【インタビュー参加者】
・向笠友哉氏(バンダイナムコフィルムワークス):プロダクションコーディネーター
・高見澤司氏(バンダイナムコフィルムワークス):CGアニメーター
・山本直輝氏(バンダイナムコフィルムワークス):CGアニメーションディレクター
・平野潤也氏(バンダイナムコフィルムワークス):CGアニメーター
・菊地康仁氏(エイトビット):原画
『銀灰の幻影』ではVR空間の中で3Dの背景と作画のキャラクターが違和感なく馴染んでおり、体験した筆者は驚愕した。本作における作画の使用は、2022年秋に鈴木(健一)監督や井上(喜一郎)プロデューサーから提案された。「フィクジィや子ども時代のバビアは登場シーンが限定されているので、作画で表現すれば、3Dモデルの制作数が減って負荷を抑えられると考えたのです。実際にやってみると、VR空間の中で2Dの画を馴染ませるのは想像以上に難しく、作画さんや、撮影さん、美術さんに大変な作業をご依頼することになりました。ただ、誰もやったことがない表現に挑み、完成まで漕ぎ着けた経験は皆の自信につながったし、ユーザーに斬新な体験をお届けできたと思います」と山本氏は語った。
アイデア出しの段階では、VR空間の中に映画館のような平面のスクリーンを表示し、そこで作画アニメを上映するという案がAtlas Ⅴから出されたが、「それではチャレンジがなさすぎる」という理由でBNF(バンダイナムコフィルムワークス)側が却下した。「最初は全員が手探り状態だったので、撮影工程でセルやBOOKを重ねるように、VR空間内で作画や背景の画を重ねて、飛び出す絵本みたいな見せ方ができないかと探りました。でもMeta Questで確認すると、“これは板を重ねているだけだな”と即座にわかってしまったのです。よってユーザーの周囲を球体で取り囲み、そこに360度ムービーを貼り付ける表現にしました」と平野氏はふり返った。この手法であれば、立体感はやや失われるものの、作画と背景を上手く馴染ませることができたという。「フル3Dでつくられた6DoFのVR空間の場合は、ユーザーはキャラクターに近付いたり、移動したりできます。でも360度ムービーの場合は、ユーザーがキャラクターに近づきすぎると“これは球面だな”とわかってしまいます。だから球体のサイズをものすごく大きくして、ユーザーが近付けないようにしました。360度を見渡すことはできますが、あえて移動はできないようにしています」と高見澤氏は解説してくれた。
作画素材の制作は、プリビズ → Unityへインテグレート → Meta Questで確認 → 3Dレイアウト→ ラフ原画 → 撮影 → Unityへインテグレート →Meta Questで確認 → 原画 → 動画・仕上げ → 本撮の順番で行われ、作画はエイトビットが担当した。
「Meta Questで確認しないとVR空間内での見え方がわからないので、ラフ原画が終わった段階で鈴木監督や作画さんにチェックしていただき、画の歪みを修正してもらうことを徹底しました。本作では、この修正に時間を要しました」と向笠氏は語った。撮影とUnityへのインテグレートはBNFが担っていたので、作画スタッフは確認の度にBNFへ出向き、徐々に自身の感覚を補正していった。「Meta Questで確認すると極端なパースがついて見えるので、40数年かけて培った自分の目や、目の前の紙を信じられなくなることが一番大変でした」と原画を担当した菊地氏は語った。
[プリビズ]フィクジィ・フィクス&14歳のバビア・レナのカット
A:絵コンテを基に、3ds MaxとPencil+4で制作したプリビズ。フィクジィはガイドモデル、バビアは25歳のモデルを使用。バビアの方は作画段階で14歳に描き替えた。このシーンでは、2人はザクのコックピット内にいる
B:画角90度のカメラで、プリビズの6方向(前後・左右・上下)をレンダリングした画像
C:After Effects(以下、AE)のVRコンバーターを使うと、Bを360度画像に変換できる
D:作画スタッフが描きやすいように、キャラクターモデルのガイドラインを出力した状態。キャラクターが握るザクの操縦桿も作画で表現しているため、同様にガイドラインを出力した
[3Dレイアウト・作画]フィクジィ・フィクス&14歳のバビア・レナのカット
A/B:キャラクターの上半身と下半身を異なるパースに変換し、3Dレイアウトを分けるカットもあった。画の中の青枠は作画用のフレームを表している。VRコンバーターでこれらの画を出力する際には、AE上のカメラが向いている方向を中心にしてパースを変換する機能が使われた
C/D:3Dレイアウトと、E~G:それを基に描かれた原画の一部。C/Dには、各キャラクターや、天井、壁などのパースを示す多数のグリッドも表示されている。これらは「グリッドがあれば、パースを合わせやすくなる」という作画スタッフの意見を受けて追加した
H:完成映像。仕上げ後の本撮工程で再度VRコンバーターを適用し、パースを元の状態に戻している。「360度画像だと画の上下に極端なパースがついて描きづらいので、3Dレイアウト段階でカットを上下に分けていただき、撮影時に上手く合成してもらう場合もありました。分けられないカットでは腕や脚が大きくなったりして、そのままだと変に見える場合もありましたね。Meta Questでの確認時に、肩や肘などの関節にポイントを打って作画修正のアタリにしたかったのですが、それは難しいと言われたので、MetaQuest上のほしい地点にポイントが来たら、別のモニタに映している画面をキャプチャしてもらったりして、なんとかヒントを残せないかと苦心しました(笑)。室内ならまだしも、宇宙空間になると目印になるものがないので、より大変でした」(菊地氏)
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判型:A4ワイド
総ページ数:112
■特集:ガンダムCGの変遷と最前線 ・表紙
・[特集扉](2ページ)
・[PART 01:ガンダムCGの変遷](8ページ)
紹介作品:
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988)
『GUNDAM Mission to the Rise』(1998)
『GUNDAM THE RIDE ‐宇宙要塞A BAOA QU‐』(2000)
『GUNDAM EVOLVE』(2001~2007)
『SDガンダムフォース』(2004)
『機動戦士ガンダム MS IGLOO 1年戦争秘録』(2004)
『機動戦士ガンダム MS IGLOO 黙示録0079』(2006)
『機動戦士ガンダム MS IGLOO2 重力戦線』(2008〜2009)
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(2015〜2018)
VR映像『機動戦士ガンダム THE ORIGIN シャア出撃』(2017)
VR映像『機動戦士ガンダム THE ORIGIN -RISING-』(2018)
『SDガンダムワールド 三国創傑伝』(2019〜2021)
『SDガンダムワールド ヒーローズ』(2021)
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(2021)
『RX-93ff νGUNDAM from SIDE-F』(2022)
『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』(2002)
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(2022〜2023)
『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』(2024)
・[PART 02:VR映画『機動戦士ガンダム:銀灰の幻影』](22ページ)
TOPIC 1:ワークフロー
TOPIC 2:モデリング
TOPIC 3:作画
TOPIC 4:アニメーション
TOPIC 5:インタラクション・エフェクト
TOPIC 6:MRコンテンツ
・[PART 03:3Dアニメーション『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』](20ページ)
TOPIC 1:モデリング[モビルスーツ]
TOPIC 2:モデリング[キャラクター]
TOPIC 3:シネマティック
TOPIC 4:アニメーション
TOPIC 5:エフェクト