新作MGフォースインパルスガンダムの発売を記念した、『ガンダムSEED DESTINY』チーフメカ作画監督である重田氏とバンダイホビー事業部の開発担当である野口勉氏の特別対談。その後編をお届けする。
「MG 1/100 ZGMF-X56S/α フォースインパルスガンダム」対談
開発協力・重田 智×バンダイ ホビー事業部開発担当・野口 勉【前編】はこちら。
――インパルスでの課題のひとつに、機体表面のディテールがあったとお聞きしました。
重田 インパルスの前につくったデスティニーのテストショットが上がってきて実物を見たとき、けっこうイカすな(笑)と思っていたんです。けれどホビー誌や インターネットに掲載された写真を見たら、どうもさびしい感じがして。18mというロボットをリアルに考えれば、1/100だと細かいディテールはほとんど見えないはずなんですが、本物っぽいプラモデルを見ているという感覚を起こすには、必要な分量というのがあるんだろうなって気づきました。
また、ある程度ディテールがないと白い機体なので、写真で面の抑揚などが潰れてのっぺりとしてしまって見劣りするんですね。
――実物の方が見栄えがする、という事ですね。
重田 今回のインパルスではそこに一番気をつかいましたね。結果として、キャラクター性もメカニカルな部分もうまく調和されていて、大成功だったと思います。
――野口さんとしてはディテールに関してどうですか?
野口 脚部のフィンなどは、内部メカの一部として露出することでMGらしさを表現する作りにしています。また、表面のディテールもポイント的に多く入れています。想定として、表面の凹ディテールは作る方の好みで濃淡を加減できると思っていたので、素組でも見栄えがする程度に調整しています。
――そのほか形状で意図的に変更されたのは、どのようなところですか。
野口 多々ありますが、特徴的なところとしては肩部アーマーの内側に組入れたバーニアです。チェストフライヤーに変形することを踏まえ、新しい解釈を取り入れています。
また、身体的な躍動感を表現する為に、非対称の形状を随所に取り入れています。このあたりは重田さんの意向です。わかりやすいのは足裏の形状ですね。
重田 「身体的なプロポーション」はもっとも心掛けている部分です。SEEDシリーズのMSは兵器ではあるのですが、ある意味搭乗しているキャラクターの分身としても機能していると考えています。視聴者にもそのイメージは強くあるようなので、ヒロイックなシルエットにすることが可能でした。例えば人間の足裏をイメージすると、決して内側と外側で形状は対称ではないんです。ベタ足の印象にならないように踵もハイヒールのように高くしてもらいました。これだけでポーズなど動きをつけた際の躍動感が見違えるようによくなるんですよ。そのほか、なるべく面や線の構成が単調にならず、抑揚のある存在感の感じられる立体にして欲しいと、気をつけて貰いました。
――形状以外に気を使ったところはどのような所でしょうか?
重田 形状以外で一番気を使ったのは、インパルスの写真映えです。購買層のほとんどの方たちは、ホビー誌やインターネットを通じて始めて実物の写真を見ることになりますが、そこで見た写真一つでその評価がほとんど決まってしまい、評価は瞬く間に世間一般の認知として広がりますよね。ですので、初出の写真は厳選したものを載せて貰えるようにとお願いしました。
――では、逆にMG インパルスで“苦労した”点はどんなところでしょう?
野口 苦労した点といえば、やはり分離合体の部位ですね。
「MG ガンダム ver.O.Y.W.」では、コア・ファイターのギミックをオミットすることで、可動やポージングを重視した商品仕様にしましたが、初MG化の「インパルス」では重要な要素なので、両立させるのに苦労しましたね。
本来であれば、MSの中に入るコアスプレンダーブロックを作ってから、理想とする飛行形態に落とし込むのが正当な進め方になるのですが、今回はあえて理想のコアスプレンダー(飛行形態)を作ってから、ギミックで格納できるブロックにしています。そう進めないと、理想のコアスプレンダー(飛行形態)にならないと思ったんです。
――それで、ちゃんと合体時にハマったんですか?
野口 はじめはまったく入らなかったのですが、設計担当の努力の賜物です。主翼は軸をU字にすることで、2段階の変形で格納できるサイズにしています。
――重田さんの方からこのコアスプレンダーの件では、何かアドバイスはあったのですか?
