アニメーションの振興を図る国際的映画祭「東京アニメアワードフェスティバル2014(TAAF2014)」が3月20日(木)~23日(日)にわたりTOHOシネマズ 日本橋にて開催された。TAAF2014では作品の上映のほかにも、日本内外のクリエイターを招いてのイベントも企画され、21日は富野由悠季監督と、セドリック・リタルディさん、加藤崇さんを迎えてのトークセッションが行なわれた。
セドリックさんはフランスに日本アニメのブームを起こした中心人物で、現在はアニメだけでなく日本やヨーロッパの文化を深く理解したうえで文化事業やビジネスに関わっている。
加藤さんは元銀行マンで、東京大学で二足歩行ロボットを開発したチームが起こしたベンチャー企業「SCHAFT」を経営面でサポート。「SCHAFT」が開発した二足歩行ロボットは、アメリカの災害救助ロボットコンテストでグランプリを獲得している。
ビジネスに関わる2人を招いてのトークテーマは「日本のアニメーションの未来」について。前日に最新作アニメ「ガンダム Gのレコンギスタ」を発表したばかりの富野監督からは「未来なんてない」という、富野監督らしいことばから始まった。
富野: | 世界最古の長編小説と言われている『源氏物語』を読むと“現代は末世で、この世はおしまいだ”と光源氏でさえ嘆いてしょっちゅう泣いている。 世の中で生きている人はおおかた楽な生活をしていない。だからずっと“人類はおしまいだ”という考え方はあるわけです。『源氏物語』から1000年以上も末世が続いていて、僕が先ほど『未来なんてない』と言ったことについても、ちょっと知恵のある人ならこういう言い方をするんです。そこを覚えておいてください。 |
アニメに未来はないという根拠について富野監督は次のように続けた。
富野: | 黎明期であった40~50年前、アニメスタジオはいろんな職場から集まってきた、異能の集団だった。だけどアニメーションはある時期から専門職になりアニメ・コミック好きの集団になってしまった。 それは専門的に特化していくわけだから、そこから自由度のある作品が生まれるわけがない。まして動画投稿サイトのようなものができてしまって、アニメーションが個人で作られるようになれば、ますます個人の妄想を作品化する傾向に陥っていたりする。 個人の妄想を表現したものは実は作品ではないんです。そんなジャンルに未来があるかと言われると、あるわけがない。 |
これを突破する唯一の方法として「先がないことを大人たちがきちんと了解して、次代を担う子供たち孫たちにバトンを渡す」ことを挙げるも、そういう問題意識をもって現場にいるスタッフはほとんどいないとも語る。
富野: | 未来について考えるのは自分のためではなくて、次を支える世代に対してどういうことばを残していくか。次代の子供たちに対してチャンスを与える、世界には広いフィールドがあるということを示すのがいちばん大事なんじゃないかということが僕の結論です。 |
アニメーションの未来に対して悲観的な見解を述べた富野監督に対して、セドリックさんは日本の外に立った観点からアニメーションの重要性についてこう述べている。
セドリック: | 私の国・フランスではアニメの生産数は日本と比べると非常に少なく、アニメーションは10歳以下の子供たちのものであるという認識が広くあります。私はこういう考え方と長年戦ってきました。 なぜなら特に日本の作品は、お姫様物語やコメディだけではなくて、感動を与えてくれる、大人向けの物語を表現するためのものであることを私は深く信じているからです。ひとつの物語を語るとき、いろんな手法があると思います。 実写もそのひとつですが、アニメーションという手法を使うとまったく別のものが表現できる。このすばらしさを多くの人たちに伝えたいと思っています。 |
日本のアニメーションは世界から高い評価を受けている。けれども富野監督は「現状のアニメ・コミック関係者が専門職として特化してしまったがために今の時代に流行するような物語しかないのではないか。本来もっと広いマーケットに向けての物語をつくっていく必要があるのではないか」と警鐘を鳴らす。アニメの製作者は自分たちの趣味嗜好だけを詰め込むのではなく、「“作品”というのは良識、襟を正す姿、矜恃が見えなければなりません」と、作品の中に品格が求められるべきだとコメントしていた。
加藤さんは、次の世代に残る技術・研究者を経営や資金面でバックアップしてきた立場から日本の現状を次のように分析している。
加藤: | ビジネスマンの方たちを前に講演する際にもずっと言っているのが“リアリティの消失”なんです。 たとえばひとつの大きなブランドがあって、その看板をいったん外して“モノを売る”ということがどんなに難しいことか、それを身をもって体験していない部下の皆さんに話をしても刺さらない。それは社会全体から“リアリティ”が消失しているんじゃないか。 富野さんがおっしゃっていた、かつてのアニメの制作現場ではもっといろんな分野から異端児が集まってきた、いわば“リアリティ”の集まりだったんだと思うんですよね。それら具体的なものがどんどん抽象的になり煮詰まって“アニメーション”という名前がついてジャンルができあがった。企業の運営でも昔は“マーケティング”ということばも“戦略”ということばもなかったですよね。 それこそ体当たりでモノを売る時代があって、そのノウハウをコンパクトにわかりやすく、汎用性を高くしていくと“戦略”とか“マーケティング”という名前がついた理論が完成する。ところがその“戦略”や“マーケティング”をリアリティもなく学ぼうとする人たちは、今度はモノが売れなくなっちゃうんですね。そういうパラドクスはあると思います。 |
