい」と思うようになりました。
それで、子供のころから学生時代までの記録を見直してみて、記憶の通りでありながらも、結局は、当時ただひとつ好きだった連載漫画『鉄腕アトム』に引っ張られながらも、アメリカのSF映画群から「映画的なるもの」に触発され、好きでもなかったアニメの世界に入ってしまったのです。しかも手塚治虫主宰のプロダクションに就職したのですから、たいへん幅の狭い道でした。
しかし、中高時代は漫画離れをして、ペン画や短編小説を試作し、大学時代は学生運動というほどのものではないにしても世間を覗くことができて、その結果、テレビ漫画『鉄腕アトム』の演出の仕事にはいり、それから、初監督作品『海のトリトン』から始まって、出世作となった『機動戦士ガンダム』を経て、『ガンダム Gのレコンギスタ』まで55年間。
仕事を成立させるために、先に思い(観念的なこと)を吐き出してしまい、その後付けを考えるということを繰り返してきました。それは基礎学力のない情けないキャリアで辟易するのですが、しかしながら、「アニメは映画だ」というコンセプトだけは振り回してきたつもりです。
そのことは何なのだ!?その説明はとても不可能なのですが、「映画というのはただ動く絵の陳列ではないんだよ」ということを知っていただきたい、もっと素敵で強固な媒体なのだ、ということを想像していただきたいのです。
そのために、今回のような形で恥を晒してみせましたので、映像作家を目指す諸君には、ここから独自の道筋をお考えいただければ、と心から願うのです。
2018年12月10日
展覧会「富野由悠季の世界」開催概要
撮影:鈴木 心
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