「どまんなかアニメ映画祭」が、愛知・ミッドランドスクエア シネマで5月17日(金)から19日(日)の3日間にわたり開催された。
最終日の5月19日(日)には『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』の上映と「CLOSINGセレモニートークイベント」が実施され、『機動戦士ガンダム』のアニメーションディレクターで漫画家の安彦良和さんと、アニメ・特撮研究家の氷川竜介さんが登壇。約50分間、映画祭ポスターイラストの制作秘話や『機動戦士ガンダム』制作当時の心情、アニメーターの世代交代についてなど、濃密なトークを展開した。
それでは早速、イベントの模様をお伝えしていこう。
最終日の5月19日(日)には『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』の上映と「CLOSINGセレモニートークイベント」が実施され、『機動戦士ガンダム』のアニメーションディレクターで漫画家の安彦良和さんと、アニメ・特撮研究家の氷川竜介さんが登壇。約50分間、映画祭ポスターイラストの制作秘話や『機動戦士ガンダム』制作当時の心情、アニメーターの世代交代についてなど、濃密なトークを展開した。
それでは早速、イベントの模様をお伝えしていこう。
イベントレポート
満席の観客がゲストの登壇を今か今かと待ち構えるなか、いよいよクロージングセレモニーがスタート。
はじめに、「どまんなかアニメ映画祭」総合プロデューサーの近藤良英さんが挨拶に立った。近藤さんは、松竹で『機動戦士ガンダム』劇場版三部作や『伝説巨神イデオン』から様々な作品を経て『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の途中まで宣伝を担当。その後、2023年10月に68歳で中日本興行へ入社し、ゼロから本映画祭を立ち上げた。
開催に当たっては、安彦さんにポスターイラストを依頼するところから始まり、近藤さんが“会ってみたい人”に登壇の相談をして回ったという。上映作品も、ツテを頼りながら多方面に声をかけ、断られることもありながら、なんとか形にしていったそうだ。「どまんなかアニメ映画祭」が今後どうなるかはわからないとしながらも「2回、3回と続けていきたいと思っていますので、ぜひ応援してください」と頭を下げると、客席からは温かい拍手が沸き起こった。
はじめに、「どまんなかアニメ映画祭」総合プロデューサーの近藤良英さんが挨拶に立った。近藤さんは、松竹で『機動戦士ガンダム』劇場版三部作や『伝説巨神イデオン』から様々な作品を経て『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の途中まで宣伝を担当。その後、2023年10月に68歳で中日本興行へ入社し、ゼロから本映画祭を立ち上げた。
開催に当たっては、安彦さんにポスターイラストを依頼するところから始まり、近藤さんが“会ってみたい人”に登壇の相談をして回ったという。上映作品も、ツテを頼りながら多方面に声をかけ、断られることもありながら、なんとか形にしていったそうだ。「どまんなかアニメ映画祭」が今後どうなるかはわからないとしながらも「2回、3回と続けていきたいと思っていますので、ぜひ応援してください」と頭を下げると、客席からは温かい拍手が沸き起こった。
続いて、アニメ・特撮研究家の氷川竜介さんが登壇し、ゲストの『機動戦士ガンダム』アニメーションディレクター・安彦良和さんを迎え入れる。
最初のテーマは、本映画祭のポスターイラストについて。
映画祭が行われたミッドランドスクエア シネマの入っているビルを中心に、新幹線からも見える名古屋モード学園のスパイラルタワーズも象徴的に描いた。安彦さんが苦労した点として、現代の若い人々のファッションがわからないことを挙げ、それを解決するために、名古屋駅前あたりの人々を写真に撮ってもらい、その服装をほぼそっくりそのまま描いたそうだ。「ひょっとしたらあなたが絵になっているかもしれない」とのことなので、ぜひ見返して欲しい。
また、名古屋と言えば「金の鯱」ということで、資料写真を改めて見た安彦さんは「なんとまあ鯱の可愛いこと。江戸時代にこんな漫画的なセンスがあったのか!と非常に感動しました」と語っていた。
最初のテーマは、本映画祭のポスターイラストについて。
映画祭が行われたミッドランドスクエア シネマの入っているビルを中心に、新幹線からも見える名古屋モード学園のスパイラルタワーズも象徴的に描いた。安彦さんが苦労した点として、現代の若い人々のファッションがわからないことを挙げ、それを解決するために、名古屋駅前あたりの人々を写真に撮ってもらい、その服装をほぼそっくりそのまま描いたそうだ。「ひょっとしたらあなたが絵になっているかもしれない」とのことなので、ぜひ見返して欲しい。
また、名古屋と言えば「金の鯱」ということで、資料写真を改めて見た安彦さんは「なんとまあ鯱の可愛いこと。江戸時代にこんな漫画的なセンスがあったのか!と非常に感動しました」と語っていた。