重田 そのへんの苦労は僕はいっさい知らなかったです……(笑)。ガンダムのプラモデルなのですから、作って楽しんだあと飾っておしまいというよりは、その後でいろんなポーズをつけてみたり見え方、飾り方を工夫したりして、いろいろな遊び方をして欲しいですよね。そのために面の抑揚やラインの角度、組み合わせ方などをいろいろ試してみたつもりです。触ってみたら「ああこんな風になってたんだ」っていう面白さがないと、いけないんじゃないかと。作ったあとにまだまだ新発見があるくらいのほうが、プラモデルも作りがいもあると思いますので。
――余談になりますが、7月末に発売される予定の「MG RX-78-2 ガンダム ver.2.0」にもコア・ファイター収納のギミックがあります。今回のインパルスの開発データが反映されているのでしょうか?
野口 直接的な反映はないですね。プラモデルの開発担当者も異なりますが、「1年戦争系」と「SEED系」では、その世界観もMSの開発系譜も異なります。同じMGというカテゴリーであっても、作品の特徴で商品自体の再現方法も変化します。
ほぼ同時期で開発が進行していましたが、「MG RX-78-2 ガンダム ver.2.0」の担当者と質問の件で話をしたことはないですね。
今、質問を受けて「コア・ファイターに気がついた」というレベルです。(笑)
――今回、採用されなかった試作アイデアはあるのですか?
重田 オミットされた機構のほうがはるかに多いですよね。
野口 今回採用してないものは多々ありますけど、基本的にはあらかじめ順位付けをして、開発初期段階で「取り入れる要素」と「取り入れない要素」を吟味しています。当初には、チェストフライヤーは変形時にΖガンダムみたいに頭を収納しようという考えもありましたがオミットしました。
決して妥協して捨てるというわけではなくて、本当に必要かどうかを判断しての結果です。一味違うインパルスとはいえ、あまりかけ離れ過ぎないようにもしました。
重田 チェストフライヤーとレッグフライヤーにブースターをつけないかっていう案もありました。あと、ポーズをとったときに奥行きができるようにしたいので、つま先がパース変化として小さくなっている別の足を入れてくださいと頼んだら、「それはダメです」と断られましたね(笑)。
野口 それだとフィギュアっぽくなってしまいますから(笑)。MGのコンセプトからも外れてしまいます。設定的なリアリティを追いつつも、作画イメージを再現するというバランスをとらなければいけないのが難しいところです。
――完成したフォースインパルスをご覧になって、どうですか。
重田 リアルなものとして縛られず、ロボットアニメとしての素材だったらこれぐらい遊べればいいなぁと考えますね。MGとして実際どこまで機構や要素を入れたらお客さんはそれを納得してくれて、どこまでだと白けちゃうのかが微妙なラインなんですが。
野口 そういった要素は、放映後だからこそ、細かい設定を深く追いながら商品の中に取り入れられますね。劇中で効果的に描かれた作画演出を立体的にするにあたって、辻褄を合わせるギミックを作り込んでいくのも、MGの宿命といえるかもしれません。
――最後に今後の展開を可能な範囲で教えてください。
野口 何かはまだ言えませんが、すでに次の製作に取り掛かっています。今までもそれぞれのMSの特徴が出せるようなギミックを仕込んでいますが、今回は「バックパックのギミック」と「蹴りの再現性」ですね。
重田 個人的な希望として、いつかはMGでザクウォーリアか、グフ、ドムなんかの開発に関わりたいと思っています。シャープなだけではなくボリューム感のあるMSにも挑戦したいですね。それが可能になるまでは、頑張りますよ。
(5月下旬、サンライズ本社にて)
「MG 1/100 ZGMF-X56S/α フォースインパルスガンダム」対談
開発協力・重田 智×バンダイ ホビー事業部開発担当・野口 勉【前編】はこちら。
キャラクター性とメカニカルなディテールの両立
――インパルスでの課題のひとつに、機体表面のディテールがあったとお聞きしました。
重田 インパルスの前につくったデスティニーのテストショットが上がってきて実物を見たとき、けっこうイカすな(笑)と思っていたんです。けれどホビー誌や インターネットに掲載された写真を見たら、どうもさびしい感じがして。18mというロボットをリアルに考えれば、1/100だと細かいディテールはほとんど見えないはずなんですが、本物っぽいプラモデルを見ているという感覚を起こすには、必要な分量というのがあるんだろうなって気づきました。
また、ある程度ディテールがないと白い機体なので、写真で面の抑揚などが潰れてのっぺりとしてしまって見劣りするんですね。
――実物の方が見栄えがする、という事ですね。
重田 今回のインパルスではそこに一番気をつかいましたね。結果として、キャラクター性もメカニカルな部分もうまく調和されていて、大成功だったと思います。
――野口さんとしてはディテールに関してどうですか?
