2007年12月13日 (木)
『機動戦士Ζガンダム』編
1979年、児童向け出版物における『機動戦士ガンダム』のポジションは、決して突出していたものではありません。あくまで、当時放送していたTVキャラクターの一作品として扱われていました。しかし、劇場映画の公開以降は、絵本でさえも映像作品に準拠した記述が行われていくようになります。
そして劇場映画三部作のラスト・シューティング『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』の公開から3年後、TVシリーズ第2弾『機動戦士Ζガンダム』がスタートしました。再始動したガンダムシリーズの児童向け書籍は、どのような展開を見せていたのでしょうか?
『機動戦士Ζガンダム』の出版展開は講談社を中心に行われていました。とはいえ、当時は「OUT」(みのり書房)「アニメック」(ラポート)「アニメージュ」(徳間書店)「ジ・アニメ」(近代映画社)「マイアニメ」(秋田書店)の5誌に加え、1985年2月には「Newtype」(角川書店)も創刊されるという、アニメーション雑誌の黄金時代です。しかも『Ζガンダム』の注目度は相当に高く、6誌すべての雑誌の表紙を飾っています。
講談社はその群雄割拠の中で、独自のポジションに付いていました。一つは原作小説の出版と、もう一つが児童向けの展開です。
小説版『機動戦士Ζガンダム』は総監督の富野由悠季氏が執筆し、カバー及び総扉のイラストを永野護氏が担当しています。イラストが全て永野氏のオリジナルデザインで書かれていること、さらにTVと同時進行で続刊を発売するというリリース・スケジュールも相まって、当時はかなりの話題を集めました(現在は角川文庫に収録)。
そして、もう一方の児童向け展開が今回のテーマとなります。講談社の児童向け展開の中核雑誌は「コミックボンボン」でした。同誌は近藤和久氏によるマンガ連載と、当時絶大な人気を誇っていたプラモデルマンガ『プラモ狂四郎』(原作/クラフト団・マンガ/やまと虹一)を両軸に据えて、アニメ雑誌以上にマニアックかつ速報性の高い記事を満載した、ガンダムファンの必読書だったのです。筆者も当時は高校生でしたが、こっそり読んでおりました……(笑)。
「コミックボンボン」は小学生に向けた雑誌でしたが、より低年齢に向けた絵本も発売されています。こちらは「すごいぞ!機動戦士ガンダム」( 第2回で紹介)と同様に「たのしい幼稚園」編集部からの発売です。以前「たのしい幼稚園のテレビ絵本」と呼ばれていたシリーズは、「講談社のテレビ絵本」に仕切直されています。
さて、あのシリアスロボットアニメーションの極地とも言うべき『Ζガンダム』はどのように児童向けのアレンジが施されたのでしょうか?
<あらすじ>
ライラのガルバルディβ、ジェリドのハイザックが出撃するところから始まります。
わるものバスクたいさは、いつもきょうりょくなモビルスーツをつかって、ガンダム=マークIIをたおそうとしているぞ!(原文ママ)
そしてマークIIもアーガマを守るために応戦します。まずはハイザックをビーム・ライフルで撃墜、さらにガルバルディβをビーム・サーベルで真っ二つにしてしまいました。 そこへ援軍が到着。
「わたしもいっしょにたたかうぞ」シャアのそうじゅうするリックディアスは、ガンダムのたのもしいみかただ。(原文ママ)
マークIIは逃げ去ろうとするガルバルディβに背後からビーム・サーベルをお見舞いします。
がんばれ、ガンダム=マークII。ゆだんをするなリックディアス。ちからをあわせてたたかえ!(原文ママ)
▲「講談社のテレビ絵本27 機動戦士Ζガンダム たたかえ!ガンダム=マークII」は1985年5月23日発行。定価は330円だった。
▲まずはメインキャラクターが集合。本編ではついぞ再会することのなかった、ブライトとミライ夫妻の共演が貴重かもしれない。企画の時点ではエゥーゴに参加するはずだった、メズーン主将の姿もある。本書のセオリーとして、バスクは「わるもの」扱い。
▲やたらとフィーチャーされているガルバルディβ。百式も登場していないため、番組スタートとほぼ近接して編集作業が行われていたようだ。やはり、ここでも「わるもの」呼ばわりされている。
▲コロニー内(?)でガルバルディβを真っ二つにするマークII。作画スタッフは不明だが、絵のクオリティは全体的に安定している。
▲シャアのリックディアスも登場。クワトロ・バジーナの名前は当然出てこない。この絵だと地球連邦軍カラーのGMIIを率いているようにも見えるが……?