次に話題は、6月8日(土)から兵庫県立美術館で開催される大規模回顧展「描く人、安彦良和」に。
安彦さんは当初、これまで開催してきた絵画展の延長のようなものを想像していたそうだが、学芸員に説明されたのはそういうものではなく「展示されるのは、簡単に言っちゃうと、ぼくの家の物置から出たものが大半なんです」と少し恥ずかしそうに明かす。
中には、自身で保管していたことさえ忘れていた、安彦さんが初めて描いた『宇宙戦艦ヤマト』のポスターの原画も見つかった。このポスターでイラストを描いた経験が、後に『機動戦士ガンダム』劇場版のポスターへとつながっていったという。
展覧会では、安彦さんが描いた『機動戦士ガンダム』の原画も多数展示されるとのことなので、ぜひ足を運んでみよう(詳細はこちらの記事をご覧ください)。
安彦さんは当初、これまで開催してきた絵画展の延長のようなものを想像していたそうだが、学芸員に説明されたのはそういうものではなく「展示されるのは、簡単に言っちゃうと、ぼくの家の物置から出たものが大半なんです」と少し恥ずかしそうに明かす。
中には、自身で保管していたことさえ忘れていた、安彦さんが初めて描いた『宇宙戦艦ヤマト』のポスターの原画も見つかった。このポスターでイラストを描いた経験が、後に『機動戦士ガンダム』劇場版のポスターへとつながっていったという。
展覧会では、安彦さんが描いた『機動戦士ガンダム』の原画も多数展示されるとのことなので、ぜひ足を運んでみよう(詳細はこちらの記事をご覧ください)。
『機動戦士ガンダム』のTVシリーズ制作中、安彦さんは体調を崩し、一時降板することに。しかし、自分の関われなかった部分に強い心残りがあったため、富野由悠季監督が尽力して、安彦さんが修正を入れることを前提に映画化を勝ち取った。
安彦さんは最初から「3作目に注力する、その代わり1作目と2作目にはあまり手を入れない」という方針で、自宅に近い埼玉・新所沢に新たな拠点も作り、制作に打ち込んだ。当時の心境について、「アニメーターに世代交代の時期が来ている」と感じていたそうで、“下の世代を集めてフレッシュな気分で”と布陣を整えた。理想は「自分が作業をしていて、振り返ったら若い人がついてきてくれている」状態だったが、ふたを開けてみると「時々振り返るんだけど、誰もいない」状態だったと苦笑する。
安彦さんは最初から「3作目に注力する、その代わり1作目と2作目にはあまり手を入れない」という方針で、自宅に近い埼玉・新所沢に新たな拠点も作り、制作に打ち込んだ。当時の心境について、「アニメーターに世代交代の時期が来ている」と感じていたそうで、“下の世代を集めてフレッシュな気分で”と布陣を整えた。理想は「自分が作業をしていて、振り返ったら若い人がついてきてくれている」状態だったが、ふたを開けてみると「時々振り返るんだけど、誰もいない」状態だったと苦笑する。
アニメーターの世代交代について、氷川さんは、今回の映画祭で『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』のトークに登壇した板野一郎さんが披露したエピソードを挙げる。『哀・戦士編』のフラミンゴのシーンで、安彦さんが気を遣って少なく描いたフラミンゴを、板野さんは増やして描いてきた。
安彦さんは「『いいんじゃない、この程度で』と納めるのがベテラン。爆発も、業界用語で言う『3コマ中3』(※1)で描いて、何とも思わない」「新世代は『そこまでやらなくて良いよ、というところまでやっちゃう』。爆発は1コマで描く」とし、まさにこの世代交代が起こっていたのが『めぐりあい宇宙』の現場だったと振り返った。
※1「3コマ中(なか)3」は、原画と中割りの作画枚数のこと。「1コマ」の方が細かい表現が可能だが、非常に労力がかかってしまう。
安彦さんは「『いいんじゃない、この程度で』と納めるのがベテラン。爆発も、業界用語で言う『3コマ中3』(※1)で描いて、何とも思わない」「新世代は『そこまでやらなくて良いよ、というところまでやっちゃう』。爆発は1コマで描く」とし、まさにこの世代交代が起こっていたのが『めぐりあい宇宙』の現場だったと振り返った。
※1「3コマ中(なか)3」は、原画と中割りの作画枚数のこと。「1コマ」の方が細かい表現が可能だが、非常に労力がかかってしまう。
『めぐりあい宇宙』では、富野監督の指示により、1作目・2作目に比べて多くの新作カットが作られた。これは、劇場版として映像を豪華にするためではなく、TVシリーズにおいて不自然だったり分かりずらかった展開を解消するためであり、また、ストーリーの途中から導入された「ニュータイプ」という概念が、いかにも準備不足・説明不足であったことから、新作カットを入れて補完せざるを得なかったからだと安彦さんは説明する。
だが、安彦さんとしては「そんなことより絵を直したい」と思っていたと、当時の心情を明かしていた。
普段なかなか聞くことのできない内容にヒートアップしたトークイベントだったが、ここで来場者とのQ&Aコーナーとなった。
Q:安彦先生の好きなアニメは何ですか?