野口 脚部のフィンなどは、内部メカの一部として露出することでMGらしさを表現する作りにしています。また、表面のディテールもポイント的に多く入れています。想定として、表面の凹ディテールは作る方の好みで濃淡を加減できると思っていたので、素組でも見栄えがする程度に調整しています。
▲間近で見るとよくわかる、素組みで格好良く、見栄えのする様なディテールの数々!
――そのほか形状で意図的に変更されたのは、どのようなところですか。
野口 多々ありますが、特徴的なところとしては肩部アーマーの内側に組入れたバーニアです。チェストフライヤーに変形することを踏まえ、新しい解釈を取り入れています。
また、身体的な躍動感を表現する為に、非対称の形状を随所に取り入れています。このあたりは重田さんの意向です。わかりやすいのは足裏の形状ですね。
重田 「身体的なプロポーション」はもっとも心掛けている部分です。SEEDシリーズのMSは兵器ではあるのですが、ある意味搭乗しているキャラクターの分身としても機能していると考えています。視聴者にもそのイメージは強くあるようなので、ヒロイックなシルエットにすることが可能でした。例えば人間の足裏をイメージすると、決して内側と外側で形状は対称ではないんです。ベタ足の印象にならないように踵もハイヒールのように高くしてもらいました。これだけでポーズなど動きをつけた際の躍動感が見違えるようによくなるんですよ。そのほか、なるべく面や線の構成が単調にならず、抑揚のある存在感の感じられる立体にして欲しいと、気をつけて貰いました。
▲シルエットは身体的に、細部の形状はメカニカルに仕上がっている。
▲そのほかの一例。フォースシルエットの垂直翼、水平翼の角度を若干調整できるようになっている。こちらも重田氏の作画演出から得たアイディアだ。
――形状以外に気を使ったところはどのような所でしょうか?
重田 形状以外で一番気を使ったのは、インパルスの写真映えです。購買層のほとんどの方たちは、ホビー誌やインターネットを通じて始めて実物の写真を見ることになりますが、そこで見た写真一つでその評価がほとんど決まってしまい、評価は瞬く間に世間一般の認知として広がりますよね。ですので、初出の写真は厳選したものを載せて貰えるようにとお願いしました。
▲MG インパルスの良さを最大限に見せる工夫がされている。
――では、逆にMG インパルスで“苦労した”点はどんなところでしょう?
野口 苦労した点といえば、やはり分離合体の部位ですね。
「MG ガンダム ver.O.Y.W.」では、コア・ファイターのギミックをオミットすることで、可動やポージングを重視した商品仕様にしましたが、初MG化の「インパルス」では重要な要素なので、両立させるのに苦労しましたね。
本来であれば、MSの中に入るコアスプレンダーブロックを作ってから、理想とする飛行形態に落とし込むのが正当な進め方になるのですが、今回はあえて理想のコアスプレンダー(飛行形態)を作ってから、ギミックで格納できるブロックにしています。そう進めないと、理想のコアスプレンダー(飛行形態)にならないと思ったんです。
――それで、ちゃんと合体時にハマったんですか?
野口 はじめはまったく入らなかったのですが、設計担当の努力の賜物です。主翼は軸をU字にすることで、2段階の変形で格納できるサイズにしています。
――重田さんの方からこのコアスプレンダーの件では、何かアドバイスはあったのですか?
重田 そのへんの苦労は僕はいっさい知らなかったです……(笑)。ガンダムのプラモデルなのですから、作って楽しんだあと飾っておしまいというよりは、その後でいろんなポーズをつけてみたり見え方、飾り方を工夫したりして、いろいろな遊び方をして欲しいですよね。そのために面の抑揚やラインの角度、組み合わせ方などをいろいろ試してみたつもりです。触ってみたら「ああこんな風になってたんだ」っていう面白さがないと、いけないんじゃないかと。作ったあとにまだまだ新発見があるくらいのほうが、プラモデルも作りがいもあると思いますので。
――余談になりますが、7月末に発売される予定の「MG RX-78-2 ガンダム ver.2.0」にもコア・ファイター収納のギミックがあります。今回のインパルスの開発データが反映されているのでしょうか?