“リアリティの消失”は富野監督もことばとして表出してこなかった表現で、そこから大学時代の先輩とのエピソードから始まり、日本経済全体に話が広がっていった。そういった問題を解決していくのは我々の世代ではなく、その子供や孫またはその次。その子たちに我々は問題があることをきちんと伝える必要があり、アニメーションという媒体のすばらしさはそこにこそあり、同時に未来も少し見えてくると富野監督は続ける。
アニメーションは動く“絵”、つまり記号性の高い表現であるため、100年語り継ぐような摂理を伝えるのにいちばん便利な媒体である。それを富野監督は『ガンダム』で教えられ、35年間も『ガンダム』が人気を保ってこられたのはアニメーションで表現されているからと分析していた。そして、現実への問題意識を絵空事のアニメーションを使って語っていく方法論を、次の作品「Gのレコンギスタ」では講じてみようとも付け加えた。
富野: | ただしそれほどうぬぼれてもいません。70歳を過ぎた人間が、10~15歳の子が感動するような作品をつくれるわけがない(笑)。これも現実認識として大事なことだと思っています。 ですがアニメーションのもっている根本的な性能がわかり、それを駆使して100年残していきたいことばづかい、テーマがあるということで『Gのレコンギスタ』は制作しています。それが僕にとっての未来です。僕自身が成すべき未来ではなくて、自分の子、子孫でなくてもいいんです、こういう媒体のもっている癖を理解して新しい別の表現媒体を見つけくれたらありがたいと思うし、そういう作品をつくってくれたらと思います。 |
黎明期からアニメーションに携わり、今も最前線に立つ富野監督は現状をシビアに捉えたからこそ、未来に光明を見いだしている。トークは人型二足歩行ロボットの有用性や、工学、インターネットなど多岐にわたり、最後は『Gのレコンギスタ』の最新映像も上映され、トークセッションは好評のうちに幕を閉じた。
▲左から加藤さん、富野監督、セドリックさん。
PVをご覧になって皆さんに抵抗感があるのは当たり前です。これは『ガンダム』じゃないからです。
この気持ちの悪さは何なのか?35年前、『ファーストガンダム』第1話の試写で、何をやっているのかまったく理解されませんでした。理解されるまで5、6年かかっています。そのレベルで考えたら『Gのレコンギスタ』はわかりやすくなっているはずですが、この瞬間で理解される必要はありません。本編を見ないと絶対にわかりません。そのくらい“変な絵”なんです。
大人にとっての気持ちのいい“絵”を作る選択を取らずに、こういうふうに作ったことについては気に入っています。健全なロボットアニメですので、お子たちにはぜひオススメいただきたいと思います。(富野)
この気持ちの悪さは何なのか?35年前、『ファーストガンダム』第1話の試写で、何をやっているのかまったく理解されませんでした。理解されるまで5、6年かかっています。そのレベルで考えたら『Gのレコンギスタ』はわかりやすくなっているはずですが、この瞬間で理解される必要はありません。本編を見ないと絶対にわかりません。そのくらい“変な絵”なんです。
大人にとっての気持ちのいい“絵”を作る選択を取らずに、こういうふうに作ったことについては気に入っています。健全なロボットアニメですので、お子たちにはぜひオススメいただきたいと思います。(富野)
フランス人はネガティブな民族なんですが、そのフランス人の私がずっと希望をもちつづけることができたのは、小さいときにアニメーションに出会ったからだと思います。
アニメーションを介して、ヒーロー像や開拓精神、あきらめない心を学んだ。この壇上にいる方たちはアーティストであったり技術やビジネスの専門家であったりするわけですが、皆さんはいろんなアイデアをもっていらして、それを実現化させるために日々励まれている。そのエネルギーは全部アニメー ションに端を発しているのではないと思います。(セドリック) |
いろんなことが普及して伝播していくとだんだんつまらなくなっていくというのが今日の中心テーマだったと思うんですけれども、富野さんのように自分の中に“柱”をもつことが重要だなと。
私のつくった会社はゲームやソーシャルネットワーク以外の、リアルテクノロジーに投資をするところから始まっているんです。 それはもしかしたら投資のパフォーマンスが悪くなるかもしれないのですが、誰かが哲学とか志を立てることが重要だと思っていて。そういう意味で富野さんと通じるところがあるのかなと感じられて楽しかったです。(加藤) |
(ガンダムインフォ編集部)
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