A:非常にインパクトを受けた、触発された、目を見開かされたのは『アルプスの少女ハイジ』。ぼくが『宇宙戦艦ヤマト』をやってるころで、自分の子どもが2歳くらいの時。子どもにも「『ヤマト』は見なくて良い、『ハイジ』を見るんだ」と言ってました。また悪いことに(『ハイジ』は『ヤマト』の)裏番組だったんですよね。元手はかかってるんでしょうけども「TVアニメでここまでできるんだ」ということを教えていただきました。その後の『母をたずねて三千里』もそうですし、この2本にアニメの奥深さを教えられましたね。今回の映画祭は80年代のアニメがテーマですけども、70年代も名作があるんですよ。『ガンバの冒険』とかね。いつか、この映画祭で70年代の名作特集があっても良いかなぁ、なんて思います。
Q:『めぐりあい宇宙』の直したところで、お気に入りのシーンはありますか?
A:(入院していた時にTVシリーズを見て)「これは直さなきゃ!」と思っていたのは、アムロがコア・ファイターからこぼれ落ちて、みんなのところへ戻るシーン。TVだと「止めフォロー」(※2)なんですよ。宇宙空間に転げ落ちたものが、止まるわけないですから、回転させなきゃダメ。映画だからとやったのではなく、TVシリーズの時でも、ぼくがやっていたら回転させていたと思います。
※2「止めフォロー」とは、1枚だけ作画し、背景を引くことで移動しているように見せる手法。作画された部分は止まっている。
Q:『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』のように、過去作のリメイクをお願いできますでしょうか?自分は「時間よ、とまれ」を希望します。
A:残念ながらそれは無いと思います(笑)。申し訳ない。会社が決めることなので、諸般の事情でどうなるかわかりませんけども、無いんじゃないかな(笑)。『ククルス・ドアン』は本当に心残りで、社長に直訴してやらせてもらったので。それほど引っかかっているエピソードは他に無いので、想いは遂げたかな、と思います。
Q:『めぐりあい宇宙』をさらに修正したい点や、漫画「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」のように自分のストーリーで作り直したい気持ちはありますか?
A:「THE ORIGIN」は、『機動戦士ガンダム』の全体に舌足らずな部分や整合性のとれていないところが気になったので描き直したんです。ラストパートに関しては、特にどうこうということはありません。相対的に『機動戦士ガンダム』のラストは、ぼくは非常に気に入っています。これ以上ない終わり方だと思います。ただ、そこに至る過程に若干問題を感じていたということです。「THE ORIGIN」のラストシーンも、構想も含めて『機動戦士ガンダム』のまんまです。手間暇かけてオールカラーで描いてます。ここは触れちゃいけない、と思ったので、あえてそのまんまやってます。それくらい『機動戦士ガンダム』のラストは最高だと思っています。
だが、安彦さんとしては「そんなことより絵を直したい」と思っていたと、当時の心情を明かしていた。
普段なかなか聞くことのできない内容にヒートアップしたトークイベントだったが、ここで来場者とのQ&Aコーナーとなった。
Q:安彦先生の好きなアニメは何ですか?
A:非常にインパクトを受けた、触発された、目を見開かされたのは『アルプスの少女ハイジ』。ぼくが『宇宙戦艦ヤマト』をやってるころで、自分の子どもが2歳くらいの時。子どもにも「『ヤマト』は見なくて良い、『ハイジ』を見るんだ」と言ってました。また悪いことに(『ハイジ』は『ヤマト』の)裏番組だったんですよね。元手はかかってるんでしょうけども「TVアニメでここまでできるんだ」ということを教えていただきました。その後の『母をたずねて三千里』もそうですし、この2本にアニメの奥深さを教えられましたね。今回の映画祭は80年代のアニメがテーマですけども、70年代も名作があるんですよ。『ガンバの冒険』とかね。いつか、この映画祭で70年代の名作特集があっても良いかなぁ、なんて思います。
Q:『めぐりあい宇宙』の直したところで、お気に入りのシーンはありますか?