野口 直接的な反映はないですね。プラモデルの開発担当者も異なりますが、「1年戦争系」と「SEED系」では、その世界観もMSの開発系譜も異なります。同じMGというカテゴリーであっても、作品の特徴で商品自体の再現方法も変化します。
ほぼ同時期で開発が進行していましたが、「MG RX-78-2 ガンダム ver.2.0」の担当者と質問の件で話をしたことはないですね。
今、質問を受けて「コア・ファイターに気がついた」というレベルです。(笑)
設定的なリアリティと作画イメージ再現のバランス
――今回、採用されなかった試作アイデアはあるのですか?
重田 オミットされた機構のほうがはるかに多いですよね。
野口 今回採用してないものは多々ありますけど、基本的にはあらかじめ順位付けをして、開発初期段階で「取り入れる要素」と「取り入れない要素」を吟味しています。当初には、チェストフライヤーは変形時にΖガンダムみたいに頭を収納しようという考えもありましたがオミットしました。
決して妥協して捨てるというわけではなくて、本当に必要かどうかを判断しての結果です。一味違うインパルスとはいえ、あまりかけ離れ過ぎないようにもしました。
重田 チェストフライヤーとレッグフライヤーにブースターをつけないかっていう案もありました。あと、ポーズをとったときに奥行きができるようにしたいので、つま先がパース変化として小さくなっている別の足を入れてくださいと頼んだら、「それはダメです」と断られましたね(笑)。
野口 それだとフィギュアっぽくなってしまいますから(笑)。MGのコンセプトからも外れてしまいます。設定的なリアリティを追いつつも、作画イメージを再現するというバランスをとらなければいけないのが難しいところです。
▲腰のリヤアーマーから機首とウイングが出るという案もあった。実際の製品にはその名残として安定翼が採用されてい る。
▲コアスプレンダー+フォースシルエット合体案。バインダーを外してエクスカリバーをつけられるという、オマケ要素も考えられていた。
――完成したフォースインパルスをご覧になって、どうですか。
重田 リアルなものとして縛られず、ロボットアニメとしての素材だったらこれぐらい遊べればいいなぁと考えますね。MGとして実際どこまで機構や要素を入れたらお客さんはそれを納得してくれて、どこまでだと白けちゃうのかが微妙なラインなんですが。
野口 そういった要素は、放映後だからこそ、細かい設定を深く追いながら商品の中に取り入れられますね。劇中で効果的に描かれた作画演出を立体的にするにあたって、辻褄を合わせるギミックを作り込んでいくのも、MGの宿命といえるかもしれません。
――最後に今後の展開を可能な範囲で教えてください。
野口 何かはまだ言えませんが、すでに次の製作に取り掛かっています。今までもそれぞれのMSの特徴が出せるようなギミックを仕込んでいますが、今回は「バックパックのギミック」と「蹴りの再現性」ですね。
重田 個人的な希望として、いつかはMGでザクウォーリアか、グフ、ドムなんかの開発に関わりたいと思っています。シャープなだけではなくボリューム感のあるMSにも挑戦したいですね。それが可能になるまでは、頑張りますよ。
(5月下旬、サンライズ本社にて)
重田 智(しげた さとし) アニメーター。メカ系のアニメに数多く参加している。ダイナミックで迫力のある構図が特徴的。 主 な代表作は『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』ビデオシリーズ(メカニカル作画監督)、『GEAR戦士 電童』(総メカ作画監督)、『機動戦士ガンダム SEED』『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(チーフメカ作画監督)など。今回MGインパルス用に制作されたスペシャルPV『PHASE-IMPULSE』の演出も手掛ける。 |
野口 勉(のぐち つとむ) バンダイホビー事業部企画開発担当。MGの開発は今回で4作品目となる。 主な担当商品は、「MGガンダム Ver.O.Y.W.」「1/350 宇宙戦艦ヤマト」「ゼーガペイン」「エウレカセブン」「R3」「ケロロ軍曹」など、数多くの商品開発を手がけている。 |
ガンダムインフォ編集部
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