3月8日(土)、梨が名産の東京都稲城市にて、同市在住のメカデザイナー・大河原邦男さんをホストに迎えた「メカデザイナーズサミット」の第2回が開催された。
今回はメカデザイナーの寺岡賢司さん、石垣純哉さん、海老川兼武さん、そしてバンダイ ホビー事業部の川口名人こと川口克己さん、馬場俊明さんがステージへ。
世代も異なる寺岡さん、石垣さん、海老川さん、大河原さん。4人はメカデザイナーという職業に就くことになったきっかけもそれぞれ違っていた。
大河原: | 僕がメカデザイナーになったのは、たまたまタツノコプロ(旧称:龍の子プロダクション)に入社したからなんです。結婚するときにまだ無職で、仲人さんに『無職』と言わせてしまうのが心苦しかったものですから(笑)。 新聞にタツノコプロの求人が出ていたので、応募して入社したんです。そのときに『科学忍者隊ガッチャマン』(1972年)の企画がありまして、美術監督の中村光毅さんから『メカデザインをやってみないか』と言われて始めたんです。 |
海老川: | 子供のころから大河原さんの仕事をTVやアニメ雑誌で見ていたので、自分もやってみたい!と思っていたんです。 昔からガンダムの絵を描くときも、既存のメカを描くんじゃなくて、ドムにキャノン砲を付けるとか、ちょっとひとアレンジを加えるという絵を描いているうちにメカデザインをやってみたいという思いが固まってきて。一時期はゲーム業界をめざしていたこともあったんですけど、アニメスタジオのゴンゾさんと縁がありまして、そこからアニメの仕事が徐々に増えていった感じですね。 |
石垣: | なにがしかの絵の仕事がしたいなぁ、というのが大前提にあって。僕もノートに“俺MS”“俺メカ”をよく描いていて、浪人が決まった時点で自分の実力がどんなものなのか知りたくなって、用紙に落書きめいたものを描いてまとめてサンライズに送ったんです。そうしたら返事が来て舞い上がっちゃって。一年くらい送りつづけていたら、『一度、東京に遊びにこない?』という連絡があったのを勘違いして、上京しなきゃと(笑)。 その後、専門学校の工業デザイン科に通いながらサンライズにも週一で行っているうちに、TV『勇者エクスカイザー』(1990年)に関わったことで、メカデザイナーとしてデビューすることになったんです。 |
寺岡: | アニメ技術研究所というタツノコプロの養成所があるんですが、そこでアニメーターとしてこの業界に入りまして。僕が在籍していた当時、原画・動画を描くときに小物の設定までは用意されてなかったんですよ。そうすると画面内に置く小物は自分の裁量に任されることになるんです。特に車関係が多くて、そうしてアニメーターをやっていくうちに、メカデザインという部門があるなら、自分もそっちをめざそうかなと思いはじめて。 そのころにTV『銀河戦国群雄伝ライ』(1994年)というアニメで、本来メカデザインをやるはずだった方が降りられて、急きょ僕が担当することになったんです。それからはそのまま居座りつづけてます(笑)。 |
登壇した6人は、現在絶賛放映中のTVアニメ「ガンダムビルドファイターズ」にスタッフとして参加している。川口名人は物語の中で語られる「メイジン・カワグチ」のモデルになっていて、「ビルドファイターズTV」などにも出演。馬場さんは、作品に登場させ商品としても開発していきたいガンプラをスタッフに提案していくのが役目。
馬場: | 監督や脚本家、スタッフの皆さんと協議して決まった後も、今回参加されているメカデザイナーさんとモノづくりの面でのやりとりを重ねていきます。たとえば実際にプラモデルに落とし込む際のパーツの構成や強度的な問題などを調整していくといったところですね。アニメ制作の現場と、プラモデルを開発して販売していく現場の間に入っていくのが自分の仕事だと思っています。 |
「ビルドファイターズ」では完全オリジナルのMSは登場しない。メカデザインでは既存作品に出てくるMSをオーダーに合わせてアレンジしていくのがメインになってくる。
▲寺岡さんがデザインを担当する、ザクアメイジングとキュベレイパピヨン、ジムスナイパーK9。
寺岡: | ザクアメイジングが一体目で、バックパックをデザインするのがメインだったんですがけっこう商品開発上の約束事が多くて大変でした。パピヨンは顔が決まらなかったんです。個人的には永野護さんの描いたキュベレイの顔がすてきだったんですが、顔や肩のあたりが変わっていないと商品的に変わった感じがしないんですね。画面上でもバストアップが多いので印象を変えるために、あのデザインになりました。 K9の背中に犬(K9ドッグパック)を付けるというアイデアは馬場さんからです。最初は本当にドーベルマンみたいなのをオーダーされたんですが(笑)、4足戦車みたいな感じに落ち着きました。 |
▲石垣さんはガンダムX魔王とケンプファーアメイジング、ミスサザビーを担当。