続いて第2集は真の主役モビルスーツ、Ζガンダムの登場を受けて発売されました。こちらはストーリーは特に存在せず、モビルスーツと名場面の紹介が主たる内容です。
▲「講談社のテレビ絵本39 機動戦士Ζガンダム ゼータガンダムしゅつどう!」は1985年9月10日発行。定価は330円。
▲「せいぎのためにたたかうぞ!」のネームも勇ましく、Ζガンダムが巻頭を飾っている。サブカットのアナハイムの製造工場(?)らしき絵も気になってしまう。
▲「ジェットきのようなかたちにへんけいする」(原文ママ)という記述から、なるべく専門用語を避けて、文章を簡潔にしようという試みが伺える。マークIIの紹介文で操縦者を「まえはカミーユだったが、いまはいろいろなひとがのる」と書いているのが興味深い。エマの専用機になることは決まっていなかったのだろうか?
▲田中愛望氏による名場面グラビア。ハイザックのやたらと人間的なポーズが面白い。
▲Ζガンダムと敵モビルスーツの大乱戦。リックディアスにわざわざ「みかたのモビルスーツ」と付け加えてあるのがおわかりだろうか。
▲絵本第2集の最終ページで、百式がようやく登場。これは1枚絵ではなく、マークIIと百式の活躍イラストに上田信氏(1/144スケール・ガンタンクの箱絵を描いたイラストレーター)のΖガンダムを組み合わせたものだ。
『Ζガンダム』関連の絵本は、いずれも映像と子供向けの間で、なんとかギリギリのバランスを保っているような感じでしょうか。作画がしっかりしているだけに、「わるものバスクたいさ」「ゆだんをするなリックディアス」などのフレーズが、むしろ強烈なインパクトとなって襲ってきます。
また、何よりも驚くのは「エゥーゴ」「ティターンズ」というキーワードがどこにも使用されていない点なのです。あくまで本書内での表現は「せいぎ」か「わるもの」に統一されていました。確かに『Ζガンダム』には難解な部分があるのも事実です。そんな危惧のもとに、味方と敵を明確にするための苦肉の策--それが所属部隊名のオミットだったのでしょう。
本項の締めくくりとして、講談社の『Ζガンダム』関連書籍で最も忘れ難い一冊を紹介しましょう。それは「コミックボンボン緊急増刊 機動戦士Ζガンダムを10倍楽しむ本」です。
これは本編がまだ1クールが終了する前に発売された、いわば作品のガイドブックでした。しかし、その記事内容は単なるエピソードの羅列ではなく、非常にグレードの高いものでした。表紙ではシルエットとなっているΖガンダムも本文には掲載されていて、これが商業誌では初公開だったのです。また、サイコガンダムも本書が初掲載となります。
表紙は大河原邦男氏、ピンナップは安彦良和氏、永野護氏によるもので、いずれも描き下ろしイラストを使用していました。それだけでも恐ろしく豪華ですが、特記すべきは永野氏のイラストにキュベレイが堂々と描かれているという点です。キュベレイの本編登場はその半年後ですから、どれだけ早すぎた情報かご理解いただけるかと思います。
この他、巻末特集として『MSV』(モビルスーツ・バリエーション)の記事を満載しており、現在見ることが困難な画稿も多数掲載されています。豪華スタッフの描き下ろしイラストから始まって、『Ζガンダム』のスクープ情報を満載、あまつさえ『MSV』の資料もまんべんなく見られるという満腹の一冊なのです。
▲「コミックボンボン緊急増刊 機動戦士Ζガンダムを10倍楽しむ本」は1985年5月30日発行。定価は480円。表紙は大河原氏によるガンダム、ガンダムマークII、中央はΖガンダム(シルエット)。
▲一般に初めて公開されたΖガンダム。ウェイブライダーのサイドアーマーの位置が若干異なるNG設定で掲載されていた。
▲サイコガンダムは村上克司氏の原案デザインで掲載。当時の読者は、この時点であの変形ギミックをまったく予想ができなかったはずだ。
▲幻の企画『MS-X』のモビルスーツも多数掲載。これだけでも一流の資料と言えるだろう。
本書の構成を担当したのは『MSV』『プラモ狂四郎』の生みの親である、安井尚志氏でした。安井氏のガンダムにおける功績はとてもここで書ききれるものではありませんが、この「コミックボンボン緊急増刊 機動戦士Ζガンダムを10倍楽しむ本」はそれを代表するものと言って良いのではないでしょうか。
(第6回/終)
五十嵐浩司(タルカス)
次回の更新は2008年 1月17日(木)17時予定です。
【プロフィール】
五十嵐浩司(いがらし・こうじ)
ファーストガンダムを朝6時から放送し、あまつさえ26話で打ち切った青森県で生まれ育つ。本業は編集者。
サンライズ作品関連では「ガンプラ・ジェネレーション」(講談社)、「蒼き流星SPTレイズナーコンプリートワークス」(新紀元社)、「ガンダムX」「バイファム」「トライダーG7」「ダイオージャ」「ゴウザウラー」「メタルジャック」「エクスカイザー」~「ダグオン」(以上、DVD解説書)などを手がける。最新作は「ライダーヒーロー大全」「トランスフォーマービジュアルワークス」(ともにミリオン出版)。
タルカス所属。
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