A:(入院していた時にTVシリーズを見て)「これは直さなきゃ!」と思っていたのは、アムロがコア・ファイターからこぼれ落ちて、みんなのところへ戻るシーン。TVだと「止めフォロー」(※2)なんですよ。宇宙空間に転げ落ちたものが、止まるわけないですから、回転させなきゃダメ。映画だからとやったのではなく、TVシリーズの時でも、ぼくがやっていたら回転させていたと思います。
※2「止めフォロー」とは、1枚だけ作画し、背景を引くことで移動しているように見せる手法。作画された部分は止まっている。
Q:『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』のように、過去作のリメイクをお願いできますでしょうか?自分は「時間よ、とまれ」を希望します。
A:残念ながらそれは無いと思います(笑)。申し訳ない。会社が決めることなので、諸般の事情でどうなるかわかりませんけども、無いんじゃないかな(笑)。『ククルス・ドアン』は本当に心残りで、社長に直訴してやらせてもらったので。それほど引っかかっているエピソードは他に無いので、想いは遂げたかな、と思います。
Q:『めぐりあい宇宙』をさらに修正したい点や、漫画「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」のように自分のストーリーで作り直したい気持ちはありますか?
A:「THE ORIGIN」は、『機動戦士ガンダム』の全体に舌足らずな部分や整合性のとれていないところが気になったので描き直したんです。ラストパートに関しては、特にどうこうということはありません。相対的に『機動戦士ガンダム』のラストは、ぼくは非常に気に入っています。これ以上ない終わり方だと思います。ただ、そこに至る過程に若干問題を感じていたということです。「THE ORIGIN」のラストシーンも、構想も含めて『機動戦士ガンダム』のまんまです。手間暇かけてオールカラーで描いてます。ここは触れちゃいけない、と思ったので、あえてそのまんまやってます。それくらい『機動戦士ガンダム』のラストは最高だと思っています。
最後に安彦さん、氷川さんから挨拶があり、白熱したトークイベントは幕を下ろした。
安彦さん「ぼくも期待しているんですが、今回上映された作品以外にも素晴らしいものが80年代にもまだたくさんある、さらに70年代にもある、90年代以降にも、おそらくこの20年にも、いろいろなウェーブがあったのだろう。そういう豊かな過去を振り返って、今アニメ業界もいろんな問題を抱えているようですから、それを克服していく糧にしてもらいたい、エネルギーのもとにしていただきたいと思います。応援よろしくお願いします。ありがとうございました」
氷川さん「今回上映された作品はいずれも、アニメファンの自分としても大好きですし、研究者としても『なぜ日本のアニメは今の姿になったのか』ということが、1作1作如実に刻まれています。今回のインタビューを通して、それぞれがすごく関連があるんだよ、ということを織り込んだつもりです。これをきっかけにアニメの歴史……歴史そのものというよりは『なんで今こうなっているのか』ということにある種疑いを持ちながら、『誰かがどこかで大きく変えたんだ』ということを知ることで、若い人たちは『これからを変えられるんだ』という学びを糧にしていただければと思います。ありがとうございました」
安彦さん「ぼくも期待しているんですが、今回上映された作品以外にも素晴らしいものが80年代にもまだたくさんある、さらに70年代にもある、90年代以降にも、おそらくこの20年にも、いろいろなウェーブがあったのだろう。そういう豊かな過去を振り返って、今アニメ業界もいろんな問題を抱えているようですから、それを克服していく糧にしてもらいたい、エネルギーのもとにしていただきたいと思います。応援よろしくお願いします。ありがとうございました」
氷川さん「今回上映された作品はいずれも、アニメファンの自分としても大好きですし、研究者としても『なぜ日本のアニメは今の姿になったのか』ということが、1作1作如実に刻まれています。今回のインタビューを通して、それぞれがすごく関連があるんだよ、ということを織り込んだつもりです。これをきっかけにアニメの歴史……歴史そのものというよりは『なんで今こうなっているのか』ということにある種疑いを持ちながら、『誰かがどこかで大きく変えたんだ』ということを知ることで、若い人たちは『これからを変えられるんだ』という学びを糧にしていただければと思います。ありがとうございました」
(ガンダムインフォ編集部)
「どまんなかアニメ映画祭」CLOSINGセレモニートークイベント
開催日:2024年5月19日(日)
会場:ミッドランドスクエア シネマ(名古屋市中村区名駅四丁目7番1号 ミッドランドスクエア商業棟5階)
開催日:2024年5月19日(日)
会場:ミッドランドスクエア シネマ(名古屋市中村区名駅四丁目7番1号 ミッドランドスクエア商業棟5階)
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