石垣: | 魔王は“ガンダムXのプラモデルでCランナーのパーツを変更する”という制約があったんです。それでCランナーを変えることでほかのランナーで余るパーツが出ないように、デザイン時に工夫しています。バックパックも当初はX字に開かない予定だったんですが、やっぱり開くことになって、そういった微調整が大変でしたね。 ケンプファーは最初はチョバムアーマーを付けるアイデアもあったんですが『ケンプファーのイメージは崩さないでほしい』という馬場さんからの要望もあって、全体的になじむようなデザインにしています。一見オリジナルと変わってなさそうで、でも肩のパーツは左右対称になっていて脚の装甲もよく見るとぜんぜん違ってます。 |
▲海老川さんはウイングガンダムフェニーチェ、ベアッガイIII、ガンダムエクシアダークマターを担当。
海老川: | 『ガンプラビルダーズ』に登場していたベアッガイをデザインしていたので、今回はちょっとだけ形を変えて、色替えくらいに留めようかと思っていたんですが、どうせなら思い切り変えようということになって。ガンプラをまったく知らない女の子(チナ)がつくるから、モノアイなんかもこだわらないだろうなと。 フェニーチェは『ちょいワル系のウイングガンダムでお願いします』(笑)とアバウトなオーダーがあって、最初は胸にバラや、背中にコウモリの羽根を付けてました。フェリーニのキャラクターが固まるにつれて、片翼の天使みたいな羽根にオッドアイといった、キザというか〈中二病〉的な要素を全部ねじ込んだデザインになりました(笑)。 |
▲大河原さんはビルドストライクガンダム、スタービルドストライクガンダムといったメインどころを担当。
大河原: | ガンプラを題材にしたお話なので、新しめの作品で人気の高い機体ということでストライクガンダムをちょっと変えて、武器も新しくすることで今回の主役メカ、ビルドストライクガンダムに仕上げたんですね。変えられる部分というのは馬場さんから指定されてまして、これはもう馬場さんの言うとおりにデザインしてます(笑)。 スタービルドストライクガンダムは、ちょうど『ガンダムSEED』HDリマスター版のデザイン作業と時期が被ったので、差別化するためにバックパックを着込むという形でパワーアップを考えたんですね。ただ背中に付けるだけでなくて、シルエットが変わるようなギミックを入れています。 |
こういった商品化を前提としてデザインされるMSもあれば、〈自由枠〉というくくりでメカデザイナーが好きなMSを選んでデザインできる機体もあった。寺岡さんならバクゥタンク、石垣さんならアビゴルバイン、海老川さんならヘルジオングがそうだ。大河原さんの場合は「改造される側だった(笑)」とか。ほかにも会場では言えない、これからクライマックスに向けて登場するMSがあるらしく、放映が楽しみだ。
▲左よりバクゥタンク、アビゴルバイン、ヘルジオング マリーン。
「ビルドファイターズ」以外でも、これまでそれぞれが手がけたメカデザインについても語られ、川口名人が「機動武闘伝Gガンダム」の商品開発のために大河原さん宅を訪れていたころの話などトークは多岐にわたっていた。会場のファンからの質問に答えるコーナーでは「どうすればメカデザイナーになれますか?」という質問に、「資格が必要なわけではないので、メカデザイナーの肩書きを入れた名刺をつくれば明日からなれます(笑)」(石垣)と冗談を交えつつ、真摯に答えていた。
大河原: | 一体だけメカをデザインするのは比較的簡単なんですが、これを職業として定年のいわゆる60歳まで継続していくのは難しい。日々精進しないといけないし、周りの影響を受けすぎて模倣になってしまってもいけない。若い人たちも出てくるから、いつも戦いなんです。 目につくモノは何でも頭の隅に記憶しておいて、それを組み合わせてデザインに反映していく。何でもいいから頭に詰め込んでいくのが、まず若いうちは大事だと思うのと、デッサン力も大切ですね。仕事に就いたら来た仕事は必ず受ける。スケジュールを守りつつこなす。そこで勉強すべきことも生まれる。私がこれまで仕事ができてきたのは、これを実践してきたからで、これからどれだけできるかわかりませんが、いつかいっしょにやりましょう。 |
寺岡さん、石垣さん、海老川さんをはじめ会場にいるファンすべてが大河原メカを見て育ち、大いに影響を受けてきた。大河原さんの真摯な仕事ぶりが、メカデザイナーという職業の幅を広げ、多くの人材を生み出す原動力になっているようだ。
質問コーナーも終始和やかに進み、最後は抽選プレゼント大会も催されてサミットは盛況のうちに幕を閉じた。
そのほか会場では、稲城市商工会認証ブランド「稲城の太鼓判」認証商品や大河原邦男氏デザインの稲城市イメージキャラクター「稲城なしのすけ」グッズの販売に加え、稲城市の工業製品の展示が行われていた。
さらに、トークショーにさきがけて行われた「大河原杯メカバトルトーナメント」では、ガンダムシリーズやタイムボカンシリーズをはじめとしたアニメーションに登場するメカを模した数々のロボットが集結し、白熱の戦いを繰り広げた。
▲もちろん稲城なしのすけも登場!なしのすけのグッズも多数販売されていたぞ。
▲稲城市の工業製品も多数展示!
▲大河原メカバトルトーナメントでは個性豊かなロボットが勢ぞろい!
▲機体の特性を活かし、ボールが自分より大きなガンダムに勝利するなど手に汗握る戦いに大盛り上がり!
(ガンダムインフォ編集部)
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